リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的92

話し合いから次の日。今日もツナ、獄寺は欠席し、京子や山本が心配そうにツナの机を見つめていた。くるみ、由良は無言で目配せをし、互いに気をつけようと頷き合った。同時に由良はなまえにメッセージを送る。
昨日話し合った際、原作の京子の回想シーンで兄の了平と行方不明になったツナについて話す場面があり、京子や山本が未来に飛ばされるのは少し後ではないかと推測した。そこで、今後は誰かがいなくなったと分かった時点で連絡しようと言うことになり、更にどのタイミングで飛ばされるのか不明のため、把握しやすい学校にいる間はいるという連絡もすることにしたのだ。
推測はどうやら当たっていたようで、ツナ達が未来に飛ばされた次の日に飛ばされていたはずの山本も京子もまだ登校している様子から、10年バズーカのタイムラグがあることが分かった。

「それじゃあまた放課後。」
「あ、今日私恭弥くんのお手伝いあるから先に帰っててほしいかなっ…」
「そっかぁ、分かった!じゃあまた明日だね!」
「最近多くない?」
「そうかも…」

トークアプリでの報告は万が一見られたら困るということで昼休みに報告すると決め、ちょうどそれが終わった頃だった。皆で屋上から教室に戻る際、放課後の予定を思い出したくるみは由良の指摘に苦笑して返す。
前回は黒曜で入院したから、今回はリング争奪戦で不在にしていたから、といった理由でヒバリは度々くるみを呼び出していた。どうやら黒曜の一件で人手不足になり、その皺寄せがまだ解消されていないらしい。
それに加えて、これはくるみの推測ではあるが、ヒバリの様子がここ最近おかしい。リング争奪戦前までは毎日のように呼び出していたなまえを呼ばなくなったし、仕事が一区切りした時考え込むことが増えていた。これはきっと近いうちに何かしら言うことがあるとかで、そのタイミングを図るためにもくるみを呼び出しているのだろう。
と、ここまで考えたくるみだが、あまり話したがらない幼なじみのためにも、敢えて2人に話すことはしなかった。ヒバリは優しい幼なじみに感謝するべきである。


幼なじみの優しさに有難みを感じることもなく、キリが良かったのか今日はもういいと言ってくるみは応接室から追い出された。流石にカチンときたので、頼まれたって恋愛相談なんか乗ってあげないんだから!と叫んでやった。返ってきたのは無言だった。
虚しくなったくるみは夕日が差し込む校舎を早足で歩き、学校を出た。遠くの方で部活動の練習中の声が聞こえてくる。後者の方からは吹奏楽部の管楽器の音、グラウンドからは運動部のファイッオー!だったり、行け行け!という声、グラウンドを走る音が聞こえてくる。
そういえば、今日は野球部は珍しく休みの日だったな。今朝偶々山本が同じ部活動の仲間と話していた内容を思い出す。遊びに行かないかと誘われていたが、ツナや獄寺が心配だったのかやめておくと断っていた。

「どうしよう…」

それまで普通に歩けていたのに、山本の顔を思い出してピタリと止まる。
呟いた言葉から思い出したのはツナの祝勝会の出来事。山本の表情も言葉も鮮明に思い出してしまい、ぶわりと顔に熱が集まり、頬を手で押えた。

「くるみ?」
「っ!た、武くん!?」

頭を振って熱を逃がそうとするくるみに声がかかり、見てみれば山本が私服姿で不思議そうに見ていた。手にはバッドを持っており、休みの日ではあるものの、これから練習をするようだった。
折角熱を逃がそうとしていたくるみの顔にじわじわと熱が集まり、また先日のことを思い出したせいで山本が直視出来ず咄嗟に目をそらす。山本もまた声をかけたはいいが、想いを伝えた事もあって少し気恥しそうにしている。
お互い無言のまま、暫く経って、山本があのさ、と声をかける。

「今帰りか?」
「う、うんっ。武くんは、自主錬?」
「ああ。少しでも練習しないと体鈍っちまうからさ。」
「そっか…」

再び訪れる沈黙の時間。
あの日以来、こうして2人で話す機会がなかったこともあり、お互いどう接するか戸惑っていた。
くるみはなまえや由良に話すことで少し自分の気持ちに整理をつけたといっても、まだ山本に返事をしたり、本音を話したりというのは勇気が足りず出来ない。山本は、本来なら話したことで余裕が生まれているはずなのだが、くるみの言動がどうにも自分に気があるように思えて仕方なく、今もそうなのではと期待してしまうからかそわそわと落ち着かない。

「あ、帰るんなら、送るぜ。」
「え、い、いいよ!武くん練習してるのに…!」
「俺がしたいからさ。」
「あ……じ、じゃあ、武くんが、いいなら…」

お互いぎこちない会話のまま、並んでくるみの家への道を歩く。いつもなら弾むはずの会話も今日は言葉少なく、無言の状態が続く。
何か、何か話さないと…!
ぐるぐると巡る思考のまま、くるみは必死に話題を探すが、どうしても先日の件がちらついて見つけられない。だが、このまま気まずい沈黙状態が続くのは耐えられない。思ったくるみはええいままよ!と声をかける。

「た、武くんっ!」
「ん?」
「あ、あのねっ…!」
「!くるみ!」
「えっ…?」

必死に頭を使って何か言おうとした途端、山本が鋭い声で名前を呼び、覆いかぶさってきた。咄嗟のことで驚き、更に急に近づいた山本に真っ赤になったくるみだったが、その直後、ボフンッという音と辺りに立ち込める煙に別の意味で驚き、目を丸くする。思わず吸い込んでしまった煙に噎せて咳き込んでいると、次第に煙も晴れてくる。

