リボーン複数主番外編 | ナノ


▼ 放課後デート

12月24日。くるみは明日のお泊まり会兼クリスマスパーティーを楽しみにしながら、帰り支度を整えていた。不意に零れる笑みは気持ちを隠しきれず、その日は何度も由良に「顔」と注意されていた。
教科書類を鞄に詰め、席を立ったくるみはそのまま由良のもとへ行く。

「それじゃあ由良ちゃん、また明日!」
「うん、またね。」

由良の返事にニコリと笑って返したくるみは手を振って教室を出ようと足を向けた。

「くるみ。」
「武くん…?」

あと一歩で教室を出るという時に、背後から山本が呼び止める。くるみと同じように帰り支度を終えた山本はスポーツバッグを背負っており、どこかソワソワと落ち着きなく鞄の紐を頻りに触っていた。そんな山本を見て、こちらも少し落ち着かなくなり、どうしたの?と少し顔を赤らめて聞いた。山本は暫し視線をウロウロと動かした後、あのさ!と声を出す。

「この後、空いてるか?」
「?うん。特に何も用事はないよ。」

くるみの返事にホッとして、次にパアッと明るくした山本。

「じゃあさ、ちょっと付き合ってくんね?」

山本の誘いに首を傾げたくるみだが、特に断る理由もないので頷いた。山本は嬉しそうに行こうぜ、とくるみの手を自然に取って教室を出る。突然の事に驚き、しかし握られている手を意識して顔を真っ赤にしたくるみはぎこちなく頷いて、山本に引かれるように歩いていった。
その様子を見ていた由良は携帯を取り出し、素早くトークアプリを開いてなまえに連絡した。


山本に連れられたくるみが辿り着いたのは駅付近にある大型のショッピングモールだ。今日は平日であるものの、週末で、更にクリスマスイブだからか、心做しか人が多く感じられる。
くるみも休日に出かけたりする方だが、幼なじみの影響かあまり人が集まる所には行かなかった為、慣れない光景に呆然としている。と、人の波が多いせいか、店内からやってくる人とぶつかりそうになり、咄嗟に山本が腕を引く。

「!あ、ありがとう、武くん。」
「どーいたしまして!」

山本はそのまま手を放さず、付き合ってもらいたいのはこの上のフロアにある100円ショップだと言って再びくるみの手を引いた。くるみは引かれるまま、意識して顔は赤くなるが、次々と流れてくる人にぶつからないようにしつつ、ついていくのに精一杯だった。

「大丈夫か?」
「う、うん!ちょっとビックリしちゃった…!」

無事目的地に着いたくるみは未だ呆然としていて、山本が心配そうに覗き込む。我に返ったくるみの返事に山本はよかった!と笑い、店の中に入っていく。手を握られたままのくるみも手を引かれて慌ててついていく。

「明日ツナん家でクリスマスパーティーするんだけどさ、そん時にするプレゼント交換のラッピングをどうしようか悩んじまって…店の包装はバレるから、自分でやって来いって言われちまって、ちょっとアドバイスほしくてさ!」
「そ、そうだったんだ…」

山本の話に納得したくるみは少し羨ましいな、と思った。ツナの家ということはきっと大勢いるんだろう。その中で行われるプレゼント交換はランダムだろうから、山本からのプレゼントを誰が貰うかは分からないが、その場にいなければ貰える可能性すらない。山本が誰かを思って買ったプレゼントが何かも、そして貰える可能性すらない状況に少し寂しくなって、でも貰えなかったらと思うと嫌だというどうしようもないわがままな自分もいて、表には出さず落ち込んだ。

「くるみは神崎達とやるんだろ?」
「う、うん!去年は言い出せなかったけど、初めてお友達とクリスマスを過ごしたいなって思って…だから今からとっても楽しみなんだ!」
「そっか…」

実を言うと、くるみが2人を誘ったのもこれが理由だったりする。
今までの行事ごとは全てリボーンが皆を誘ってボンゴレ式だのなんだのと言って行われてきた。だからクリスマスもきっと何かしらするのだろうとくるみは予想していた。案の定その予想は当たっていて、更にはプレゼント交換まで行われるとなった。
好きな人のプレゼントが自分ではない誰かの手元にいくかもしれないという想像をした時、嫌だなと思って、想像でそうなるなら実際見たらきっと自分は耐えられないだろうと考え、見たくないな、という嫌な自分が顔を出したのを隠すように2人を誘ったのだ。2人はきっと気づいていないが、誘いに乗ってくれてホッとしたし、同時に少し山本と過ごしたかったという欲も出た。しかしそれも今こうして叶っているのだからあの時の自分の行動はよかったのかもしれないと、都合のいい解釈をしている。

