標的2.5

日本に来る前、リボーンさんからある程度10代目の情報は頂いていた。身長体重といった身体的なものから誕生日今までの経歴といったプライベートなものまでなんでも詰まったデータは今でも頭に入っている。その中で引っかかったのは家族構成。現在暮らしているのは10代目ご本人とそのお母様、そして双子の姉。お母様とは何度かお会いし、ご挨拶もさせてもらったくらいで今では顔見知りの仲になったが、姉の方はまだ会ったことがない。
そもそも「姉」という存在は俺にとって訳の分からないものだった。自分の姉しか基準にならないので偏見かもしれないが、姉は親とは違い、弟と同じ子どもだ。にもかかわらずたかだか数年早く生まれただけで親と同じように守ろうとする。親の真似事を弟で実践してただ自分が満足したいだけだ。そうでなければ苦しむ弟を見て平然としていられるわけがない。そんな先入観があったから、アイツと会った時も戸惑うばかりで上手く対応出来なかった。

「いってきます。」
「いってらっしゃーい!」

初めて会った時、どこか居心地悪そうに家を出る姿が印象的だった。次に印象的だったのはヤツの目だ。10代目とも、お母様とも違う大きく丸い瞳は何故か自分が吸い込まれそうになるほど神秘的に感じ、初めて覚える感覚に少し怖気付いた。

「綱吉のお友達?」
「っ…………」
「呼んでこようか?」
「……………」
「綱吉まだ起きてきてないから、まだ少しかかると思うけど、ごめんね。」

声をかけられても返事ができず、こくりと頷くだけで終わった。そのまま俯いた俺に鈴を転がしたような声で綱吉をよろしくねと言ったアイツはそのまま学校に向かった。何も答えられなかった俺は胸の辺りの服を掴む。手から伝わるどくりどくりといつもより早く脈打つ心臓に、得体の知れない存在への恐怖からなのか、沢田四季という人物に対する別の感情からなのか判別がつかない。

「あれ?獄寺君?」
「あっ…10代目!おはようございます!!」
「う、うん、おはよう。」

随分長いことそうしていたようで、気づけば10代目が家を出る時間になっていたらしい。並んで登校するが、10代目にアイツのことは聞けずじまいで、その後も何度か遭遇することになったが、悪態をつくこともできず黙りを貫くばかりだった。

「獄寺君、山本、今日四季…えっと、双子の姉なんだけど、も一緒にいいかな?2人のこと紹介したいし。」

ある日の昼休み、10代目からそんな申し出があった。いつもなら即答で勿論です!と答えていたが、思ってもみない人間の名前に反応が遅れた。いいぜ、といつもみたく脳天気な顔で答える山本にホッとした様子の10代目は反応がない俺に不安そうな顔で声をかけてきたので、慌てて大丈夫です!と答えた。どくり、とまた心臓が大きく跳ねた。

「よろしく。」

あの時と同じこちらが吸い込まれてしまうのではないかと思うほどの丸い瞳を俺たちに向け、少しだけ口角を上にあげたアイツは一言そう言った。今度こそ何か言わなければと思っても、喉が張り付いたように乾燥していて舌も全く回らずまた黙ったままで終わった。10代目に言われていたからてっきり昼を一緒にするのかと思ったら、教師からの呼び出しがあるからと早々に屋上を去っていくアイツを目で追うも、ヤツはちらりとも振り返ることなく扉の向こうに消えていった。

「獄寺君どうしたの?さっきからずっと黙ってるけど…」
「なんか変なモンでも食べたのか?」
「ンな訳ねぇだろ!!10代目!ご心配おかけして申し訳ありません!!全然問題ないんで、気にしないでください!」

素っ頓狂なことを宣う山本を制し、心配して下さった10代目にニカッと笑って答える。そうすれば10代目もならいいけど、と納得された様子で昼食を再開した。
だが、心の中で山本の言い分にも一理あると考えていた。アイツを見ると、嫌でも自分の姉を連想しちまう。そう考えればこの変な動機も説明がつく。姉貴を見た時と体の反応が違うのはきっと想像だからで、アイツが怖い訳じゃない。そう考えれば少し楽になり、今度会った時漸く話すことが出来そうだと一息ついた。


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