リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的104

由良とくるみが無事に炎を灯し、安堵していた頃から凡そ10年後。
並盛町地下に建設された広大な施設のある一室。そこには由良やくるみの心配を露とも知らず、未来のヒバリに無事保護され、手当てまでされたなまえが酷く困惑した様子で座り込んでいた。対峙するのは保護した張本人のヒバリで、なまえの様子に気づいているだろうに気にすることなく淡々と話を進めていった。

「分かった?」
「えっ………えっ?」

漸く話し終えたヒバリは何故かなまえに内容が理解出来たかの確認を取ったが、なまえはそれに答える余裕がないほど混乱しており、やっと返せたのは非常に困惑した声だけだった。対するヒバリは、分かったなら僕が言ったこと一言一句違わず言ってみてと無茶振りをしだし、なまえは更に混乱し泣きそうになった。
なまえがここまで困惑し、更に泣きそうになっているのには理由がある。
ヒバリが真剣な表情、雰囲気でしっかり聞けといった話が今のなまえが聞いていいものではなかったのだ。厳密に言えば、なまえが知っているとは思われていない為リボーンが意図的に聞かせないようにしていたものであったのだが、つまりヒバリはなまえが今まで知らないフリをして隠し通さなければならなかった話をしていたのだ。更にヒバリはリボーンですら知らない、この時代で起こっていること、これから起こること、それらのほぼ全てに自分が関わっており、計画していたのだと打ち明け、余計なまえは混乱した。
そんな状態でヒバリが話した内容全て一言一句違わずに話すなど不可能である。案の定最初に何を話していたのか覚えていない(というより意図的に忘れようとして聞かないようにしていた)ので恐る恐る話し始める。

「え、と…ま、まず、ツナくんが…」
「違う。最初に話したのは沢田綱吉の事じゃないよ。」
「っ…す、すみませんっ…」

ヒバリに指摘され、縮こまって謝るなまえを見てヒバリは気づかれないように小さく笑んだ。しかしすぐに表情を戻し、もう一度説明するからちゃんと覚えるんだよと言って話し始める。

「まずここはなまえがいた時から約10年後の並盛だ。ここは僕が作らせた地下拠点。今僕は風紀財団という組織をまとめていてね、そのアジトと思ってもらえればいいよ。なまえがいたのは地上にあった僕の家だ。この時代の君は、僕の家で暮らしている。」

ここまで言ったこと、繰り返して。ヒバリは一度言葉を切るとなまえにそう言い、なまえは力なく頷いて口を開いた。

「え、と…ま、まず、ここは、私がいた時から、10年くらい経っていて…ここは、ヒバリさんが作った地下のアジト、で…」
「恭弥。」
「えっ…?」

一つ一つ整理しながら話していたなまえの言葉を遮って、ヒバリは指摘するかのように声を上げる。話を止められたなまえは戸惑いながらヒバリを見れば、不機嫌そうにむすりと顔を顰めていた。それにビクつき、怒らせてしまった、何かしてしまったのだろうか、と思ったなまえが恐る恐るあの、と声をかける。

「この時代の君は僕のことを雲雀と呼ばず名前で呼んでいたんだ。同じ雲雀姓だから呼んだところで意味がないからね。だから君も名前で呼んで。」
「えっ………あ、えっ!?」

とんでもない爆弾が投下され、なまえはすぐに理解出来ず、反応も遅れてしまった。 しかしヒバリを見る限り冗談ではない(というか嘘をつく理由もない)ようで、なまえは更に困惑する。
何故自分はヒバリと同じ苗字になっているのだろうか。そうする必要性があったのだろうか。それは一体何故なのか。分からない事だらけである。
ヒバリが先程話してみるよう言った内容は頭からすっかり抜けてしまい、なまえは戸惑いつつもあの、とヒバリに声をかける。

「わ、私、ヒバリさ………き、恭弥、さん、と…同じ、苗字なんですか?」
「うん。」
「え、えっと…どうして、そうなったのか、理由とか、聞いても、いいですか…?」
「必要だったから。」
「あ…そ、そう、なんですか…」

