リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的99

微睡みの中、時折頬や頭に温かさを感じる。目を開けたくとも、強い睡魔がそれを許さず、瞼は重く閉じたまま。しかしその温かさは酷く覚えがあって、知らずうちに呟いていた。

「たけし…」

ピクリ、と温かさが止まる気配がして、しかしそれはすぐに自身の頭を優しく撫ぜる。

「おやすみ、くるみ。」

その言葉を最後に温かさが離れていく。くるみはそれを引き止めることが出来ずに、ただ涙を流したまま再び深い眠りについた。


次にくるみが目を覚ました時、事態は既に進んでいた。
昨日と同じように側にいたリボーンによると、ツナ、獄寺はこの時代の山本と共にヒバリを探しに外に出たが、運悪くミルフィオーレファミリーに見つかり、戦うこととなってしまった。その最中、2人以外にも、山本、京子、ハル、ランボ、イーピンまでも過去から飛ばされてきたらしく、なんとか敵を凌いだツナ達は命からがらアジトに逃げ戻ってきたらしい。そして、戦闘で気を失ってしまったツナが先程目覚め、守護者を集めることというのは過去の守護者が持つボンゴレリングを集めることと同義だったようで、今しがたこの時代の戦い方を教わる為ラルの所に向かったと言う。

「そっか…」
「くるみも来れそうなら来い。その調子なら、京子達の方を任せようと思ってたんだが、お前の現状を、ツナ達にまだ話せてねーからな。」
「そうだね。着替えてから行くから、先に向かっていてくれるかな?」
「ああ。分かったぞ。」

頷いたリボーンはぴょい、とベッドから飛び降り、医務室を出ていった。くるみはそれをぼんやりと目で追う。

「もう、会えないんだ…」

無意識に呟いた言葉はすぐに消えていき、くるみはのろのろとベッドから出て着替える為に自身の服に手をかけた。


着替え終わったくるみがラルがいるはずの部屋に行けばそこは誰もおらず、それならばと下の階に設けられているトレーニングルームに向かった。既にこの世界に生まれてから20年以上経過してしまい、原作の事細かな部分は忘れてしまっていたが、炎を使った特訓はトレーニングルームでなければ出来ないだろうということはすぐに分かる。
近くのエレベーターに乗り込み、トレーニングルームに着いたくるみの目にツナや獄寺の姿が映り、当たっていたと嬉しくなり足を一歩踏み出した。それと同時に、何かが吹っ飛ばされ、次いでツナの山本ォ!という叫び声が聞こえ、慌てて駆け寄った。

「武っ!」
「!くるみ、か…?」
「!」

思わずいつものように呼んでしまった名前に反応したのはこの時代よりもうんと幼い山本で、気づいたくるみはしまった、と内心焦る。
つい癖で呼んでしまったが、今ここにいる山本はこの時代の山本ではなく、まだ自分が呼び捨てで呼ぶ前の頃の山本だ。顔に出さずともなんとかしなければと、震える口を開いた。

「雪の守護者か。」
「っ…………初めまして。川崎くるみです!貴女は門外顧問の使者の人、で間違いないですよね?」
「ラル・ミルチだ。」

しかしそれよりも早く、ラルに声をかけられ、タイミングを失った。よろしく、とにこやかに手を差し伸べたがラルは手を取ることはせずにでは実践だとツナ達に声をかける。折角手を出したのに、と恥ずかしさと気まずさを覚えつつもそろりと手を下ろしたくるみはラルの後ろにいたリボーンの方へ足を進める。そんな彼女を、ラルに殴り飛ばされ倒れていたところを立ち上がった山本はじっと見つめていた。

「覚悟を炎にするイメージ!!」
「獄寺君!?」

ツナ、獄寺はミルフィオーレとの戦いで炎を灯したということで、ラルに見せろと言われたが、ツナはその時の状況をいまいち思い出せず、獄寺も叫びはするが中々リングに炎は灯らない。それを見ていたラルはやはりそう簡単に炎が灯るはずがないと言い顔を逸らしたが、次の瞬間獄寺のリングに炎が灯り、驚いた。くるみも同じように驚き目を丸くしている。
この時代の戦い方で必須となるリングに炎を灯す行為は、ちょっとやそっとで出来るものではない。現にくるみも、今は難なく出来ているが、最初に炎を灯すまで1週間以上かかってやっと出来た位だった。それをこの一瞬でものにした獄寺、そして次にまだこの時代に来たばかりでよく分かっていないはずの山本もいとも簡単に灯せており、くるみは大きな差を感じてしまった。

「で、出来ない…」

残るはツナのみとなったところで、問題が起きた。いくらやっても、ツナだけが炎を灯すことが出来なかったのだ。息を切らして絶望するツナに残された時間は少ない。何故ならラルが、1時間以内に炎を灯せなければ修業を中止すると言ったからだ。
残り時間が少ないからの焦りからか、ツナは何度も試すが、一向にリングに炎は灯る気配が見られない。その様子にラルが本当に覚悟があるのか聞けば、間髪入れずにあると答えたツナはまたリングに炎を灯そうとするが、リングは応えない。

「やっぱりダメだ…」

遂に弱音を吐いてしまったツナに喝を入れたのは、今まで黙って見ていたリボーンだ。ラルが出る前にリボーンはツナに一発蹴りを入れ、ツナがリングに炎を灯した時どう思っていたのか問う。それにゆっくり記憶を紐解いていったツナは皆を過去に戻すことではなく、守る為に戦っていたのだと思い出した。すると、その思いに反応したのか、リングに炎が灯り、なんとか修業を続行することができた。

「では、この匣を開けてもらうぞ。」

言ってラルが取り出したのは迷彩柄の属性不明の匣だった。くるみがどういうことかとリボーンに聞けば、どうやらあの匣を開けることが最初の修業らしい。
なるほどと頷く間、獄寺と山本が開けようとしたが匣は開かず、そこから属性の話に移っていた。迷彩柄の匣はラルの霧属性の炎でも開かなかったと言ったところで、最後にツナが開ける番となった。大空属性のみ、全ての属性の匣を開けることができるからだ。

「!これは…!」
「!」

恐る恐るツナが開けた匣から出てきたのは傷ついたおしゃぶり。それを見たラルは表情を変え、ツナの手からおしゃぶりを素早く取るとそのまま飯にすると言ってトレーニングルームを出ていった。

「みんな、お疲れ様。」

戸惑うツナ達にくるみが声をかけ、ひとまず夕飯にしようと言って、皆エレベーターに乗り込んだ。

「そういえば、くるみ、さんの属性って…」
「っつーか、お前も戦えんならさっさと戦い方を教えればいいだろ。」

京子達が待つダイニングルームに向かう道すがら、ツナと獄寺に言われ、苦笑で返す。ひとまずツナに呼び方は普通でいいと伝え、ごめんね、と謝った。突然の謝罪に首を傾げる3人に、くるみは説明するために口を開く。

「私の属性は嵐と雨なんだ。たぶん雪も、なんだけど、雪のリングはノーマルだと見つからなくて…」
「あ!10年後の山本も確かボンゴレリング以外ないって…」

ツナの言葉に頷いたくるみは一瞬目を伏せ、何も無かったように笑って見せた。

「実は私、炎使うと、怪我しちゃうんだよねっ!体が合ってないみたい!本当だったらすぐに回復出来たんだけど、今回立て続けにスパン短く炎使っちゃったせいで結構時間かかってて…だから、皆に教えるのはラルさんに任せるしかないかなぁって…ごめんね!その代わり、早く回復出来るように頑張るし、京子ちゃん達のフォローとか頑張るから!」
「えっ…」

咄嗟に声を出したツナはくるみの包帯だらけの手を見る。よく目を凝らせば、所々血が滲んでいるのか少し赤くなっている部分がある。
くるみの説明のとおり、彼女は炎を使う度、彼女自身にも炎の影響を受けてしまうようで、乱発することは出来なかった。実を言うと、くるみが生み出す炎は主属性より弱いはずだがそう感じさせないレベルで大きく、純度も高めだ。特に感情が昂るとそれは顕著に現れ、敵を一瞬で倒すことが可能だが、その分体への負荷が大きい。今回立て続けにその感情の昂りで生み出してしまったせいか、回復も通常より遅く、昨日まで立つのもやっとという状態になってしまっていた。
くるみの話を聞いたツナが不安げに声を上げたので、慌てて私だけだから大丈夫だよ!と補足しておく。どういうことかと訝しむ獄寺や、驚いてこちらを凝視する山本にも大丈夫だと伝えようとしたが、ちょうどダイニングルームに着いたようで、それは出来なかった。

「まずは腹ごしらえでもして、また明日頑張ろうね!」

10年前と変わらない、まるで誤魔化すような明るい笑顔で言ったくるみは、3人が何か言うよりも早く先に部屋に入り、京子やハルと話し始めてしまった。そんな彼女の姿に、山本はぐっと拳を握りしめ、唇を噛んだ。


時は少し遡り、ツナ達がラルに修業を受ける少し前、瓦礫ばかりの崩壊してしまった建物内のある一角。ボフンッという小さな爆発音と突如巻き起こる煙。その煙の中に陽光に照らされて小さな影が浮き上がる。

「げほっけほっ…」

煙は次第に晴れ、中から目に涙を溜めて咳き込む一人の少女が現れた。暫く咳き込んだ後、落ち着いた少女は座り込んだまま辺りを見渡す。

「ここ、どこ…?」

不安げな声は誰に届くことも無く消えていった。

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -