リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的101

未来での戦いに備えて特訓する由良とくるみの様子を見に行こうと思い立ち、差し入れも持って行こうとコンビニに寄ろうと足を進めた途端背中に強い衝撃を受けたと思ったらあっという間に煙に包まれた。まるでジェットコースターで頂上から急降下する時のような感覚の後、先程までアスファルトの安定した路の上にいたはずなのに急に砂利道のような凸凹した足場の悪い場所に変わり、バランスを崩して座り込んでしまった。声なき悲鳴を上げたなまえは段々晴れていく煙から見える景色に目を白黒させ、困惑のまま呟いた。

「ここ、どこ…?」

煙に包まれる前は夕陽に照らされてオレンジ色に染まった住宅街だったはずの場所は、今は何故か体育館のような大きさの建物のほとんどが枠組みだけとなって瓦礫だらけの状態に変わっている。天井すらない空から降り注ぐのは夕陽ではなく昼間見る明るい太陽で、見上げれば青空が広がっている。戸惑うまま放心状態となっていればじわじわと体温が上昇するのを感じ、自覚した途端まるで夏のような暑さを感じる。
思わずはぁ、と息を吐いたなまえは暑さからか、それとも突然変わった景色にからかこめかみに伝う汗を拭い、キョロキョロと辺りを見渡した。しかしいくら目を凝らしても見えるのは変わらず瓦礫まみれの地面に、建物の枠組みがなんとか元の建物の形を教えるように残っている状態で、ここが何処なのか、何故自分がこんな所にいるのかも分からない。が、原因には心当たりがある。

「絶対私狙ってたよね…」

色々と分からないなりに、無事だったスクールバッグからスマートフォンを取り出し、トークアプリを開いてメッセージを入れる。内容は一言、飛ばされたという言葉のみ。送信ボタンを押して暫く読み込んだ後、失敗したとメッセージが表示され画面左上を見れば圏外の文字。

「終わったぁー…」

自分が送るつもりだったメッセージが送れないと分かり、兎に角ここが何処なのか確かめなければと立ち上がる。
通常ならテンパってどうしようと焦るなまえだが、今回は冷静に対処出来ていた。というのも、自分の置かれている状況に心当たりがあり過ぎるからだ。煙と自分がいた場所が突然変わる現象、それはこの世界で、更に現在の展開的に十中八九10年バズーカのせいだろう。飛ばされるまでまさか自分が飛ばされることは無いだろうと高を括っていたなまえだったが、どうやらアテは外れたらしく、今こうして飛ばされてしまっていた。きっと未来の自分が海外にいるなんてことは無いだろうが、日本のどこにいるのかは分からないので、正確な地名を知るために今こうして確かめようと動いていたのだ。
足場の悪い瓦礫の山を注意して歩き、まずは建物内の確認から始める。
どうやら崩壊が酷いのは先程まで自分がいた場所だったようで、他の部屋らしき場所は部分的に原型が残されてある。まだ崩れていない丈夫な柱を支えに、瓦礫を避けつつ部屋を見て回る。

「和室多いな…」

見る所見る所、畳や障子といった和室特有の物がボロボロの状態で散乱している。どれも焦げついた跡のようなものがあり、時には真っ黒になっている物もあった。
一体どうしたらそんな状態になるのか。想像もつかないことを考えながら足を進めていく。

「だっ…!わっ、あっ…!」

足元をよく見ていなかったからか、瓦礫の破片に足が引っかかり、盛大に転んでしまった。運の悪いことに手をついて衝撃を抑えようとしたが、手をついた場所が瓦礫が重なって偶然バランス良く平に保たれていた状態だったようで、手をついた拍子にズルっと滑って終いには倒れてしまった。

「最悪…」

今度は殊更気をつけて手をついて起き上がったなまえだが、瓦礫の破片で擦ったのか頬に擦り傷が出来ており、腕や膝も擦りむいたようなヒリヒリとした痛みを感じる。立ち上がる気力も起きず、ぎこちない動きで近くに落としてしまったスクールバッグを拾う。
と、スクールバッグの下に何か紙のような物があることに気づく。スクールバッグを側に置き、瓦礫を退けて拾い上げる。

「?手紙…?」

白いシンプルな封筒に、しっかり便箋が入っているらしいそれは見た目からして手紙で、読むつもりは無かったのだが見えてしまった宛名の末尾に「へ」と書かれてある。住所も何も無く、真ん中に名前のみ書かれているところを見ると、直接手渡した物のようだ。しかしその予想とは裏腹に、封筒の封は開けられておらず、もしかしたら読む前か、それともまだ渡していなかったのかもしれない。
くるりと裏返して、差出人を確認した。その瞬間、目を見開いた。

「私の、名前…?」

封筒裏面の右下に小さく自分の名前が書いてあった。自分の字は自分が一番分かっている。更に名前ともなれば事ある事に書くから間違いようもない。確かにここに書いてある自分の名前を書いたのは自分で、きっと未来の自分が書いたものだろう。が、差出人が分かった途端なまえは思い切り顔を顰めた。