ありがとうございます。小さく言ったなまえはこれ以上聞けず、俯いた。
ヒバリと呼ぼうとした際、無言で睨まれ咄嗟に言い直したが、また呼んでしまいそうで、もっと理由の詳しい内容を聞きたいと思ったのだが、これ以上はなまえの気力が尽きてしまう。察して黙り込んだなまえに、ヒバリは続きを話すよう促し、咄嗟に顔を上げ反応したなまえはひとまず終わらせてしまわなければ…!と口を開いた。

「え、と………あ!わ、私がいた場所は、ヒバリさっ……き、恭弥さん、の家で、この時代、では、私はそのお家に置かせてもらって、る状態です…?」
「住んでるんだよ。」
「す、住んでます…!」

ヒバリの鋭い指摘に慌てて返したなまえに、まあいいかと息を吐いたヒバリは続きを話す。

「10年前、君が乱入して巻き込まれた指輪を巡る戦いがあっただろう。それは、イタリアンマフィア、ボンゴレファミリーの正当な後継者を決める為に行われたもので、勝利した沢田綱吉は今ではボンゴレ10代目として動いていた。」
「っ……じ、10年前、私が乱入したり、巻き込まれたりした戦いは…マフィアの、ぼ、ボンゴレファミリーの、後継者を決める為のもので、ツナくんはそれに勝って、この時代では、10代目として、働いて?ましたっ…」

ヒバリが一度言葉を切って促すような視線を送るので、慌てて話せばその対応は正解だったようでうんと頷いた。

「その沢田綱吉が先日殺された。殺したのはさっき君を襲おうとしたミルフィオーレファミリーのボス、白蘭。白蘭はボンゴレファミリーの人間だけでなく、関わりのあった一般人にも手を出していて、この時代の君も狙われた。」
「え、と…この時代のツナくんが、白蘭、て人に殺され、て…その人は、ボンゴレに関わりのあった一般人も手を出していて、私も、その関係で狙われて、ました…?」

先程と同じように話したなまえに頷いたヒバリはただし、と言葉を続けた。

「沢田綱吉は完全に死んだ訳ではなく、仮死状態で日本に運ばれた。そして今は、君と同じように過去の彼と入れ替わってここにいる。」
「えっ…」

困惑するなまえに早く話すようヒバリは促すが、流石にこれ以上は聞いてはいけないのでは、と思い待ったをかけた。

「あのっ、その話、私が聞いちゃいけないんじゃ…」
「それは赤ん坊の考えだろう。僕は僕の判断で君に話している。僕が話すべきだと思ったから話すんだ。赤ん坊の意見は関係ないね。」

なまえの心配を他所にヒバリはなんの問題もないとでも言うように返し、余計困惑したなまえはでも、と続ける。

「でもっ…私、何も分かってないのに、中途半端に関わっても…」
「なまえ。」
「っ…」

今まで淡々と、静かに話していた声が、急に柔らかみを帯びたものに変わる。

「僕が怪我をしたら、なまえはどう思う?」
「?い、嫌です。凄い痛そうだし、怖い、です…」
「それが分かっていれば問題ないよ。充分分かってる。」
「っ………でもっ…!」
「続けるよ。」

なまえの答えに満足そうに頷いたヒバリはなまえの言葉を聞き入れることなく更に話を進めていく。

「沢田綱吉が仮死状態なのは、沢田綱吉が殺されるだろうことを予測していたから。過去の彼がここにいると分かるのは、本人から聞いたから。君はもう知っているだろうけれど、僕は沢田綱吉とこの件に関しての計画を共有している。だから君を保護出来たし、今の状況を君に説明出来ている。」
「あ、あのっ…ヒバリさんっ!」
「恭弥。」
「っ……き、恭弥さんっ…ちょ、ちょっと待ってください…!」

