標的2

弟が昼食の弁当を忘れたと連絡を受け、居候をしている赤子が何故か四季に届けに来たのは今朝のこと。そして現在、その弁当を届けに弟の教室に行けば何故か一緒にと誘われ屋上にいる。

「こっちがこの前転校してきた獄寺君。」
「…………」
「それでこっちが山本。」
「よっ!」
「で、こっちが俺の双子の四季。」
「よろしく。」

よく理解できないまま弟から紹介されたが、つまり自分に友達ができたんだと自慢したかったのだろうか。確かに弟は今までダメツナと揶揄され、いじめられていたことも多いが、性根は優しさに満ち溢れていて前の兄に似通っている部分もあったのでいずれ友達は出来るだろうと思っていた。とはいえまだ13年生きただけの子供なのだから、初めてできた友達をどうだと自慢したい気持ちも分からないでもない、いや分からないでもきっとそうなのだろうと四季は結論づけて頷いた。
つ、と視線を今紹介された弟の友人の1人である銀髪の少年に向けた。黒髪の少年は正真正銘の初めましてだが、銀髪の彼は何度か家の前で会っていたのだ。実はその時も名乗っていたのだが、相手はまともな返事をしなかった為、実質今が初めましてと言ってもいいだろう。とはいえ今も黙りを決め込んで会話という会話は成り立っていないので挨拶としてはどうかと思うが、名前を知れただけでも一歩前進である。

「四季?どうかした?」

そんな彼女の様子に気づいた綱吉が声をかければふい、と目を逸らしてなんでもないと答えた。獄寺は終始黙ったまま眉間に皺を寄せて四季を見ていた。しかしその表情は彼のデフォルトでもある苛立ったような不機嫌そうなものではなく、どちらかと言えば困惑や戸惑いといった顔だった。それに気づいたのは四季くらいだが、彼女は基本自分から声をかけることは滅多にしないので首を傾げるだけで終わった。

「それじゃあ食べよっか!」

努めて明るく振舞った綱吉の声に、山本も獄寺も円になるようにして地面に座り自身が持ってきた昼食を広げる。が、四季は未だ立ったままで手には何も持っていない。

「綱吉悪いけど、私先生に呼ばれていたから戻るね。」
「えっ!?」
「挨拶は済ませたし、今後会うことがあれば綱吉の友達だって分かるだろうからもういいよね。それじゃあ。」
「あっ、ちょっと待って…」
「あ、帰りはあんまり遅くならないように。暗くなる前に帰るんだよ。」

引き止める綱吉の声に従うことなく四季は屋上を出た。
ぱたんと扉が閉まる音を背景に、とんとんと軽やかに階段を下りていく。ついに綱吉にも友達が出来たのかあなんて少し感慨深くなりながら、そのまま1階の職員室を目指した。

「あ。」

ふと、自分の時のことを思い出して、ぴたりと足を止めた。自分も確か嬉しくなって友達が出来たその日に兄に報告したのだ。友達を連れて。その時兄はとびきり優しい笑顔でよかったなぁと言って頭を撫でてくれたのだ。それがとても嬉しくて、何度も何度も同じことを言った覚えがあるし、何度も何度も兄は頭を撫でてくれたのを覚えている。でも自分はどうだろうか。綱吉の意図に気づくことが出来ず、素っ気ない態度で終わってしまった。せっかく紹介してくれたお友達にも悪印象を抱かせてしまったかもしれない。

「家に帰ったら、弁明しよう。」

少し悩んで、でも今戻ったところできっと話題は変わっているだろうと思い、綱吉が帰宅してからうんと頭を撫でてあげようと決意した。むん、と気合を入れつつ再び階段を下りていった。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -