標的3

梅雨も終わり、暑い夏がやってきた。休日の今日は週末に出ていた宿題を済ませ、家事で忙しい母の手伝いをしてから鍛錬に行こうと頭の中で計画を立てていれば、見知らぬ女性がリビングにいることに気づいた。

「?」

母の知り合いだろうかと首を傾げながら、特に聞くことなくスルーした四季は持っていた洗濯物が入ったカゴを縁側まで運ぶ。先に干していた母に声をかければありがとうと返され、そのまま並んで自分も手伝う。

「!そうそう、ツナの家庭教師にね、新しくビアンキちゃんっていう女の子にお願いすることにしたの!」
「……………ああ、さっき居間にいた女性の…」
「そうよ!リボーン君の知り合いなんですって!」

少しして、母が思い出したように話す内容は先程の女性についてだった。どうやら母ではなく弟の家庭教師となった赤ん坊の知り合いだったようだ。さらに赤ん坊に加えて彼女も弟の家庭教師になるらしい。担当するのは家庭科と美術。どうやら主要5教科以外の教科も面倒を見てくれるらしい。現代の勉強に今まで学校に行ったことがなかった四季はいつも驚かされてばかりだが、家庭教師がそこまでカバーしているという仕組みにも驚いていた。

「基本的にツナの勉強を見てもらうためにお願いしてたんだけど、四季ちゃんも気になることがあれば聞いていいって契約もしてるから、何か分からないところがあったら聞いたらいいわ。」
「……………そうですね、そうします。」

母が言っているのは四季が唯一赤点を取ってしまう英語の話だ。元々横文字の言葉は前の時代でも徐々に広まりつつあったので別段珍しくはないのだが、四季が1番弱かったのはリスニングだった。ゆっくり一語一語一音一音話してくれれば理解できるが、英語は流れるように話すことが多いので理解出来ずに先に進まれてしまう。予習復習しようにもアルファベット表から読みをいちいち確認しなければ出来ないため全く進まない。だからリボーンが初めて我が家に来た日、ボンゴレだのマフィアだのと話していた時理解する前に話が進んでしまうのでただ聞こえるだけに終わったのだ。ちなみに先程母が紹介した女性の名前も横文字なので最初の2文字くらいしか理解出来ていない。

「あら。ママン、その子がさっき話していたツナの双子かしら?」
「ええそうよ!四季ちゃんっていうの。」

洗濯物もあと少し、というところで調理を終えたのかビアンキがやってきた。外つ国の女性だからか、母とは違い、妖艶な雰囲気を醸し出していた。その雰囲気に呑まれそうになりつつ、母が紹介してくれたからとよろしくと言って頭を下げた。

「よろしく。私はビアンキよ。貴女も分からないことがあればなんでも聞きに来なさい。」

例えば、愛とかね。
そう言い残したビアンキはツナの部屋に行くと言って 部屋の中に戻っていった。

「愛…」

手伝いも終わり、もう大丈夫だからと言われたので自室に戻った四季は先程ビアンキから言われた言葉を呟いた。彼女が言った愛とは一体どういうものなのか。愛というのも色々とあって、家族愛、親愛、友愛、恋愛、様々だ。そこで四季は前の記憶から該当する人を当てはめていった。
家族は言わずもがな最愛の兄、親愛は鬼殺隊の人たち、友愛は一番の友達であったしのぶ、恋愛は

「リボーン!死ねぇ!」

そこまで考えたところで突如部屋のドアが開き、見知らぬ子どもが物騒な言葉を言いながらやってきた。不死川さんの弟さんもそうだったけれど、最近の子は物騒な言葉を平気で言うものだなあと呑気に考えながら、リボーンがいないことに不思議そうに部屋を見回す子どもに近づいた。

「………………ここにはいないよ。」
「ぐぴゃっ!?ランボさん、ま、間違えてなんかないやい!間違えたフリしてやっただけだもんね!」
「そうだったの、それは1本取られたな。すっかり騙されてしまった。」
「や、やーい!!だまされてやんの!!」

間違えたことを認めず誤魔化すランボと名乗った少年は最初は焦っていたが、次第に調子を取り戻していった。

「オレっちはランボさんだもんね!お前は?」
「私は四季だよ。ここは私の部屋だから、隣の綱吉の部屋に行くといいよ。」

またもや横文字の名前に心が折れそうである。さらりと流れてしまった名前だが、現在では有名な著者、江戸川乱歩に似ていた気がする。しかし彼の目的の人物であるリボーンは基本弟と行動するため、ここにはいない。名乗るついでに隣の部屋に促せばすんなりと分かったと言って部屋を出ていった。

「散歩行ってこようかな。」

己の気持ちを落ち着かせるためにも今日はうんと厳しくしようと誓い、家を出た。


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