リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的106

翌朝。早朝、目が覚めたヒバリは起き上がる前に隣、正確に言えば自分の腕が触れている存在に目をやる。
布団を少し捲れば、すぅすぅ寝息を立ててすやすや眠るなまえがいた。警戒心の欠片も感じられない穏やかな寝顔を見たヒバリは小さく息を吐き、空いた手の甲でするりと頬を撫でる。しかしそれは触れるか触れないかくらいのもので、なまえは身動ぎすることなく眠り続けてる。
そんな彼女を起こさないように彼女の頭の下に置いていた腕を抜き、布団から出た。寝間着用の浴衣を脱いでふと、なまえの頭の重みにより圧され赤くなった腕を見る。昨夜、まだ意識がある状態でやろうとしたら全力で遠慮され、眠りが深くなってから腕を置いたのだが、それでも身動ぎする度にズレるのでそれを直して、と繰り返した。それを何度も繰り返していくと、諦めたようにうまくフィットする位置を見つけたらしく、そこから動くことはなかった。
この時代のなまえも、暮らし始めた頃はそうだった。ふ、と小さく笑って思い出す。
あの頃も自分が先に目覚めたが今とは違い起きることはせず、なまえが起きるのを待っていた。目覚めた途端飛び起きて、寝起きにもかかわらず勢いよく土下座されたのは昨日の事のように思い出せる。きっとここにいる彼女も同じことをするのだろう。

「ヒバリ、さん…?」

着替え終わり、部屋を出ようとすると背中から小さな声が聞こえた。振り返れば、まだ微睡みの中にいる様子のなまえがヒバリがいた布団の辺りに手を伸ばしている。そんなら彼女に笑を零し、ゆるりと近づいた。

「少し用があるから出掛けてくるよ。」
「ん…い、てらっしゃい…」
「うん。」

眠気が強いのだろうヒバリの返事を待たずにまた寝息を立てたなまえの頭をひと撫でし、今度こそ部屋を出た。先に控えていた草壁と共に隠し扉から地上へ出る。

「?どうされましたか?」

目的地へ向かう途中、ピタリと止まったヒバリに草壁が声をかけたが無言で返され、また足を進めた。
そういえば、慣れていなかったからとはいえ、名前の呼び方が戻っていた。
今朝のなまえをふと思い出し、先程立ち止まったのだ。
寝惚けていたとはいえ、昨日あれだけ訂正した呼び方が戻っているとは。今日も何度も練習させよう。
そう考えていれば目的地に着いた。道中敵に遭遇することなく辿り着けたその場所は、昨日なまえが飛ばされた場所、この時代でヒバリとなまえが暮らす家があった場所だ。

「恭さん?」

不思議そうにする草壁の声に答えず、ヒバリは瓦礫の中を一通り見て回り、やっぱり、と内心嘆息する。同時にふつふつと湧き上がる苛立ちに機嫌も悪くなるが、それはこの時代のなまえに対してであり、その当人は過去の彼女と入れ替わってしまっているので吐き出すことも出来ない。
待っててと言ったのに…
苛立ちのまま拳を握り締めたヒバリは暫くして力を抜き、1つ息を吐いた。そのタイミングを見計らっていたのか、後ろから草壁から声がかかる。

「黒川花から救援要請です!」

慌てる草壁をちら、と見たヒバリは自身の肩に止まっていた小さな小鳥に手を伸ばす。黄色く丸いその鳥は、過去からずっとヒバリに懐いているヒバードだ。ヒバリの手にぴょんと飛び乗り、ちょんちょん飛んで移動するヒバードを確認した草壁はヒバリの意図を汲み取り、分かりましたと頷いた。


ヒバリが並盛に来ていることも、過去からなまえが来て匿われていることも知らないくるみは、身体中から感じる激痛によって強制的に目が覚めていた。

「っ…はぁ…」

荒い息を繰り返し、飛び起きるようにして状態を起こしたくるみはなんとか痛みを緩和させようとリングを嵌め、炎を灯す。

「っ…」

途端ぐらりと傾く体を手を着いて支え、リングに灯された微弱な炎を全身に纏わせるようにリングを胸に当て、目を閉じる。少しして、痛みが和らぎ安堵の息を吐いたくるみはベッドから降りて寝巻き代わりとなっている病衣を脱いだ。
テキパキと包帯を全て取り換え、スーツに着替えると、簡単に化粧を施し鏡で問題ないか確認する。
傷はどこも開いておらず、血は出ていない。体中に感じる切り傷特有のチクチクとした痛みは少し気になる程度に抑えられた。顔色は悪くなく、怠さも感じない。

