標的1

あれ、と首を傾げた。いつも通り帰宅したはずなのに、違和感が拭えなかった。ちらりと下を見れば目に入る小さな小さな革靴。リビングに向かえば、器用に小さな足を組んで優雅に珈琲を飲んでいる赤ん坊がいた。はて、今朝自身の母親は何かを言っていただろうか、と記憶を手繰り寄せるも、該当するものは見当たらず、仕方なしに聞いてみることにした。すると、双子の弟の家庭教師と返ってくるではないか。この赤子が、と目と耳を疑うが、この母親は大体本気で話すので、嘘ではないだろう。それに、前の経験からくる勘がこの赤子は赤子ではないと訴えている。

「呪い、のようなもの…?」

ぽそりと呟いた言葉にピクリと反応を示す赤子にやはりな、と嘆息し目線を合わせるようにしゃがみこんだ。成長するにつれ、自身の鍛錬を優先していたのは言い逃れようもない事実だ。本来なら自分が弟の面倒を見なければならないのに、強くなることに目が眩みそれを怠った。結果このような呪われた赤子を家庭教師として雇うことになったのだろう。そう考え、申し訳ないなと思いつつ口を開いた。

「沢田四季。貴方は?」
「ちゃおっス。俺はリボーンだ。よろしくな、四季。」
「うん、よろしく。」

小さな手を伸ばしたリボーンに応えるように自分の手を重ねた。きゅ、と握り口角を上げる。が、それは心の中でのみ行われたことであり、実際は目元が少し緩まり、口許がかろうじて動いたくらいで、表情に変化はなかった。しかしそれはリボーンには理解されたようで、ふ、と笑っただけで特に何も言われずに済んだ。

「おいリボーン!お前…って四季!?」
「おかえり。」
「た、ただいま…」

そんな中、弟の綱吉が帰宅するなりリボーンに物申したいと言わんばかりにドアを勢いよく開けてやってきた。しかしそれも四季がいると分かるやいなやすぐに萎んでいき、どもりつつも言葉を返した。しかし意を決したかのような顔をして四季にこそりと耳打ちする。

「リボーンに何か言われなかったか?」
「………………よろしく?」
「それだけ?」
「それだけ。」

訳が分からずきょとんとした表情の綱吉を同じようにきょとりと見返せば、途端脱力したようにしゃがみこむ。どうしたのかと聞いてもなんでもないと答えられるだけなので、気にしない方がいいと判断した四季はじゃあこれで、と部屋に戻った。
残されたのは綱吉とリボーン、そして忙しなく動く母親である。

「リボーン。」
「なんだ。」
「本当に、四季には何も言ってないのか?ボンゴレのこととか、マフィアのこととか。」
「言ってねぇぞ。」

リボーンの答えを聞いた綱吉はホッと安堵すると同時にどうして、と疑問が浮かぶ。つい先程聞かされたリボーンが家庭教師になった本当の理由とリボーン自身の正体。自分がマフィアの次期ボス候補であり、それを鍛えるために殺し屋であるリボーンがやってきた、というものだがそれを聞いた時から綱吉にはある疑問が湧いた。それが先程までいた双子の姉、四季の存在である。彼女は自身と同じ血筋のはずだ。沢田家の夫婦仲はすこぶる良好で疑う余地も無いためどちらかが不貞を働いて、という可能性もないため彼女にも自分と同じボンゴレの初代の血が流れているはずである。にもかかわらず、リボーンが構うのは自分だけで四季は今しがたようやく挨拶をしただけだと言うではないか。なぜ自分ばかり迷惑を被るのか、双子なのだから、というより自分よりも姉の方が優秀なのだから姉にも話すべきではないか、と思ったのである。

「四季には九代目から直々に説明するなって言われてんだ。だからアイツはママンと同じ、一般人として扱うぞ。」
「なんで、俺だけっ…だってアイツの方がっ…」
「俺も詳しくは知らねー。四季に関しては、九代目が頑なに口を割らなかったんだ。だが、お前がボスの候補として話が進んじまった以上、四季にも危険は及ぶだろうからな、絶対守れよ。」
「………………分かった。」

納得がいかない、そんな表情ではあるが、しかし今リボーンに言い返したところで物理的にやり返されて終わることは目に見えていた。そのためやるせない気持ちはぎち、と握りしめた拳に力を入れることで紛らわせ、落ち着かせることにした。

「ぼん………家族?」

ちなみに2人の会話は耳がとても良かった四季にバッチリ聞こえていたのだが、時折ぶっ込まれる横文字で宇宙を見てしまった為に追及は出来なかった。


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