「けほっけほっ…武くん、大丈夫?…………武くん?」

傍にいた山本に声をかけたが返事はなく、どうしたのかと山本がいたはずの場所に目をやれば、そこには山本はいなかった。それだけではなく、辺りを探しても山本の姿はどこにも見当たらない。
一体どういうことかと思い、そしてすぐにピンときた。

「10年バズーカ…?」

時期を考えれば不思議なことではない。
ツナと獄寺が行方知れずとなって、その後に山本もいなくなったのだ。そして先程の音は確かランボが10年後の自分と入れ替わる時に聞いたものと似ているし、煙も白ではなくピンク色だったので、きっとそうだろう。
しかし、そこで不可解なのは、山本が自分を庇うように動いたこと。
未来のツナ達は入れ替わるタイミングや人選を考えて計画を立てていた。自分や由良というイレギュラーな存在がどのタイミングで飛ばされるのか分からなかったが、もしかすると、山本よりも早い段階で飛ばされる予定だったのではないだろうか。ならば、まだ過去で対象者に10年バズーカを当てる人物、入江正一がいるはずだ。
そう考えたくるみは近くにいるであろう入江正一を探すが、どこを探しても見つからない。10年前は臆病な様子の彼だったから、きっとどこかに隠れているはずなのに、逃げ足が早いのか、それとももっと遠くの場所にいたのかいなかった。

「武くんっ…」

少し離れたところから、先程までいた場所に戻るが、そこには山本はおらず、くるみの声が辺りに響くだけだった。


処変わってイタリア某所。
建物内を歩いていた男女3人のうち、1人の男が振り返る。少し後ろにいた2人の男女が不思議そうに見る中、男は女の方を見る。

「今俺の名前呼んだか?」
「えっ?呼んでないはずだけど…呼んでないよね?」
「なんで覚えてないんだよ自分の事だろうが。お前が振り向くまで俺が話してただろ、山本。」

山本と呼ばれた男はそっか、と呟いて再び前を向く。
先程くるみの前からいなくなった山本と同じ呼ばれ方だが、その顔立ちは山本よりも大人びており、顎の辺りには傷跡がある。更に私服だったはずがスーツに身を包み、見覚えのない刀を背負っていた。
そんな山本のいつもと違う様子にどうしたのか首を傾げる2人は顔を見合わせ、男はため息を吐き、女は隣に並んだ。

「お前疲れて幻聴でも聞こえたんじゃねーか。」
「失礼過ぎるでしょ獄寺くん。でも確かに、幻聴は行き過ぎだけど、疲れてるんじゃないかな?ここ最近気を張りつめることが多かったから。」
「確かにそうかもなぁ…」

獄寺と呼ばれた男をジト目で見ながら、しかし山本には心配そうにして声をかける。
獄寺も顔立ちが大人びたものに変わっており、山本とは違う赤いシャツとスーツに身を包んでいる。
山本は隣にいる女に目を向け、笑顔を浮かべる。

「くるみが傍にいるのに、俺の事呼ぶわけないもんな!それに、呼び方も昔のヤツだったし。」

くるみと呼ばれた女は出会った頃と変わらない笑顔になった山本に安心し、ホッと顔を緩ませた。
彼女は先程までいなくなった山本を探し、事の発端のはずの入江正一を探して途方に暮れていたはずだが、何故か山本、そして獄寺と行動を共にしている。そんな彼女も山本、獄寺と同様にスーツに身を包んで、更にはヒールも履いていた。
くるみは山本の言った昔?という言葉に首を傾げる。それに山本は頷いた。

「くん付けで呼ばれてたんだ。」
「?それは本当に私じゃないと思うけど…今はちゃんと呼べてるし。」
「そうだよなぁ。」
「お前らイチャつくなら他所でやれよ。」
「イチャついてないよ!」

何故先程いなくなった山本とくるみ、更にはいるはずのない獄寺がいるのか。
既にお分かりかもしれないが、彼らは先程までのくるみ達から成長していた。今は同じく成長し、ボスとしてしっかり働いているツナの元へ向かっている最中だった。
漸く目的地に到着した3人は、獄寺が先頭に立ち、ドアをノックする。中からどうぞと声がしたのでドアを開け、部屋に入った。

「10代目、お待たせしました。」
「何かあったのか?」

獄寺、山本の言葉に窓の外を見ていたツナはうんと返して、振り返る。その様子を不安そうに見ていたくるみはキュッと下唇を噛んだ。

「ミルフィオーレから、交渉しないかって連絡があったんだ。」
「!」
「なっ…!10代目、それは罠です!ここまでしてきた奴らが交渉なんてするはずがありません!」

強く言う獄寺に分かってると頷いたツナだが、それでもと強い意志を宿した瞳を向ける。

「俺は、行こうと思う。」
「ツナくんっ…!」
「危険だ、ツナ!」
「考え直して下さい!」
「3人は!」

説得しようとする3人の声を遮って声を荒らげたツナは、この場に似つかわしくない穏やかな笑みを浮かべていた。

「もし俺に何かあったら、すぐに日本に向かって、守護者を集めてくれ。」
「っ……」
「ツナ…」
「10代目…」

付き合いの長い関係だからこそ分かる。こういう時のツナの意思は固い。こちらが何を言ったところで絶対に考えを変えることはしない。3人はグッと苦しげに顔を歪め、拳を握りしめた。

『Si.』

3人が答えたのは、ボンゴレのボスからの命令を受け入れた時の言葉だった。

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