リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的102

これは一体どういう事だろうか。
草壁は、スタスタと前を歩くヒバリの後を追いながら困惑していた。

「あ、あのっ、ヒバリさんっ…?」
「それ、まだ取らないで。僕がいいって言うまでそのままでいるんだよ。」
「は、はい…」

困惑する草壁に反して、その原因の一端でもあるヒバリは今し方己が助け出し、自身のアジトへ安全に運ぶ為に抱えているなまえと一言二言の会話を繰り広げている。
その光景に再びどういうことだと頭を抱えたくなる。
そもそも、自分がヒバリと今ここにいるのはつい先日、なまえがミルフィオーレファミリーに殺されたと報せを受けたからだ。報せを受け、すぐにヒバリに伝えるとヒバリは予定を早く切り上げ急いで並盛に向かうと言ってきた。勿論それは草壁も予想していた事だったので早急に日本へ帰国する手配をし、つい先程到着したばかりだった。ヒバリは迷うことなくなまえが殺されたとされる家に向かえばそこにいたのは今よりも随分幼く、また懐かしい制服に身を包んだなまえと彼女を襲おうとする敵の姿。草壁が状況を理解するより早くヒバリがすぐ様飛んでいき、一瞬のうちに自分のジャケットをなまえにかけ、敵を一掃したのだ。
倒した敵はそのまま放置しても良かったのだが、ヒバリはなまえにジャケットを被せたままアジトに向かうようで、無言でなまえを抱えて歩き出した。というのも、なまえは例え事後であっても死体や大量の血などを見るのは未だ慣れておらず、もしこのまま見てしまえばパニックになってしまい、精神的に負担がかかると判断した為だ。しかし当然ヒバリの考えも状況も理解できないなまえは戸惑い、抵抗した。だが、自分を抱えているのがヒバリと分かると途端大人しくなり、そうしているうちに3人は無事アジトに到着した。

「哲、救急箱。」
「へい。」

アジトの一室に入るや否や、ヒバリは草壁に指示を出し、困惑するなまえをそっと畳に下ろす。ジャケットを被せる前に見た彼女の手や膝に擦り傷があったので、まずはその手当てをしなければ。そう思いながら、ヒバリは草壁が救急箱を持ってくるまでにジャケットを取ろうと、なまえに声をかける。

「なまえ。これ取るよ。」
「!は、はいっ…」

突然声をかけられたなまえは一度体をビクつかせ、震えた声で答えた。ヒバリは無言で、だがなまえの目が部屋の明るさに慣れるようにゆっくりジャケットを取る。
ジャケットが取られ、暫く周りの明るさに何度も瞬きを繰り返して目を慣らせ、漸く落ち着いたなまえの目に、1人の男が映る。
黒い髪、鋭い瞳、白い肌、そしてその肌が映えるような濃い紫色のYシャツに黒いネクタイをした10年後のヒバリだ。自分が知る姿とは異なる、成長しより落ち着いて更に大人っぽい雰囲気になった彼を前に、自然と顔に熱が集まり、直視出来ずに俯いた。ヒバリはそんな彼女の様子に柔らかく目を細める。

「恭さん、救急箱です。」
「うん。なまえ、手当てするから触るよ。」
「!」

ガバリと顔を上げたなまえは、しかしすぐにヒバリの瞳と目が合い、俯いた。それでもなまえは無意識に制服の胸元を掴んでいた手を離すことも、怪我の部分が当たらないようにしながら膝を曲げて座っている体勢も直すことをしなかった。いや、出来なかった。
夏祭りの時に訳も分からずヒバリから手当てに近いものを受けた事があるが、その時は素肌が触れられているという感覚をダイレクトに感じ、非常に恥ずかしく、また非常に苦しかった。大好きな人に自分なんぞの手当てをさせる訳にはいかないし、触られているという経験はもうしたくない。思い返したからか、余計顔を赤くし、まるで泣きそうな時のように息を詰まらせながらもなんとか声を振り絞る。

「あ、あのっ…!て、手当て、くらいっ、じ、自分で、出来る、のでっ…だ、大丈夫、ですっ…!」

顔を上げることは出来なかったが、それでもなんとか言葉にして言えたなまえは言えたことへの達成感にホッと息を吐いた。

「君、手際良くないだろ。僕がやった方が早いよ。」
「えっ!?」

もう一度顔を上げ、今度は俯くことなく焦りと困惑が混じった表情でヒバリを見上げる。ヒバリはなまえの様子を見てふ、と微かに頬を緩めると、救急箱から消毒液やピンセット、綿等を取り出していく。ヒバリの表情の変化に気づかないなまえは戸惑いながらで、でもっ!と慌てて待ったをかける。しかしヒバリは聞き入れることなく、なまえの頭に優しくポンと手を置いた。

「僕は僕がしたい事をするんだ。例え君でも、こればかりは譲れないな。」
「っ…………」

ヒバリの言葉に返すことが出来ず詰まるなまえは息を呑み、暫く視線を忙しなく動かしてから小さくお願いしますといって体勢を崩した。ヒバリはうんと頷いて手当てを進めていく。その間、なまえは頭の中で素数を数えたり羊を数えたりして、なるべくヒバリに触れられていることを考えないようにしていた。真っ赤になっているなまえに対し、ヒバリは非常に落ち着いており、淡々と手を進めていく。

「なまえ、手を見せて。あと息して。」
「っはっ…はぃ…」

足の手当てが済んだヒバリは、いつの間にか息を止めて居いたなまえに声をかける。なまえですら無意識でしていたことにようやっと気づいたところだったのだが、ヒバリは驚いた様子も何も無く、見せられた手を隅々まで確認しながら消毒と必要ならば手当てをしていく。
足と比べてそれ程恥ずかしさを感じなかったなまえは顔は見れずとも、ヒバリに手当てをされる自分の手をぼんやりと眺めながらあれ?と内心首を傾げる。ここに至るまで色々ありすぎて漸く気づけた事だが、目の前にいるヒバリは自分の事をフルネームではなく名前で呼んでいる。どうして呼び方が変わっているのだろうか。なまえとしては今のフルネームで呼ばれる方が好みなのだが、名前で呼ばなければならない理由があったのだろうか。まさかとは思うが、未来の自分が望んだのだろうか。もしそうだとしたら処刑ものである。
悶々と険しい顔で考えているなまえに終わったよと声がかかり、ハッとする。見上げればこちらを無表情で見下ろすヒバリがいて、その眼差しは非常に柔らかく、優しいものだった。しかしそれに気づかないなまえは慌てて手を引っ込めつつありがとうございます!と頭を下げた。ヒバリは特に気にした様子もなく草壁に救急箱を渡し、下がるように言うと、なまえと向き合った。

「今から話す事はきっと知っているだろうけど全て大事な事だから、よく聞いて。」
「は、はいっ…!」

真剣な表情、雰囲気のヒバリに圧されながらも頷いたなまえは姿勢を正してヒバリからの話を聞くこととなった。

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