「よし!」

最後ににこりと笑って小さく声を出したちょうどその時、コンコンとドアがノックされる音がする。誰か確認する前にドア越しに聞こえた「俺、だけど…」と躊躇いがちに話す声は、酷く聞き馴染みのある声で、驚き目を丸くしたくるみは慌ててドアに駆け寄った。

「武、くん…」
「はよ。」

ドアを開け、対峙したのは案の定と言うべきか、想像していた通り山本で、10年前の姿でも充分くるみよりも背が高い彼は、ぎこちなさげに笑ってくるみを見下ろした。それに吃りながらも返したくるみは医務室で申し訳ないがと前置いて、入室を促した。山本は小さくお邪魔しますと言って部屋に1歩踏み入る。

「……………。」
「ごめんね!医務室だから、饗すお茶とか何にもなくてっ…!」
「あ、いや!全然………っ!」

取り繕うように笑って話すくるみに慌てて返した山本は、ふと逸らした視線の先に見えた物に気づいた。
ベッドのすぐ下に置かれていた、一見何の変哲もないステンレス製の蓋がペダル式開閉型のゴミ箱。偶に訪問する保健室でも見かける物だ。蓋が閉まった状態でそこにあるのは特に問題は無いが、入りきらなかったのか蓋に挟まれて飛び出しているきっと取り換えたばかりだろう血が着いている包帯。

「武、くん?」

思わず凝視してしまった山本はぼんやりとここに入るまでの事を思い出す。
実は山本、くるみの支度が終わる前、正確に言えば彼女が目が覚める直前にこの部屋に訪れていた。痛みで呻くくるみの声を聞き、すぐさま部屋に飛び込みそうになった山本だが、それは出来なかった。部屋に入ろうとした時、突然この時代に飛ばされてすぐ、リボーンから何が起こっているのか説明を受けた時のことを思い起こしたからだ。
リボーンから聞いた自身の父、剛が殺されたという話は事ある毎に思い出されて山本の心を掻き乱そうとする。
くるみの部屋に入るのを躊躇したのも、痛みに呻く彼女の姿を想像しただけで心がざわついたからだ。なんとか落ち着かせようと悶々とする自身を抑え込んで、漸く平生を取り戻せた山本が部屋に入れた頃にはくるみの支度が全て終わっていた。

「武、くん!」
「!あ、わ、わりぃ。」

部屋に入ってからずっと黙り込む山本を不思議に思ったくるみが強く呼びかければ漸く気づいたようで、ハッとした山本はくるみに視線を戻した。くるみは心配そうに眉を下げて山本を見上げており、先程まで山本が見ていた所に目を向けようとしたが、その前に山本が滑り込み、誤魔化した。驚いたくるみは目を丸くするも、特に深く聞くことはせず、どうしたの?と用件を尋ねてきた。それに山本はあと言葉を濁し、視線を彷徨わせながら頬を指で掻く。

「あの、さ…」
「うん?」
「その………昨日の話、気になって…」
「昨日?」

首を傾げるくるみに山本は意を決したように頷き、「炎を使ったら怪我をするって…」と言えば、くるみは漸く分かったようで目を見開き息を呑んだ。しかしくるみは昨日以上に詳しく話すつもりは今のところない。それを示すように目を伏せ、どうすべきかと考える。
というのも、彼女はこの後の事を詳しく覚えていないながらも知っている。この後山本がどう行動するのか、そしてどうしてそうなったのか。前世の頃大好きで何度も読み返したからこそ、その場面だけまだ今も覚えている。理由が痛いほど分かるからこそ、山本の負担を考えると話すことは出来ない。
それをどう伝えようか、考えながらひとまず何か言わなければと口を開いた時だった。

ヴーッヴーッ

「「!」」

突如鳴り響くけたたましいブザー音。驚いたがすぐに何かあったと考えついた2人は険しい表情で頷き合い、ジャンニーニやリボーンがいるだろうコントロールルームへ向かった。

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