リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的7

ここ暫く、心が落ち着かない日々が続いた。原因は分かりきっていた。数日前に起きた山本の自殺未遂だ。
山本との初対面の後、くるみはなまえと友達になれた由良と帰路につくためそのままツナと山本とは分かれた。だからあの後何が起こったのかも、山本が何を考えていたのかも分からなかった。更にくるみは朝の始業ギリギリまで幼なじみのヒバリの手伝いのため応接室にいることが多く、その日も変わらず教室に着くのはギリギリになり、山本が自殺未遂を起こした朝の騒動も知らなかった。前世で何度も読み込んだ話だったので、普通であればあの初対面の翌日に何が起きるか分かっていたはずなのに、その時のくるみはまだ初対面時の緊張が続いていたのでそこまで考えが及ばなかったこともある。
騒動を知ったのは偶然、すれ違ったA組だろう生徒達が話していた山本の自殺に見せ掛けた大がかりのジョークという話題を耳にしたからだ。それを知った時、どうして自分は知っていたのに何もしなかったのだろうか、と後悔したし、無性に山本に会わなければと思った。しかしその思いとは裏腹にタイミングがなかなか合わないようで、すれ違うこともなく時間ばかりが過ぎていった。
無事に仲良くなり、連絡先まで交換出来た由良からも山本の自殺未遂に関しては確認が取れている。だからこれは夢でもなんでもなく、実際に起こったことなのだと痛い程分かり、余計に会いたいと焦るばかりだ。

「あ。」
「?…………っ!?や、まもとく…」
「川崎!久しぶりだな!」

授業が終わり、移動教室だった為教室に戻ろうとすれば忘れ物をしていたことに気づき取りに戻った帰りだった。少し遠くから声が聞こえ、何となしに見ればそこにいたのはずっと会いたいと思っていた山本がいた。傍にはツナやまだ会ったことはないがこちらが一方的に知っている獄寺もいた。くるみが気づいたからかパッと顔を明るくして駆け寄ってきた山本の右腕は包帯が巻かれていた。一瞬悲しげに、痛々しげに目を伏せ顔を俯かせたが、後からやってきたツナのなまえは一緒じゃないのかという言葉にすぐに顔を上げた。

「さっきの授業で忘れ物しちゃって、なまえちゃんには先に行ってもらってるの。」
「10代目、こいつ誰っスか?」
「あ、そっか。獄寺君は初めて会うんだよね。隣のクラスの川崎さんだよ。ちょうど獄寺君がイタリアに帰ってる時に知り合って。」
「川崎くるみです!よろしくね、獄寺くん!沢田くんも、この前ちゃんと挨拶できなかったから、よろしくね!」
「あ、うん。よろしく…」
「てめっ…10代目に馴れ馴れしくすんじゃねぇ!」

あの時とは違い、全く赤くならずにすんなり言葉が出てくる。突っかかってくる獄寺にも笑って躱し、いつもの調子を取り戻してきた。
ただ、彼らの近くにいる山本の顔は見ることも出来ず、話しかけることも出来なかった。やはり緊張しているようだ。それに少し、怖気付いてしまった。
自分は大して仲良くもなければ、同じクラスでもない、1度初めましてと挨拶したばかりの人間だ。そんな人間が一方的に知っていたからと何か言うのはどうなのか、そう思ってしまい、臆病になってしまった。

「じゃあ、俺たちはこれで。」
「うん!またね!沢田くん!獄寺くん!」
「けっ!」
「ご、獄寺君!」
「あはは!よかったな、獄寺!」
「何がだ!っつかついてくんな!」

本当なら、呼び止めることも、引き止めることもするべきではない。それはわかっている。それが出来るほど自分は彼と仲は良くないし、会ったばかりだ。重々承知している。でもやっぱり、このまま流れるのはダメだ。

「ん?」
「あ?」
「えっ!?」

それぞれ分かれの言葉を交わし合ってお互い次の授業のために教室に向かったはずだった。しかしくるみは前を通っていく3人の、山本の制服を少し強めに掴んでそれを止めた。三者三様の反応を示す山本達を気にすることなく、先程より赤くなった顔を山本だけに向けていた。それに何かを感じ取ったのか山本は2人に先に行っててくれ、と言葉をかけて2人も異を唱えることなく分かったと答えた。

「そんで、俺に何か話でもあんのか?」
「っ……………」

2人の姿が完全に見えなくなったところで俯いてしまったくるみに声をかければ、一瞬ビクついて無言でそっと制服を掴んでいた手を離した。胸に抱える教科書やノートに皺が寄るくらいぎゅう、と手に力を込め、私、と口を開いた。

「私、山本くんに、救われたの。
どんなに辛くても決して諦めることはなくて、友達のために、仲間のために頑張れる強さ。
どれだけ辛くて、苦しくて、大変な状況であっても、それをなんてことないように捉える前向きさ。
何があっても皆を安心させるような、不安や恐怖、全てをなくしてくれるような温かな笑顔。
全部全部、私にとっての救いだった。」
「川崎…」

山本の声が届いているのかいないのか、くるみは自嘲するようにごめんね、気持ち悪いよね、と早口に言って、でも、と顔を上げた。

「そんな山本くんだって、辛いことがないわけじゃない。苦しいことがないわけじゃない。不安に思うことや、怖くてたまらなくなる時だってきっとある。私と同じ人間なんだもの、当然だよね。だから、飛び降りようとしたんでしょう?」
「!」

聞いていた山本は驚きに目を見開く。自分の自殺未遂はクラスメイトたちからジョークだと思われ、自分もそれで誤魔化していた。しかしくるみは違う。彼女は本当に自分が悩んだ末に自殺をしようとしたのだと確信している。それが分かり、少し気まずくなり目を逸らした。そのタイミングでくるみから山本くん、と声がかかる。

「辛い時は、休んでいいんだよ。苦しい時は、抑え込まなくてもいい。不安なことは全部吐き出すつもりで話してもいいし、怖かったら、泣いたっていい。誰も山本くんを咎めたりしないし、もしそんな人がいたら私が盾になって山本くんを守るよ。だから、だから…」

もっと自分を大切にしてあげて。
ハッとくるみを見れば、少し赤らんだ顔で少しだけ潤んだ目で、だがしっかりと山本を見つめていた。その瞳は吸い込まれそうで、自分の全てを暴かれそうで、どこか不思議な感覚に陥りそうになったがそれ以上に、彼女の言葉は全て本心から来るものだと分かり、むず痒い心地がした。それでも、彼女は自分のことを真剣に考えて、自分のためにこうして伝えてくれたのだと分かると嬉しかった。

「ありがとな、川崎。もうあんな事しないし、これからは川崎にちゃんと言うよ。」
「えっ!?いや、あの、私なんかに言っても、あの、沢田くんとかの方が仲良いから…!」
「ダメなのか?」
「ダメじゃない!」

じや、決まりな!といつも見る笑顔で言った山本。先程とは打って変わって真っ赤になって終始戸惑った様子のくるみに、少し心が満たされる心地を感じながらじゃあな、と次の授業の教室に向かった。
対するくるみはこんなつもりじゃなかったのに、と項垂れつつ、とぼとぼとなまえが待つ教室に戻った。

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