「調子乗りすぎ。何考えてんの気持ち悪…」

心底嫌そうな顔、声色で言ったなまえは手紙をスクールバッグの中に雑に突っ込んで隠した。
彼女がここまで言うのには理由がある。それは未来のなまえが書いた手紙の宛名が原因だった。未来のなまえが宛てた手紙はヒバリ宛の物だったのだが、宛名の書き方が名前だけだったのだ。正確に言えば「恭弥さんへ」と書いてあったのだが、問題はそこではない。さんづけをしていようといまいと、例え未来でどう変化したとしても推しを勝手に名前で呼ぶのはどういうことなのか、更には手紙まで送るとはどういうつもりなのか。未来の自分の軽率な行動に嫌悪していたのである。
なまえの性格からして、名前呼びを許されなければしないだろうが、何を勘違いしているのか自分にとって一番大切な人に向けて送る手紙の出し方としてあまりに不適切であるし、それを良しとした未来の自分が腹立たしく思えて仕方がない。未来がどうなっていようと、自分の立場は分かっているはずなのにこれは調子に乗っているとしか言いようがない。未来の自分はもっと立場を弁えるべきである。こんな物がもしヒバリに見つかったりでもしたら、と考えたところでぶるりと震えた。とんでもない事態である。頃合いを見て破り捨てよう。

「いたぞ!」
「!」

そこまで考えたところで上空から鋭い声が聞こえ、肩をビクつかせる。なんだと見上げればそこにいたのは空中に浮いている複数の人。足には赤や緑、青といった様々な色の炎がまるでロケットのように噴射されていて、手には鎌や銃など、多種多様の武器が握られている。その事実に、詳しい事情は知らずとも命の危険くらいは察せられた。
ひゅっ、と息を呑み、体が硬直する。勝手に震え出す体を必死に奮い立たせ、力を込めるが、立ち上がることが出来ない。
逃げないと…!

「間違いない。雲雀なまえだ。」
「っ…………。」

ふと聞こえた名前に違和感を覚えるが、そんなことを考えている余裕はない。焦りと恐怖で息が上がり、涙が浮かんでくる。
その間にも、上空から声がかかる。

「悪く思うなよ。上からの命令なんでな。」
「大人しくしてろよ……!」
「ひっ…!」

一体何をされるのか、すぐに想像がついて短い悲鳴を上げたなまえがなんとか立ち上がる前に突然何かを頭から被せられ、目の前が真っ暗になる。

「ぎゃあああ!」
「!」

突然どうしたのかと目を白黒させていると、上から複数の悲鳴とブシャアッという鈍い音が聞こえ、肩をビクつかせる。しかしそれは一瞬で、次に聞こえたのは何かがぶつかる音。
一体何が起きているのか。確認しようと被せられた物をとろうとモゾモゾと動いているなまえのすぐ近くでジャリ、と踏みしめる音が聞こえ、動きを止める。

「!」

するとなまえの体はいきなりぐん、と宙に浮き、コツコツという革靴が地面を叩く音に合わせてどこかに移動させられていく。
真っ暗な中、訳も分からずどこかに連れていかれそうになっている状況に怖くなったなまえは震える体になんとか力を込めて、近くにあるだろう人物の体を目一杯押した。その瞬間、ピタリと止まり、こちらを見下ろすような気配を感じた。相手に見られていると分かり怯んだが、今はそれどころではないと今度は拳を作って弱々しくも力一杯叩く。効果音としてはポスポスと言うような軽い物だが、それでもなまえは必死に力を込めて叩き、加えて震える口を開いて、叫ぶ。

「は、放してっ…!放してっ…!」

なまえの抵抗は全く効いておらず、更にはなまえを抱える手に力が込められ、それを感じたなまえは体をビクつかせ、恐怖が増していくばかり。遂には恐怖の余り泣きながら、それでもなんとか抵抗しようとジタバタと暴れる。

「放してっ…!放してよぉっ…!わ、私を殺したって、どうにもならないんだからっ!こ、殺されたって、タダじゃ死んでやらないんだからっ!殺せるもんなら殺してみればいいでしょぉっ!」

ふ、と頭上から息を吐く音が聞こえ、同時にこれまで張り詰めていた硬い空気が柔らかいものに変わる。変化に気づいたなまえは油断させる為の罠かと体を強ばらせ、身構えるがいくら待てども何もされない。戸惑い、体を少し弛緩させた時だった。

「なまえ。」
「!気安く…」

気安く呼ぶなと言おうとして、止まる。どこかで聞き覚えのある低い声に、そしてどこか覚えのある柔らかな雰囲気に、自分を包み込む優しい匂いに、ある可能性が浮上する。

「ヒバリ、さん…?」

恐る恐る呟いてみれば、返ってきたのはやっと落ち着いたという肯定でも否定でもない言葉。しかしそれは正しく自分の知るヒバリそのもので、なまえは驚き、大きく目を見開いた。

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