一気に困惑したまま話されて、理解が追いついていない様子のなまえに言われ、素直に待つヒバリは腕を組み、必死に考えようとするなまえを観察し、内心成功したと喜んでいた。
そもそも何故ヒバリが未来での壮大な計画まで全て暴露したのかといえば、なまえの逃げ道を無くすためである。
ここにいるなまえより少し成長した頃、なまえは今のように、聞くべきでないとされている話は聞かないようにしていた。何かあっても知らないフリをして自分は無関係だと振舞っていた。それはヒバリが己のなまえに対する気持ちに気づき、傍に置こうとした時も同じだった。
知らない、関係の無いことだから自分が必要だと考えないのだ。更に言えば、なまえはヒバリが自分に向ける感情について非常に鈍く(というよりもあり得ないと考えていたせいでその考え自体彼女の頭には存在していなかった)、そのせいでヒバリが自分を傍に置くメリットがないのだからと本人にそのつもりはなくともヒバリから離れようとしていた。
当然ヒバリはそれを良しとせず、外堀を埋めるかのようにあれやこれやと手を尽くした。こうして知らないフリが出来ないよう完全に内容を記憶させることも何度もしたし、姓を同じものにしたのもその為だ。法で縛られればいくらなんでも逃げられないだろうと考えた末に行なった事だった。同棲を始めたのも籍を入れてすぐ、同じ籍だからと理由付ければ疑うこともせずに従ったのはヒバリからすればもう随分前の事である。

「あ、あの…」

そこまで思い出したところで少し整理出来たのかなまえから声がかかり、見ればまだ困惑した表情を浮かべつつも先程よりも落ち着いた様子でこちらを伺っていた。

「もういいの?」
「あっ…え、と……はい…」

頷いたなまえにそうと返したヒバリは、並盛を離れる前のことを思い出し、遠くを見るように少し目を細めた。そんなヒバリになまえが不思議そうに見ると、君はとヒバリから声がかかる。

「君は、僕との約束を破ったんだ。」
「!えっ…」

そんな馬鹿な。
なまえは驚いてヒバリを見るが、ヒバリは嘘ではないと言うように続ける。

「この時代の君にも、僕の計画については話していた。君は理解していたし、並盛を離れる前に何度も確認していた。にもかかわらず、君は約束を破り、死んだ。」
「そ、れは…」

自分から死んだのではなく、殺されたのだから仕方がないのでは?
そう思ったが、とても言える雰囲気でもないのでなまえは疑問を抱えながらも口にはしなかった。しかし、次のヒバリの言葉でようやく理解した。

「君も言っていたけど、この時代の君は、タダで死なないと言って死んだんだろうね。僕が来るまで逃げる事もせずに。」
「あっ…」

ヒバリに言われて、思い返す。
そう言えば、自分が飛ばされたのは未来の自分が住んでいた家の中だ。
何故か中は酷く崩壊していたが、それでも確かにヒバリが言うように、逃げれば良かったのにそうしなかった。勿論出来なかったかもしれないという可能性もあるが、なまえは戦えずとも限られた人間しか触れられない雪のボンゴレリングに触ることが出来る。それを理由に、ヒバリが来るまで少しでも時間を稼げたはずだ。
しかしきっと、自分はそうしなかったのだろう。あの時見つけた手紙が何故か頭を過り、きっとあれは、死ぬ直前に書いたものだろうと自然と考えついていた。そう思うと、ヒバリが約束を破ったというのも理解出来る。
ヒバリへの申し訳なさになんと声をかければいいのか分からず、俯いたままちらりと目線だけ寄越せば、ヒバリはよく分からない表情をしていた。今何を考えているのか、表情からはちっとも読み取れなかった。

「計画が無事終わるまで、君はここにいるように。間違ってもボンゴレの方には行かないでね。」
「は、い…」

通常であればヒバリの言いつけは疑問に持つようなものだったが、ヒバリへの罪悪感があったなまえは素直に従うことしか考えられなかった。ヒバリはそんな彼女の頭を撫で、部屋に案内すると言って立ち上がった。

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -