標的17

ビアンキの手当てを終えた四季は、ツナによってマインドコントロールが解け、気を失ってしまったフゥ太の手当てに向かう。と言っても、医学の専門的な知識は無いので、出来ることといえば鼻や耳から流れている血を拭き取り、誤って血液が気道を塞いでしまわないように体勢を気をつけるだけだが。

「罪の無いフゥ太をこんなにして…六道骸。人をなんだと思ってるんだ!!」
「おもちゃ、ですかねぇ…」
「ふざけんな!!」

四季が手当てをしている間、ツナと骸の間で話は進んでいたようで、気づけば骸のフゥ太への扱いに憤ったツナが声を荒らげ、鞭を手に骸に突っ込んでいった。しかし勝敗は骸の圧勝に終わり、ツナとすれ違いざまに凄まじい攻撃を浴びせた骸の背後で、ツナが傷だらけになって座り込んでいる。骸の動きが見えたのはリボーンと四季だけのようで、ツナは不思議がっていたがリボーンの説明で漸く気づいた。

「ほう、流石アルコバレーノ。よく気づきましたね………君は、戦わないのですか?」
「っ!四季!」

リボーンの説明に感心したように呟いた骸は、骸が近づいてきたことで咄嗟にフゥ太を抱きかかえ、動こうとしていた四季に問いかけた。問われた四季は驚き目を丸くし、ぱちぱちと瞬いた。
ツナよりも、リボーンよりも、四季に近い位置にいる骸にしまったと慌てたツナが叫び、リボーンも舌打ちするが、2人が助けるより早く、骸の手が四季に伸びていく。

「貴方に1つ、聞きたいのだけれど…」
「っ、なんでしょう。」

しかしその前に、四季はトンっと軽く後ろに飛んで、ビアンキが横たわる部屋の入口付近に移動し、涼しい顔で骸に話しかけた。骸だけでなく、その身のこなしにツナも驚くが、四季は気づいていないのか、話し続ける。

「貴方は人を玩具だと言っていたけれど、それ以外に何か思うことはあるの?」
「それ以外?………ハッ!まさか、人はおもちゃなどではなく心があると説教でもするつもりですか?」
「いいえ。」

四季の問いに、嘲笑うように吹き出した骸は、まるで彼女をバカにするような笑みで問うたが、四季は静かに首を振る。それを訝しむと同時に、骸の、そしてツナ、リボーンの中に得体の知れない何かを感じる。

「玩具ではなく、貴方は、人を食べようとした事はあるの?」
「は…」
「えっ…」
「………。」

その場の空気が一瞬凍ったように感じ、時が止まったようだった。

「貴方が人を食べ物だと言うのなら、私は貴方と戦うし、貴方を殺さなければならない。けれど、そうでないのなら、私は貴方と戦う理由が無いし、綱吉の手助けをする事もできない。」

静かに、しかし確かにはっきりと言い放った四季は続けてツナに向けてだからごめんね、と伝えると、抱えていたフゥ太をビアンキの隣に寝かせた。
そんな四季の言動をぼうっと眺めていたツナ、骸だったが、僅差で骸の方がハッと早く我に返り、自分の足下にあった三又の槍を拾い上げ、手にしていた黒い長尺の棒の先にカチリと取り付けた。

「まあ、いいでしょう…僕の標的は、ボンゴレの姫である彼女ではなく、ボンゴレ10代目である君なんですから。」
「っ!」

骸の言葉にツナは怯え、息を呑んだ。対して骸はそんなツナに怪しく笑い、六道輪廻という言葉をご存じですか?と問いかけた。
聞いたことがある程度の四季、恐らく初耳だろうツナに、リボーンが説明しながら答える。人は死ぬと生まれ変わり、地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人間道、天界道のいずれかへいくといわれているものだった。そして骸はそれに付け足すように、自分はその六道全ての冥界を廻り、それぞれの世界から6つの戦闘能力を授かったと言った。

「何…言ってんだ?」
「さあ、次の能力(スキル)をお見せしましょう。」

言葉が理解できず、しかしそれでも恐怖を感じて怯えているツナに、骸は言って、立て続けに能力を行使してきた。地面が崩れる幻覚を見せたり、かと思えば本物の毒蛇を大量に喚び出しツナを窮地に陥れた。骸の関心はツナ、四季だけでなく、ツナについてきていたリボーンにも向いていたようで、ツナを助けないのかと問いかけていた。しかしリボーンは手を出すことができないと答え、自分が出る幕ではないと続けた。そしてそれに合わせるように、状況も一変する。
骸に向かって何かが勢いよく飛んでいき、気づいた骸がそれを弾いた。

「!トンファー!?」
「あ…」
「10代目!伏せてください!」

ツナが弾かれたそれに気づき、そして四季が自分の近くで気配を感じたと同時に、次いで特有の呼称でツナを呼び、途端ツナの周りにいた毒蛇が複数の爆発と共に吹き飛ぶ。視界の端で捉えながら、視線を入り口の方へ向けると、そこにいたのは互いに肩を組み、ふらふらになりながらも立っている獄寺とヒバリの姿。

「ふ、2人とも…!」

怪我を負っているが、無事だった2人の様子に安堵するツナを放り、ヒバリは獄寺を放り、ふらつきながら骸に近づいていく。骸は彼らを足止めしているはずの犬や千種は何をしているのか、と零せば、2人とも倒したと獄寺が答え、嘆息した。

「すごいよ獄寺君!か、体は大丈夫なの!?」
「ええ、大丈夫っス…つーかあの、俺が倒したんじゃねーんスけど………ってぇ!」

興奮し、喜ぶツナに少し気落ちした様子で答えていた獄寺に、不意に激痛が走る。見れば、いつの間に近くにいたのか、四季が獄寺の顔や腕等怪我をしているところに触れたり、消毒液を染み込ませただろう脱脂綿を押し当てていた。

「あ、ごめんね。少しでも手当てした方がいいと思って…少しの間、我慢していてね。」
「っ………チッ…早くしろよ。」
「うん。」

獄寺の悲鳴に驚いたのか目を丸くし、しかし手当のための手は動かしたままの四季が言うが、手当てをするためか、至近距離にあった彼女の顔に驚いた獄寺は息を詰まらせ、顔を逸らした。不機嫌そうに零された言葉に頷いた四季は獄寺の態度に怒ることなく、テキパキと手を進めていく。

「大丈夫ですか!?ヒバリさん!」

手当てを進めている間に、事態も進んでいたらしく、気づけば骸は血を吐いて倒れ、骸の相手をしていたであろうヒバリも糸が切れたように倒れた。駆け寄ったツナ、リボーンが途中から無意識で戦っていたのだと話している。四季は獄寺の手当てを終わらせると、倒れてしまったヒバリの元へ救急箱を手に向かった。

「!早くみんなを病院に連れていかなきゃ!」
「それなら心配ねーぞ。ボンゴレの優秀な医療チームがこっちに向かってる。」
「良かったっスね。」

四季が手当てをする側で、ツナやリボーン、獄寺が応急処置の済んだビアンキやフゥ太達のことについて話ている。リボーンの言葉を受け、四季は優秀な医療チームが少しでも早く処置ができるよう、手を早める。

「その医療チームは不要ですよ。」

しかし、正面から骸の声が聞こえ、見れば彼は拳銃を手にこちらに向けていた。咄嗟に手当てを受けたばかりの獄寺が前に出るが、その警戒も無駄だと言わんばかりに、骸はクフフ、と怪しく笑いながら、その銃口をゆっくり自分に押し当て、引き金を引いた。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -