リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的94

由良達が日本へ向かおうとした数日前、くるみ、獄寺、山本は隅々まで張り巡らされた敵の眼を掻い潜り、用意出来た小型ジェット機で日本に向かっていた。いつ敵に襲われるか分からない。更に空の上ともなれば行動範囲も限られ、万が一の事があれば全員死んでしまう。それ故この移動は慎重に、そして常に警戒しながら行わなければならない。
だからなのか、機内は酷く静かで、物音一つせず、ただ3人の呼吸音が微かに聞こえる程度だった。3人とも、窓から外を眺め、ただ過ぎ去っていく空の変わりばえない景色をぼんやり見つめている。

「っ……」

目に映る憎らしいほど清々しい青い空の景色を見ていたくるみは、唇を噛んだ。
思い出すのは、向けられた銃口、大切な人の背中、一際大きな銃声、ゆっくりと倒れていく友人の身体。そして、友人の身体の向こうで緩く笑んで滑らかに動いた口、そこから発せられる言葉。
その言葉を思い出し、膝の上に乗せていた拳に力を込める。包帯が巻かれていた為か、上手く力を入れにくいのかそれとも感情のままに力んでいるからなのかはたまた別の原因か、手は少し震えて、それを無視して無理矢理力を込めればプツ、と治りかけていた傷口が開き血が出てきたように感じる。目をやれば、白い包帯の一点、傷口が開いたような感覚がした部分が少し赤くなっている。
じわりと広がる痛みと包帯を侵食する赤い血を隠すように左手を重ねる。くるみの傷口が開いたことに気づいたのは、窓から不意に目線を変えた獄寺で、彼女の表情とその行動に思わず名前を呼ぶ。

「傷口、開いてるぞ。」
「!大丈夫か?くるみ。」

獄寺の言葉に血相を変えて声をかける山本と、こちらを見もしない獄寺を見て、くるみはへらりと笑った。

「ちょっと、変に動かしちゃったみたい…大丈夫だよ。心配しないで。」
「そっか…」

己の言葉を聞き、安堵する山本から逸らすようにくるみは目を伏せる。
その表情は取り繕うことすら出来ない程に苦しそうに歪められていて、まるで何かを我慢するような、耐えているような素振りも見せていた。それを盗み見ていた獄寺は嘆息し、ポツリと零す。

「傷口開くぞ。」
「くるみ、力みすぎだ。」
「…………うん。ごめんね、2人とも…」

本当に、ごめんなさい。
その言葉は口に出さずに飲み込んだ。言ったところで、この重く苦しい空気が和らぐわけでもない。
それに、自分には、その言葉を言う資格など何処にもないのだ。

「気にすんなって。」
「うん。ありがとう…」

くるみの胸中を察したのか、山本が励ましてくれるが、ぎこちなく笑って返すので精一杯だった。それを見た山本も、無理に励まそうとすることはしなかった。

「川崎。」

気まずい無言の空気の中、獄寺の声が通る。くるみは目を向けるが、獄寺は窓の方に顔ごと向けていて、更に外は明るい為どんな表情かは分からなかった。

「お前のせいじゃない。」
「!」
「お前が謝ったところで、俺達も立場は違えど、同じだったんだ。お前を責める資格なんか持ってねぇよ。」

強い否定の言葉と、次いで聞こえる少し弱い声。その獄寺のいつもと違う様子に漸くハッと我に返る。
私、最低だ…
己の浅はかさに嫌気がさして目を伏せ、ぐっと唇を噛んだ。危うく友人を、大切な人を、苦しめようとしていた。なんてことを考えていたんだろう。
自分のこれまでの言動や考えていたことを恥じ、軽く息を吐いた。

「そうだね。」

静かに言ったくるみは力んでいた拳を解き、先程よりも幾分穏やかな心持ちで窓の外を眺める。何処までも果てしなく続いていく空模様に、少し前のことを思い返していた。


罠だと分かっていながらも、ミルフィオーレファミリーが用意した交渉の席に赴いたツナ、獄寺、山本、くるみは多くのミルフィオーレファミリーの人間に囲まれた状態で敵のボスと対峙する。数の差、そしてこの場にいる敵の強さが皆幹部クラスと感じ、警戒するくるみ達の前に一歩出たツナは先に席に着いていた男と視線を交わす。

「やあ。初めましてだね。」
「……………。」

微笑を浮かべた相手はツナに声をかけるが、緊張しているのかツナは無言で拳を握りしめるだけだった。相手、白蘭はそんなツナにだんまり?と返すとそのまま流れるように動いた。

「ま、どーでもいいけど♪」
「!」
「くるみ!」

銃口がくるみに向けられ、直ぐ様弾丸が放たれた。動作があまりにも自然に行われていたからか、皆反応が遅れた。
それでも間に合うようにと山本が声を上げ駆け寄ろうとするが、いつの間に近づいていたのかミルフィオーレファミリーの人間に抑えられる。獄寺も同じように拘束され、動けない。
2人が動けない中なんとか回避するべくリングに炎を灯そうとするが、その前に弾丸がくるみに迫る。
そして…

「!」
「うっ…」

ドサリ、と音を立てて倒れた身体。未だ慣れないスーツの左胸からはじわりと血が広がり、シャツとジャケットを汚していく。
驚き、固まるボンゴレ側に白蘭はまるで分かっていたかのように口を開く。

「そうすると思った♪」
「っ……ツナくんっ!」
「ツナ!」
「10代目!」

軽やかに言った白蘭の言葉を皮切りに、くるみ、山本、獄寺が必死に呼びかける。
くるみを庇い撃たれたツナは呻き声を上げていたにもかかわらず、顔は歪められておらず、まるで眠っているように目を閉じている。当然、くるみ達の声に応えることはない。
獄寺や山本のように拘束されておらず、自由に動けるくるみは反応のないツナに何度も呼びかけた。そんな彼女に、白蘭はまたも銃口を向ける。

「!くるみ!」
「クッソ…!」
「!」

山本に呼ばれ、白蘭が向ける銃口に気づいたくるみは顔を上げ、怒りのままにリングに炎を灯した。ボオッと音を上げて大きく広がる赤い炎は、それだけで通常の弾丸を弾く防御壁となる。更に炎の特性である分解の力により、弾丸は粉々に散った。
そのまま内ポケットに入れていた匣を取り出そうとしたが、それは出来なかった。

「!かはっ…!」
「くるみ!」

突如吐血したくるみはそのまま倒れ込む。同時に炎も消え去ったが、くるみの炎に怯み緩んだ拘束から逃れた山本が受け止めた。同じように拘束を脱した獄寺がツナを担ぎ、2人はどうにかしてミルフィオーレファミリーから逃れることに成功した。
そこから暫くして目が覚めたくるみはそれを聞いて、すぐに日本に向かう為にジェット機に乗り込んだのだ。


そこまで思い出したところで、ゆっくりと景色が上に流れていくのが見えた。どうやらそろそろ目的地に着くようで、下降し始めたらしい。

「……………。」

今度は、守るんだ。
血が滲んだ部分をそっと撫でたくるみは、徐々に見えてきた大地を見下ろし、ぐっと唇を噛んだ。

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