リボーン複数主番外編 | ナノ


▼ 楽しいゲーム

くるみが山本に連れられて教室を出ていったのを見届けた由良はそういえば、と一瞬動きを止めた。
リング戦が始まって以降続けているクローム達の様子見は、基本毎日行っているが、こちらも都合があるので行けない時は行けなかったと伝えるようにしている。今日も家の方で準備したりするからと行けないと伝えようとしたが、よく考えてみれば今日しかない。

「行くか…」

念の為持ってきておいてよかったとカバンの中身を思い出し、由良は校門を出ていつも帰る方向とは反対側、黒曜の方面に向かう方に足を進めた。その様子を自身の教室から見ていたなまえはあれ?と首を傾げ、次にニンマリと笑った。


なまえに見られているとも知らない由良は、鬱蒼と茂る木々を掻き分け目的地に辿り着いた。毎度思うことだが、もう少し整備するべきだ。そんな不満を胸に勝手知ったるとでも言うようにスタスタと建物内を進み、一つの扉の前で止まった止まった。ギィという音を立てて扉を開け、中を伺い見る。

「………!あれ…?」
「待っていましたよ。」
「えっ…………骸!?」

奥の方にある所々破れて穴が空いているソファーに腰掛け足を組んでいる人物に驚き声を上げる。相手は悪戯が成功した子どものような空気を纏い、クフフと笑みを零す。
本来なら未だ水牢の中にいて身動きの取れない状況にあるはずの骸が、以前会った時と全く変わりない様子でそこにいた。恐らくというか絶対クロームの身体を使ってこうして実体化しているようだが、これには相当の力が必要で、骸はあまり使わないようにしていたはずだ。それがどうして、こんななんでもない時に使っているのだろうか。もし疲れてクロームだけになった時、襲われでもしたらどうするつもりなのか。

「何してんの?」
「偶にこうして力を使わないと、感覚が鈍るんですよ。」
「ダウト。能力取り上げられてるんでしょ?」

由良の指摘に骸は笑みを深めるだけで答えない。一つ溜め息を吐いた由良はクローム達にと持ってきていた物をカバン越しに撫で、どうしようか考える。犬や千種相手ならば問題ないが、クロームの好きな物と骸の好きな物が似通っているので渡せば絶対横取りする。骸の分を用意していないと分かれば絶対これを貰うと言って、クロームの物を自分の物とでも言うようにかっ攫うに決まってる。そう考えた由良はひとまず骸が疲れるまで時間を稼ごうと話しかけた。

「誰かに用?」
「そうですね。まあ、会いたかった人にはもう会えましたよ。」
「じゃあさっさと戻ったら?疲れるんでしょ?」
「つれないですねぇ。折角会いに来たというのに…」
「寝言は寝て言え。」

由良の冷たい言葉を気にしないとでも言うように、骸はまたしてもクフフと笑い、立ち上がる。警戒し、身構える由良に骸は近づいて、自然と由良は見上げる形となった。

「少し付き合ってもらいたい。」
「ぃ…………いよ。」

断ろうとしたが、すぐに目を逸らして小さく了承した由良に、骸は微笑んだ。


行きたいところがあるらしい骸の案内のもとついていって暫く、由良は目的地に気づいたのか段々顔を青くする。骸は素知らぬ顔でスタスタと進んでいく。そのまま進む先にある場所にいよいよヤバいと思った由良が咄嗟に骸の腕を掴んで待ったをかけた。

「ちょっ!何してんの!?」
「普通に歩いているだけですが。」
「そうじゃなくて…!並盛にこの姿で歩いてたらヤバいって!ヒバリに見つかったらどうすんの!」

骸の腕を引っ張り、顔を近づけ小声で話す由良の言葉に骸は笑みを深めた。

「心配してくれるんですか?」
「そりゃ面倒事に巻き込まれたくないからね!?」
「酷いですねぇ。ですが、心配無用と言ったところでしょうか…」

雲雀恭弥は君の友人と立て込んでいるようだ。
骸の言葉に思い浮かべたのはなまえの姿。今日は全員別々で帰るから1人で帰っている時にヒバリと遭遇することはあるだろうし、なまえ相手であればヒバリも噛み殺すことはないのでなんら問題はない。
骸を見やれば相変わらず微笑を浮かべているだけで何も言わない。しばし考え込んだ由良は渋々といった様子で口を開いた。

「人通り多い?」
「人は多いでしょうね。雲雀恭弥が行かなさそうな場所ですよ。」
「…………分かった。」

それなら急ごうと掴んだ腕を今度は両手で捕まえるように抱え、引っ張った。さながら腕を組むカップルのような格好に骸は気づき目を見張るが、由良は気づいていないようでどっち、と聞いくる。

「このまま真っ直ぐです…」
「分かった。早く行こう。」

放心したように答えた骸には目もくれず、今度は由良が骸を引っ張ってスタスタ歩いていた。


ようやく辿り着いたのは並盛商店街にあるゲームセンター。5階建てのそこはゲームセンターだけでなくカラオケやボウリングまで出来る大きな娯楽施設だった。

「ゲームセンター?」
「入りますよ。」

腕を組んで歩くことに慣れたのか骸がまた由良を引っ張っていく。クレーンゲームやシューティングゲーム等のエリアを通り過ぎ、2階のプリクラや音楽ゲームのエリアに行くことも無く、着いたのは最上階である5階だった。

「ボウリング…?」

由良が呟くも骸は反応を見せず、受付に向かう。その際力が緩んだせいか骸の腕が解放された。
受付で手続きを済ませた骸は由良に靴とボールを選べと言って男性用の靴置き場へと向かっていった。残された由良は何も言えず呆気に取られていたがすぐに我に返り、仕方ないと諦めて靴を選びに行った。

「勝負をしましょう。」

靴とボールを選んで案内されたレーン付近のベンチに座ると骸が言い出した。勝負?と聞く由良に頷いた骸は説明する。内容は至ってシンプル、スコアが良かった方が勝ちというもので、幻術による邪魔はしないらしい。

「そして、負けた方は勝った方の言うことを1回、なんでも聞く。」
「却下。普通に楽しむとか出来ないの?」

断る由良に骸は「負けるのが怖いんですね?」と挑発するが、由良には通用しなかった。由良の態度にしゅんとした骸は眉尻を下げ、切なげに微笑んだ。

「ダメ、ですか…?」
「っ……………はぁっ…分かった。1回だけね。」
「勿論。」

瞬間ころっと表情を変えた骸に演技だったと気づいて由良は舌を打ったが、今更やっぱりなしでと言うのも憚られ、もう一度溜め息を吐いた。骸といるとこういう事ばっかりだなぁ。

「では僕から行きますね。」
「いいよ。行ってらっしゃい。」

物思いに耽っていると骸から声がかかり、ひらりと手を振って答えた。骸は一瞬目を見張ったものの、すぐにボールを持ってレーンの方に進み、助走をつけてボールを投げた。

「えっ…」

カコーン!と良い音を立ててボールがピンに当たり、ガラガラとピンが倒れていく。ボウリングなのだからそれが当然だろう。が、問題はその数だ。

「す、ストライク…!?」
「おや?」

由良が叫ぶように言って驚きの余り立ち上がる。対する骸はマグレとも思わせないような態度でラッキーでしたね、と上機嫌で戻ってきた。その様子に何かしたのでは、と探るが、幻術を使ったような気配は感じなかったし、異変も見当たらない。完全に骸の実力か運が良かったかだ。
焦りを覚えた由良はボールを持ってピンが並び直ったレーンに向かい、投げた。

「……………。」

ガコンッと音を立ててボールはそのままレーンの端、黒い溝に落ちて流れていった。戻ってきたボールを無言で持ってもう一度投げる。

ガコンッ

またしてもガーターに入り、由良は唇を噛み、無言で戻る。見たくはなかったが見えてしまった骸の顔はニヤついていて、苛立った由良は睨みつけておいた。
その後も勝負は続き、遂に最後のフレームが終わり、近くにあるモニターに結果が表示された。が、結果を見なくとも、2人の様子を見れば一目瞭然だった。

「……………。」
「っ……………ふっ…」

片やベンチに座り顔を覆い悲壮感漂う並中生、片や口元を押え、時折吹き出し笑うのを必死に我慢している黒曜生。モニターに表示された結果は0と300。

「笑えばいいでしょ…っていうかいっそ笑え…」
「クハハハハハ!!ま、まさかっ、全部ガーターなんて天才じゃないですか!」
「うるっさいな好きでガーターに入れたわけじゃないし!!」

大笑いする骸に真っ赤な顔で反論する由良。一応彼女の体裁のために説明すると、彼女は別にボウリングが苦手というわけではない。家族で一度行ったときはストライクを何度も決めたこともあるくらいだ。それなのに何故か今日はガーターにばかり入り、全く決められなかった。
実は、由良は気づいていないが、ガーターに入りまくっていたのはずっと緊張していたからだ。骸とボウリングをするというのにも戸惑っていたし、最初の骸のストライクでも驚いて、さらに言えばその後も骸はストライクばかり叩き出し、このままでは変なお願いを頼まれてしまうのではと思うと体が硬くなり変な投げ方になってガーターになると言った状態だった。しかし由良はそれに気づかず、そのまま続けてしまったので結果負けてしまった。
項垂れる由良に骸はキラキラしたエフェクトを纏わせ近づき、肩に手を置く。

「では、お願いを聞いてもらいましょうか。」
「うわぁ…」

清々しい程の笑顔で言われ、顔を顰める。咄嗟にモニターを見やるが、結果は変わらず300と0のまま。はぁ、と溜め息をついて諦めたようにどうぞと手を広げて見せる。そんな由良を見てひとまず出ましょうと手を引いた。

「では、目を閉じて下さい。」
「はいはい。」

ゲームセンターを出て、近くの公園に着いた2人は少し奥まった場所で向き合った。素直に目を閉じて暫くすると、首回りに風を感じ、少し後に冷たい感覚とチャリ、という音が聞こえた。良いですよという骸の声に目を開ける。

「良くお似合いですよ。」
「これ…」
「クリスマスプレゼントです。」
「えっ…」

首回りを触ると冷たいチェーンの感触がして、下を見れば胸元にキラリと光る小さなチャームがあった。理解が追いつかず、呆ける由良を見て悪戯が成功したような笑みを浮かべる。

「なんでっ…」
「いいじゃないですか、なんでも。」
「よくない!」

私何も用意できてないのに…。
慌てる由良に骸はクフフ、と笑みを深め、ならばと口を開いた。

「もう一度、目を閉じて貰えませんか?」
「…………分かった。」

困惑しながらも目を閉じた由良の頬に手を添える。そして骸は目を伏せた。

「!」
「おや、まだ開けて良いとは言っていませんよ。」

骸の行動に驚いた由良はビクつき、目を見開いた。骸は軽く笑って離れていく。
対する由良はボウリング場で笑われた時よりも顔を真っ赤にし、頬を手で押えた。

「なっ……にしてんの!?」
「キスですよ。挨拶です。」
「んなわけあるか!」

ケロリと言ってのける骸に真っ赤になったまま叫べばまたもやクフフ、と笑う。そしてふ、と息を吐いた。気づいた由良が少し顔の赤みも引いて、どうしたの?と尋ねる。

「少し、時間をかけすぎましたね…すみませんが、今日はこれで。」
「あっ、ちょっと…!」

由良の制止の声も聞かず、骸の体は霧に包まれ、その影は段々小さくなり霧が晴れると右眼に眼帯をつけたクロームがきょとりとして由良を見つめていた。


以上、と言って由良は包丁をダンッと下ろして南瓜を切った。次いでなまえ、くるみにそれぞれ作業の指示を出すが、2人とも手を止めてじとりと見ている。

「すっごい大事な話を南瓜切ってたせいでちっとも入ってこなかったんですけど。」
「由良ちゃん誤魔化しすぎじゃない?」
「そんな訳ないでしょ。時間的に料理作るってなってで、南瓜が必要になったから切っただけ。」

サラッと返す由良に2人は不満げにえー、と声を揃える。言われた由良はほら手を動かす!と声をかけ、これ以上話すつもりがないと分かった2人は渋々作業を再開した。
現在は夕方の16時くらい。くるみの部屋で少しゆっくりした3人はそろそろパーティーの料理を作ろうとキッチンに移動し、作業を始めていた。由良の話はその作業の途中で終わり、1番大事な骸とのやり取りの時に何故か南瓜を切る作業に入り、途中力んだりして話の内容がしっかり入ってこなかった。が、由良は話す素振りを見せずさらにそういえばとなまえを見る。

「骸がなまえとヒバリが立て込んでるって言ってたんだけど、アンタ何かあったでしょ。言いな。」
「は…はぁ!?何もありませんけど!?」
「ダウト。誤魔化すの下手すぎでしょ。」
「なまえちゃん顔真っ赤だよっ、可愛いっ!」
「ないないないない!ホントにないんだって!」

必死に否定するなまえだが、2人は引く気配を見せず、なんならずいと詰め寄る。

「まさか私らだけに言わせて終わるつもり?」
「こうなったらなまえちゃんも全部話すまでしつこく聞いちゃうんだから!」
「うぇえ…」

赤い顔で焦りを見せるなまえに由良、くるみはニヤリと笑い、さあ話せと圧をかける。

「うぅ…分かったよぅ…」

逃げられないと諦めたなまえは項垂れ、ポツポツと話し出した。

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