「くるみもいた方が楽しいと思ったけど、そしたら選ぶプレゼント全部くるみの事しか考えられなくなってたな!」
「えっ?………あ、お、大袈裟だよっ、武くん!」

いきなり言われた思いもよらぬ言葉に少し熱が引いていた顔にまた熱が集まり、真っ赤になってしまった。山本は己の言った言葉にまだ気づいていないのかきょとりと首を傾げており、その様子に他意はない、他意はない!とくるみは必死に言い聞かせていた。

「あ!こ、これとか!どうかなっ?」
「ん?これか?」
「う、うん!」

誤魔化すように目についたラッピング素材を指差したくるみは、それから山本と話しながら選んだことでようやく落ち着けた。そうして周りに目を向ければ、店内の自分達がいる所から少し離れた場所にクリスマスの様々なパーティーグッズが置かれている売り場を発見する。クラッカーやちょっとした面白グッズ、そして部屋を装飾するような様々な飾り。それらを見つけたくるみは気づいた。
そういえば、パーティーをすると言ったものの、部屋を装飾することは全く考えていなかったな。
気づいたら気になってしまうのはどうしてなのか。山本が会計に行っている間商品を手に取ってみる。売られているものはどれも取り外しが簡単で、家を傷つけることはなさそうだった。種類も豊富だが、自室の雰囲気とを考えれば必要な物は絞られる。

「どうしよう。買っちゃおうかな…」
「だったら行ってこいよ。」
「た、武くん!」

ぽつりと呟いたくるみの背後から会計が終わったらしい山本がやってきた。驚くくるみにもう一度待ってるから買ってこいと言う山本。くるみは少し迷って、でもやっぱり最初のパーティーだから楽しみたいと思い至り、買うことにした。山本に断りを入れ、目星をつけていたものを手に取ってレジに向かった。


無事に買い物を終えた2人は少しショッピングモール内を見て回ることにした。思わぬ出費で百円均一だからと言って少し買いすぎてしまったくるみは見るだけにしようと決め、目に入る自分好みの雑貨や洋服等を買わないように必死だった。

「あ…」
「見るか?」

そんな中、一際目を引いたある雑貨店の小物に思わず声が漏れ、山本の問いかけに流れるように頷いてしまった。
目に付いたのはストラップ。今でこそスマホが主流となりあまり使わないが、くるみは自分のスクールバッグに目印として何か付けたいと考えていた。シンプルなデザインのそれはパッと見は革で出来た小さなベルトだが、よく見ればアクセントに小さな花がシルバーで付けられていて、花の中央には小さな石が嵌め込まれていた。目敏い幼なじみなら気づくが、ほとんどの人ならば近づかなければ分からないだろう。
欲しい、でも先程の出費でお金が足りない。買わないのにここに居続けるのは、付き合わせている山本にも迷惑だろう。そう思って山本を見る。

「これか?」
「えっ?あ、う、うん…でもあのっ、お金、足りないから、今度にするよっ…!ごめんねっ、付き合わせちゃって…」
「気にすんなよ。」

じゃあ行こっか。山本に言って店から一歩引いたくるみはそのまま歩き出す。しかし、山本が来る気配がない。あれ?と振り返れば山本は先程までいたはずの場所におらず、くるみは慌てた。

「武くんっ?」
「ハハッ!見つかっちまった!」

戻ったくるみが視線を店内にやれば、レジの方で会計を済ませたであろう山本がいた。まさか購入したのかと思って焦ったくるみは悪いよ!と駆け寄るが、タイミングよくラッピングされた袋を受け取った山本にまたしても手を取られ、店を出た。

