リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的103

なまえが未来でヒバリに保護される頃より時は少し遡り、凡そ10年前のなまえが向かおうとしていたくるみの家では、由良とくるみが死ぬ気の炎を灯す特訓に取りかかっていた。しかし2人は壁を背に座り込み、辺りに漂う雰囲気は酷くどんよりとしたもので、汗だくになり荒い息を繰り返し黙り込んでいる顔はどこか暗い。
少しして息が整ってきたところでギリ、と由良は歯軋りをして手に持っていた物を握り振りかぶろうとして、ゆるゆると腕を下ろした。諦めたように開いた手の上に乗っているのは半分になったリングがキラリと光っている。

「難しいね…」

隣からそんな言葉が聞こえ目をやれば、体育座りで同じように両手の上にリングを乗せてぼんやりと見つめているくるみがいた。由良ははぁ、と一つ息を吐くと恨みがましくリングを睨みつける。

「そもそもこのリングの使い方が分からない限り、どうにもならないと思うんだけど。」
「そうだねぇ…」

由良の言葉に苦笑して返したくるみは目を伏せて考え込む。
2人がここまで疲れているのは勿論特訓の為だが、それは決して順調に進んでいるものではなく、残念ながら特訓は難航していた。くるみの持つ原作の知識と、由良がリング戦に備えたツナの修業に付き合った際にリボーンや家光が話していた死ぬ気の炎のコントロールの話から、どのようにしてリングに炎を灯し、また戦いに応用するのかという知識はあった。しかし、知っているからと言ってそれを実際に出来るかどうかはまた別問題であり、結論として2人は特訓を始めてから今の今までまだ一度もリングに炎を灯せていなかった。
死ぬ気弾で強制的にとはいえ死ぬ気の炎を灯すツナは元より、獄寺や山本、ヒバリに了平まで、すぐにリングに炎を灯せていたのに、どうして出来ないのか。思いつく限りの原因を解消するためにあれこれと手を尽くしていたが、気力だけでなく体力も使い切ってしまい、今は休憩にしようと言って休んでいる。それでも2人が考えるのは何故炎が灯せないのかについてであり、その解決策は未だはっきりとしない。
このままでは頭がパンクしてしまうと思った由良は一旦整理しようと言って、くるみの前に座る。

「まずリングに炎を灯すには覚悟が必要なんだよね?」
「うん。生半可なものじゃダメだし、考え過ぎるのもダメだから、最初に思いついたことにしようって決めたよね。」

特訓を始めるにあたり、まず必要なのは炎を灯すこと。
死ぬ気の炎を灯すには覚悟が必要というのは何度か聞いており、それは絶対であったので、ひとまず自分の覚悟はどんなものなのか、それぞれ考えることにした。しかし原作の流れや所々の細かい部分を覚えていたくるみが、ツナが難しいことを考えてしまったせいで炎が出なかったことを思い出し、よりシンプルに、一番最初に思いついたことにしようと提案し、2人ともパッと思いついたことをメモに書いて覚えるようにした。
次に行ったのは互いが持つ半分になったリングを一つにすること。カチリと一つになったリングを1人何分と時間を決めて指に嵌め、最初に思いついた覚悟を炎にするイメージでそれぞれ力を込める。
今は由良がそれを行っているが、炎が出る様子もなく、無意識に力んでしまうからか体力だけが削られていく。

「っ………あっ!」
「あっ!」

やがてリングはフルフルと振動し始め、遂にはバチッと大きな音を立てて分裂し、もの凄いスピードで片方がくるみの元に、もう片方は由良の指からスルスルと離れ、手の甲にふわりと着地した。その様子に2人とも脱力したような、諦めたように溜め息を吐いた。

「なんだって言うのよ…」
「なんでこんなに頑なに拒むんだろうね…」

まるで使い方が違うとでも言うように動くリングに2人は困惑する。由良は顔を思い切り顰めてリングを睨みつけ、くるみは困ったように眉を下げてリングを見つめる。しかしどちらの手にもあるリングはうんともすんとも言わず、動くこともせずしんとしている。
このリングのせいで、特訓は全くと言っていいほど進まず、解決策もないため八方塞がりだった。

「はぁ…今日はもうやめよう。行き詰まったらいい案浮かぶ訳ないし。」
「そうだね。もしかしたら明日飛ばされたり、炎出せたりしちゃうかもしれないもんね!」

なんとか元気づけようと明るく振る舞うくるみにそうだね、と返した由良は家族に今から帰ると連絡するためスマートフォンを取り出し、手を止める。トークアプリのなまえ、くるみ、由良だけが入っているグループトークに一件メッセージがあったのだ。送り主はなまえからで、確認しようとグループトーク画面を開いて目を見張る。

「くるみ!すぐにトークアプリ開いて!」
「えっ?」
「なまえから変な連絡来てる!」
「!分かった!」

様子が一変した由良に驚いたくるみだが、すぐに原因を理解しトークアプリを開く。そして同じように目を見張る。

「これ…」
「くるみの方も同じっぽいね…」

由良とくるみが開いたトークアプリの画面には、なまえから送られてきたメッセージが表示されていた。しかし、それは記号や旧漢字、アルファベット等の羅列ばかりで、とても読めたものではなかった。それだけでなく、なまえからメッセージが送られてきた時間の表記も99:99と明らかにおかしい数字が表示されており、更にはそのメッセージ自体が1秒毎に上に下に移動している。
何かのバグかとも考えたが、問題が起きているのはなまえから送られた1番最近のメッセージのみ。試しに互いにスタンプやメッセージを送ったが何も起きなかった。それを受けて2人は顔を見合わせる。

「これって…」
「まさかとは思うけど…」

飛ばされた?
2人の声が揃い、由良は呆れたように溜め息を吐き、くるみは苦笑を零した。そして真剣な顔で頷き合った。
なまえが恐らく未来に飛ばされたとして、未来の自分たちが何処にいるのかも分からないし、なまえが何処にいるのかも分からない。不明点が多すぎる。更になまえが本当に未来に飛ばされたのか、もしかしたら別の例えば誘拐であったり拉致といった可能性も捨てきれない。しかし自分達も必ず飛ばされるだろうし、もし誘拐等であったとしても、死ぬ気の炎をマスターするのは必須だ。
今日はやめようと話していた2人だが、なまえからのメッセージに再びやる気を取り戻す。2人の心にあるのはなまえを助けたいという強い思いだ。

「今度はリングこのままにしてやってみよう。」
「そうだね!」

由良の提案に力強く頷いたくるみは半分になったリングを右手中指に嵌める。同じタイミングで由良もリングを嵌め、2人同時にリングに炎を灯すイメージを思い浮かべながら力を込める。

「!」
「できた…!」

すると、ボウッとそれぞれのリングに炎が灯り、ゆらゆらと揺れている。驚き目を見開く由良、嬉しそうに声を上げるくるみは少しした後、お互いの顔を見合ってホッと安堵の息を吐いた。

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