標的15

人質となっていた黒曜生と別れた四季は、後ろ髪引かれる思いでツナを探すため林の中を駆け、漸く見つけたと思った頃には、気づいたら自分が離れたはずの自分達を阻もうとしていた相手と対峙していた最初の場所に戻っていた。そして自分が戻る頃には離れる前とは随分変わっていて、山本は傷だらけになり木にもたれかかって気絶しているし、獄寺は何故か蹲り、そばでビアンキが介抱しているところだった。そして、探していたはずの弟は今、目深に被っていたはずの帽子を取った黒曜生と戦っていた。

「遅かったな、四季。」
「ごめんなさい。見失ってしまって…彼の手当てをするね。」

四季に気づいたリボーンが声をかければ、四季は一言謝り、山本の手当てのためリボーンから救急箱を受け取り駆け寄った。戦いながらも、ツナも気づいたのか、こちらに敵の攻撃が向かないように調整しながら動いていた。それに四季も気づき、弟の成長を嬉しく思い小さく笑った。

「大丈夫?」
「っ………」
「手当てするから、じっとしていてね。」

ツナが敵と戦っている間、四季はテキパキと手際よく山本の手当てを進めていく。声をかけた時答えようとしていた素振りはあったが、意識が朦朧としているのか声は聞こえなかった。頭を打っているのか、こめかみから血が流れているため、そっと横たえ、頭に包帯を巻き、目に見える外傷を手当てしていった。

「わ、りぃ…」
「どうして謝るの?みんなを助けようとしてくれたんでしょう?ありがとう。」
「………………。」

四季の手当てを受けていた山本は、彼女の温かい手と優しい手つきに、無意識のうちに言葉が零れ出ていた。それは本心からくるものだったが、それに対して四季から返ってきた思いもよらなかった言葉に驚き、同時に嬉しくもなり、まるで糸がぷつんと切れたかのように意識を手放した。
山本の体から力が抜け、気を失った様子を見ていた四季は残りの手当ても済ませるとすっくと立ち上がった。まだ残っている救急箱を手にして次に向かったのは、蹲り、息を荒くしている獄寺のもと。

「手当てをするから、傷を見せて。」
「っ山、本はっ…」
「彼なら先程手当てを済ませて、今は眠っているよ。応急手当てだけだから、病院に連れていかなければならないけれど…」

ここに来て、自分のことではなく山本の事を気にする獄寺に、優しい子だなあと感慨深くなる。話しながら、獄寺の手当てのためにしゃがんだ四季に対し、獄寺は苦しそうにそうか、と答えると息を深く吐いた。そして、蹲っていた体勢から体と顔を起こし、息を整える。獄寺の行動と、目立った外傷が無い様子にあれ?と首を傾げる四季。

「俺は怪我とかしてないから手当てはいらねぇ。これはちょっとした副作用だ。」
「副作用…?」

驚く四季を置いて、獄寺は言葉少なに伝えると、未だ首を傾げて不思議そうにしている四季に一瞥くれた後いつの間にか決着がついていたツナの元へ駆けて行った。それを目を丸くしながら眺めていた四季は、自分は六道骸の影武者だという男の話を遠くで聞いていた。途中カタカナが多くなり聞く事を諦めたとも言う。未だに日常会話の中に組み込まれるカタカナは聞き取ることに難儀してしまうのだ。

「!どけ!」
「!危ない!」

影武者の男の話が一区切りついた時、男に向けられる微かな殺気に気づき、それが弟に向けられたのではと思った四季が咄嗟にツナを守るように抱きしめた。それと同時に、同じように気づいた男もツナを突き飛ばすようにして腕を払い、距離を空けた。途端、男に無数の小さな針が刺さる。
すぐに誰の仕業か見当がついた獄寺がメガネヤローだ!と叫び、針が飛ばされた方向を警戒しながら見るが、既に姿は見えず、影武者の口封じのためだろうというリボーンの推測に顔を顰める。

「ぐっ…」
「ああ!!大丈夫ですか!?」
「すぐに手当てをします!」
「やめておけ。その針には毒が仕込まれてる。下手に触らない方が良い。」

無数の針には毒が仕込まれていたようで、その毒が回ったせいか、男は呻きながら倒れた。しっかりしてください!とツナが声を掛けるが、毒によって意識が朦朧としているのか、目は焦点が定まらず、また顔色も悪く出血も酷い。
ツナと同じく近くにいた四季は手にしていた救急箱を開け、包帯を取り出すが、リボーンに止められてしまう。
どんな毒を使っているか分からない限り、下手に触ると相手が危険だ。
鬼を殺すための毒を作っていた友人のように薬学に精通していない四季は、己がいかに無知だったのか思い知り、こんな時、彼女がいたらと一瞬考えてしまい、目を伏せた。

「六道骸だけは、なんとかしないと!!」

考えに耽っていたせいか、いつの間にか影武者の男、ランチアは死んでいないものの、毒によって意識を失い、弟が六道骸の非道な行いに腹を立て、なんとかするべく静かに怒りを露わにしていた。ツナの言葉に獄寺とビアンキも同調し、山本とランチアを安全な場所へ移してから、先程バーズの鳥がヤラレタ!と繰り返しながら飛んで行った敷地内の奥に位置する建物に向かうこととなった。

「四季、お前はどーするんだ?」
「ついていくよ。人質になっている人が助けに来てって言ってたから。」
「は!?なんだよそれ!」
「お前はさっさと着替えてろ!」
「ぶっ!」
「じゅ、10代目ー!」

六道骸を討つ前に、山本やランチアを移動させたり、ツナも着替えが必要とのことで、今まで現れた刺客が六道骸と共に脱獄した脱獄囚だったという説明もされながら少しばかり休憩をとっていた。その中で、リボーンが四季にこの後どうするのか問えば、返ってきたのは一緒に行くという言葉。それに驚き声を上げたのはツナで、まだ着替え途中だったためかリボーンに殴られ、獄寺が駆け寄る。そんな彼らのやりとりを見ていた四季は、賑やかだなあと思いながら続ける。

「それに、綱吉に渡すつもりのお守りを彼に渡してしまったから、彼を助けた後に綱吉に返さなければいけないもの。それまでは一緒にいるよ。」
「お守りなんてどうだっていいだろ…」
「…そうかもしれないね…でも、持っていてほしいから。」

ツナの言葉に一拍遅れて答えた四季は、何も知らないツナがそう言うことは仕方のないことだと考え、静かに頷いたが、彼女の行動が、ツナの言葉で傷つき言葉を詰まらせたのだと思ったビアンキ、リボーンが無言でツナを睨んだ。


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