リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的95

ふ、と意識が浮上する感覚で目を覚ます。
目に映るのは、見慣れない天井。全身を襲う体のだるさと、至る所から軋むような痛みを感じる。
自分は、どうしたのだっけ。

「起きたか、くるみ。」

ぼんやりとした頭で、状況を確認しようとひとまず目だけを動かしていると、左側から声がかかる。目が動く範囲で目線を下に下げれば、小さな白い物体が見えた。もう少しよく見ようと顔を動かせば、白い布を被った顔が見えた。ふっくらとした柔らかさを感じる頬、大きくつぶらな瞳、キュッとした小さな唇、首に下げられているのは透明のカプセルに入ったものの、光に反射してキラリと光る黄色のおしゃぶり。
どういうことだろうか。
信じられずに目を瞬かせたくるみは息を呑み、呟いた。

「リボーンくん…」
「ちゃおっス。この時代じゃあ、久しぶりになんのか。」
「そうだね。」

事情を知っているであろう口振りに、胸が痛くなる。無駄だろうが、小さく笑って頷いた。案の定リボーンは無理に笑っていることに気づいたようで、じっと見つめてきた。
それに誤魔化すように起き上がろうと腕に力を込めたが、刺すような痛みが全身を駆け巡り、直ぐに力が抜け、ベッドに崩れ落ちた。

「無理すんな。まだ体が痛むだろ。」
「ごめんね…」

リボーンの気遣う言葉に力なく笑って謝った。痛みと上手く力が入らないせいか、震えてしまいながらもなんとか体勢を整え、仰向けになる。
もう一度目だけでリボーンを見れば、こちらを射抜くような瞳とかち合い、気まずさを覚えて逸らした。そのまま無言になるのは困るので、何か話題をと思って口を開いた。

「リボーンくん、体は平気?」
「ああ。ジャンニーニが作ってくれたこの特殊スーツのお陰でな。だが、外に出るのは無理そうだ。」
「まさか、試したの?」
「いや、ジャンニーニの説明と、俺の勘だ。」
「そっか…それは正しいから、外には出ない方がいいよ。また、あの時のようなことになりかねないから。」
「ああ。そうだな。」

言って、閉口したリボーンがここに来たのはくるみ達が無事日本に着いてアジトに向かう途中の事だった。
ジェット機から降りた3人だが、そこからは全員別行動となった。アジトに向かうのは変わらないが、束になって動くと敵に見つかりやすいし、もし全員殺られたら元も子もない。その為、3人はそれぞれ別ルートからアジトを目指すことにしたのだ。
ツナの体を安全な場所へ運ぶ必要もあり、3人は落ち合う時間を決めてそれぞれ別方向に歩いていった。
その中で、くるみが選んだのは住宅街。路地が多く土地勘もあって隠れやすく逃げやすいからと選んだ場所だが、それは敵も同じだ。だからこそ、現時点でどこまで敵の手が伸びているのか探る必要があり、敢えて選んだ。

「!」

慎重に警戒しながら進んで行ったくるみの目に、小さな影が映った。瞬時に民家の塀の陰に隠れ様子を伺うが、目を凝らして見えた物が何か分かった時、瞠目した。
以前までよく目にしていたオレンジの巻きが特徴的なボルサリーノ、黒いスーツは特注品でくるみが着ているものよりも随分小さい。極めつけは、キラリと陽光に照らされて光る黄色のおしゃぶり。

「リボーンくん…!」

分かったと同時に小さく叫び、駆け出していた。
駆け寄れば、リボーンはどうやら倒れていたようで、急いで抱き抱えたが体はぐったりとして意識はない。ひとまず出来る範囲で呼吸や脈の確認をしたが、不規則ではあるが確認は取れたので、まだ生きているようだ。分かったくるみは先程よりも警戒しながら急いでアジトへ向かう。
この時代の外は、リボーンの体に酷すぎる…!

「ジャンニーニさん!至急お願いしたいことが!」
「くるみさん!?」
「!まさか……リボーン!?」

幸いにも敵に遭遇することなく無事アジトに着いたくるみは先にいたランボやイーピン、ジャンニーニへの挨拶もすっ飛ばして矢継ぎ早にリボーンがいた事を説明し、とにかくリボーンが動けるようなスーツを作ってほしいと頼み込んだ。ジャンニーニも外の環境、そしてアジト内の環境を理解している為すぐにとりかかると了承し急いで作業に向かった。
幸いにも、アジト内の環境整備は既に完了していたため、リボーンがこれ以上危険に晒される事はないが、この状態では自由に出歩くことは不可能だ。その為、リボーンがこのアジト内だけでも自由に動けるようなスーツが必要で、それが出来るまでリボーンは用意されていた医務室で休ませる事になったのだ。

「くるみ!」
「あ…」

そこまで思い出したところで、慌ただしく部屋に入ってきた山本の声で現実に引き戻された。山本は、全身傷だらけであるが目が覚めたくるみの様子にひとまず安心してホッと息を吐き、ゆっくりベッドに近づいた。

「山本、あと任せたぞ。くるみまた来るからな。」
「うん。分かった…」
「悪いな、小僧。」

ぴょん、と椅子から飛び降りたリボーンは部屋を出る直前2人に言葉を残し、退室した。山本は椅子に座り、大丈夫か尋ねてくる。その表情は酷く心配そうで、安心させようと大丈夫だと笑って見せたが逆効果だったようで顔が歪められた。そのまま山本が何か言いそうだったのを遮るようにそういえば、と声を上げ、恐る恐る聞いた。

「剛さん、は…?」
「………………。」

くるみの問いに、山本は無言で首を振るだけだったが、その反応で全てが分かり、目を伏せる。
間に合わなかったんだ。
その言葉を皮切りに、頭の中に後悔の言葉が波となって押し寄せる。もっと早く着いていれば、もっと早く動けていれば、もっと早く気づいていれば、もっと体がしっかりしていれば…

「くるみ。」
「!武…」

自責の念に駆られ、思考の海に漂っていたくるみは山本の強い声で引き戻された。見れば、少し怒っているような顔をしている山本と目が合う。

「また悪い癖、出てるぞ。親父のことは、くるみのせいじゃない。間に合わなかったのは俺も同じだし、気づけなかったのも同じだ。だから、くるみは自分を責める必要なんかない。」
「うん。ありがとう、武。」

まるでくるみを叱るように話す山本に、反省しつつも心がスっと軽くなる心地がした。昔のままであれば、きっとこんな風にはならなかっただろう。改めて、山本の存在の大きさ、有り難さを感じたくるみはようやく穏やかな笑みを浮かべられた。
くるみの表情を見て安堵した山本は短く息を吐いた後、少し緊張した面持ちで呼びかけた。不思議そうに見るくるみになんと伝えようか一瞬考えた山本が次の言葉を発するより早く、部屋のドアが開いた。

「話は終わったか?」
「小僧。」
「リボーンくん。」

入ってきたのはリボーンで、2人の様子を見て「なんだ、まだ話してねーのか」と山本に言う。山本は逃げるように顔を俯かせ、くるみは訳が分からず山本に視線を送っていた。その間、リボーンはひょい、とくるみが横になっているベッドに飛び乗り、くるみと目を合わせるように移動してきた。
目を白黒させ戸惑うくるみを待つことなく、リボーンはいいかよく聞けと言って話し出す。
話を聞いているうちに、くるみの目は大きく開かれていく。

「えっ………?」

最後に部屋に響いたのは、困惑し、理解しきれなくて思わず言葉を零してしまったくるみの一言だけだった。

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