標的16

いよいよ本命に殴り込みという事で、緊張するツナを余所に、一行は本物の六道骸が潜んでいるだろう黒曜ヘルシーランドという建物に入っていった。
建物内では上階に上がるための階段や梯子等尽く壊され、唯一残されていた非常用の梯子に、相手の覚悟と自信が垣間見えた。一行はその梯子を使って上階に行こうとしたが、待ち伏せていたらしい柿本千種が現れ、獄寺がその場を受け持ち先に進むことが出来た。
そして、ようやく辿り着いた骸がいるだろう3階の、映画館だったフロアの上映スクリーンの一室のドアをツナが開ける。

「!」
「あれ?」
「また会えて嬉しいですよ。」

室内にいたのはツナ、そして四季が林の中で遭遇した人質となっていたはずの黒曜生だけ。驚くツナ、不思議がる四季に対し、件の生徒はスクリーン側だろうステージ上にあるボロボロになったソファーに腰掛け、人質とは思えないほど酷く落ち着いていた。

「なんで君が!?」
「無事だったんですね。」

ツナ、四季がそれぞれ声をかけ、ツナは事情を知らないビアンキやリボーンに掻い摘んで彼が人質で、逃げ出したところを林の中で見つけたのだと説明する。

「ゆっくりしていってください。君とは永い付き合いになる。ボンゴレ10代目。」
「え、なんで俺がボンゴレって…」
「違うわ!ツナ、コイツ…!」

ツナが説明する間もゆったりとソファーに腰掛けるだけで、助かったと安堵したり、早く助けてほしいと乞う事もなく、こちらを静観している様子にひょっとして、と四季がアタリをつけたところで相手から思わぬ単語が聞こえてくる。戸惑うツナに対し、人質と説明された黒曜生の様子に違和感を感じていたビアンキが鋭い声で遮った。

「そう。僕が、本物の六道骸です。」
「えっ!?」
「人質ではなかったんだ…」

驚くツナ、納得したように呟く四季。2人の様子に、黒曜生、骸はクフフ、と怪しく笑う。しかし、表情に反して特に何か動こうとする素振りは見せず、ソファーに掛けたまま、こちらの様子を見ているだけだった。ここに来るまで、相手が絶対にツナ達に勝つと過信しているとも取れる言動、そして現在の余裕な態度に警戒を強めているツナ達の背後から、バタンという扉が閉まる音が聞こえてくる。

「フゥ太!」

扉を閉めたのは林の中で一緒に帰れないと泣きながら訴えていたフゥ太で、ツナもビアンキもその姿を見て無事な様子に安堵している。しかし、普段のフゥ太ならば、いや、あの林の中に消えていった時の彼ならば、泣いたり駆け寄る2人に何かしら言うはずなのに、今の彼は無反応だ。薄暗い中どうしたのだろうと見ていれば、影になっている顔の中、普段なら見えるはずの瞳に光が見えず、虚になっていることに気づいた。
これは、あまりよろしくないことだ。
そう思った四季が2人に声をかけるより早く、2人がフゥ太に近づいてしまう。

「随分探したんんだぞ。」
「ここは危険だから下がっていなさい。」
「待って、綱吉。」

まだフゥ太の近くまではいっていなかったツナの腕を引いた時、フゥ太の手にキラリと鈍く光る細長い何かがあるように見え、そしてそれはそのまま無防備に近づいていたビアンキに向かっていった。

「っ…!」
「ビアンキ!」

根元まで深く刺さった鋭利なものにより、ビアンキは血を吐いて倒れた。四季の手を振り払ってビアンキの側に駆け寄ったツナはしっかりしろ!と声を掛けるも、傷が深いためかビアンキからの反応はない。すぐ様リボーンが救急箱を持って四季に渡す。受け取った四季は応急処置を施していく。

「フゥ太何やってんだよ!」

ツナが怒るも、目が虚なフゥ太には届かず、ツナをも攻撃しようと手にしているものを振り回す。ビアンキの手当てをしながら、フゥ太の持つものが三叉になった槍の刃先だと分かり、目を丸くする。
あんなもの、彼は持っていなかったはずだろうに、どうして自分の物のように扱っているのだろうか。
そんな四季の疑問は、次に聞こえてきたリボーンの言葉で解決する。

「どうやら、マインドコントロールされてるみてーだな。」
「そ、そんな!目を覚ませ!フゥ太!」

リボーンのカタカナばかりの言葉に困惑しながらもなんとなく意味は理解した四季は、しかしツナの言葉に呻き声をあげるだけで槍を手放さない様子のフゥ太にどうすればいいのか、と悩み、咄嗟に対峙するツナを見る。弟とて、初めての事に狼狽えているものの、必死にフゥ太を呼びかけ、元に戻そうとしている。手当の手を止めぬまま、四季は恐らくフゥ太をマインドコントロールしているだろう張本人である骸に今度は目を向けるが、彼はツナの方を見ているようで気づかなかった。

「…………。」
「君も、弟にばかり任せていないで、一緒に彼を説得したらどうですか?」
「………私は、人を殺すことはできないよ…」
「そうですか。」
「この状況を打破するのは四季じゃねぇ、ツナだ。」

暫くすると、四季が見ていたことに気づいたのか、骸から声がかけられるが、四季はゆるりと首を振り、静かに答えた。四季の答えに骸は少し残念に思い、冷たく返した。
彼は、人間だ。
マインドコントロールという言葉は耳馴染みはないが、現在のフゥ太の様子から、恐らく洗脳され、操られているのだろうということは見当がついた。それは鬼殺隊時代、非道な鬼に操られている人間を見たことがあったから。しかし四季は、鬼は殺せても人を殺すことなどできない。原因が鬼の血鬼術によるものならば、元凶の鬼を殺せば済むはずだったが、人相手にはそうはいかない。だからこそ四季は骸の問いに静かに答えるだけだったのだ。
対する骸は、四季の答えに拍子抜けしていた。林の中で対峙した時、彼女から言いようのない何かを感じた。それこそ、ただ守られるだけの弱い者からは到底感じられないものを感じ取っていたため、この状況で何かするのではと、少し期待していたのだが、それは思い違いだったようだ。
自分の生徒が状況を変えると言ったリボーンから受け取った鞭で自分の足を縛り、自分と絡まってしまったフゥ太と揉み合いになっているツナを眺めながら、骸はその状況でも助けに行こうとしない四季にもう一度目をやり、そして次にツナがフゥ太の望む言葉を言ってマインドコントロールを解く姿を見て目を見張るのであった。


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