「武くんっ!」
「そんじゃあこれ!今日付き合ってくれたお礼!」

休憩する為に設けられたソファーの前に来た山本がラッピングされた袋を渡してくる。しかしくるみは受け取れないと首を振る。というのも、山本に付き合ったのは最初の100円ショップだけで、それ以外見て回ったのはくるみが好きそうな店ばかりだったのだ。山本からすればどれも同じに見えるだろう小物や雑貨、洋服を見るくるみに付き合ってもらったというのはおかしいだろうというのがくるみの主張だ。
しかし山本も折れることはなく、袋を差し出したまま、んーと少し考える。そして少し照れ臭そうにしながら口を開いた。

「実はさ、買い物に付き合ってくれっていうの、嘘だったんだ。」
「えっ…?」

驚き目を丸くするくるみにラッピング云々の話は本当だと訂正する山本は、だが目的は違うとはっきりと言った。

「いつもくるみには助けて貰ってばっかりだからさ、せめてクリスマスプレゼントだけでも渡したいって思ってたんだけど、何がいいか全然思いつかなくて、だから今日一緒に見て回って買おうって決めてたんだ。だから受け取ってくんねーか?」

いつもの明るい笑顔の中に、どこか緊張した表情の強ばりを見せる山本に見つめられ、そして山本の正直な言葉を受けてくるみは顔を赤くする。じわじわと熱がどんどん顔に集まってくるのを感じたくるみは、素直に嬉しいと思い、釣られて緊張し、震える手でプレゼントを受け取った。くるみの行動に山本はホッとして、次に嬉しそうに笑った。
山本の笑顔を見て同じようにホッとしたくるみはすぐに自分の鞄の中に入れていたものを思い出し、あのね!と慌てて取り出し差し出した。

「!これ…」
「渡すタイミングなくて、遅くなっちゃったんだけどっ…私からも、プレゼント…」

これまでも赤かった顔を更に真っ赤に染め上げ、俯いたくるみの言葉は段々尻すぼみになっていったが、山本にはしっかり聞こえていたようで、差し出されたプレゼントを受け取った。

「ありがとな!くるみ!」
「う、ううん!どういたしまして!」

眩しい笑顔で言われ、受け取って貰えたことに安心したくるみは少し熱が引いた顔を上げ、嬉しそうにはにかんだ。
開けてもいいか?と山本に聞かれ、頷いた。

「!これ…」
「部活、外でやるでしょ?寒いだろうから、少しでも防寒になればと思って…」

くるみが渡したのは黒いネックウォーマーだった。シンプルなデザインのそれは、しかし生地が厚く、暖かそうだった。
練習着でも、普段着でも使えると喜んだ山本は何かに気づきん?と声を上げる。それに気づいたくるみは顔を真っ赤にして俯いた。

「これは…」
「た、武くんの、イニシャル、入れてみたんだっ…黒って、色んな人が使ってるだろうから、区別つくように…」

ネックウォーマーの下の方に少し歪なT.Yの刺繍が入れられており、くるみの様子から、きっと彼女が入れくれたのだろうとすぐに分かった。山本は顔を更に緩めて満面の笑みでくるみにありがとな!と言った。


ここで終わり。そう言ってくるみは用意していた飲み物を飲んだ。

「終わり!?」
「続きはないの?」
「お、終わりだよっ!そのまま帰っただけだもん!」

詰め寄る2人に首を横に振ってこれ以上話すつもりがないという意思表示をするくるみに、流石に可哀想かと思い、2人は身を引いた。

「ふ、2人こそっ!何かあるんじゃないのっ?」
「ない。」

仕返しと言わんばかりに聞いてくるくるみに即答したのは由良だ。強く言う姿に以前のくるみであれば「そうなんだ」と言って無理に聞くことはなかったが、今は違う。なまえが引く気配がないと分かると途端に顔をにやりとさせて今度はくるみが詰め寄る。

「え〜?本当に?」
「ないったら。昨日は普通に帰っただけ。」
「ダウト!」

尚も否定する由良にそう言ったのは同じようにニヤついているなまえで、言われた由良は気まずそうに見た。

「昨日、由良が家の方面じゃなくて黒曜の方面に行くの、私見たけどなぁ〜?」
「!それは聞き捨てならないよ由良ちゃん!さあ白状なさいっ!」
「アンタらねぇ…!」

2人に詰め寄られ、それでも渋っていた由良だったが、やがて逃げ切れないと悟ったようで「降参」と両手を力なく挙げ、諦めたように溜め息を吐いて話し出した。

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