標的14

フゥ太を追いかけたツナと引き離された四季達は、自分達を分断する原因となった新たな刺客と対峙していた。
相手は帽子を目深に被った黒曜中学校の男子生徒だった。しかしただの中学生でないことは明白で、手には鎖に繋がれた大きな鉄球がある。

「っ…」

形状は若干違えど、大きな鉄球を目にした四季は一瞬息を呑んだ。同時に、脳裏に過ぎる大きな背中と僧侶を思わせる優しげな雰囲気や顏。懐かしさで感傷に浸る四季の反応を新たな刺客に恐怖したと思った獄寺、山本は彼女を守るように刺客と四季の間に守るようにして入る。ビアンキも四季を自分に引き寄せ、刺客を睨みつけた。
一行はそのままツナを追いかけようと警戒しながらそろりと動くが、相手も目を離すことなくこちらの動きを見ていた為か、すぐに先ほど飛ばした鉄柱や手に持つ鉄球を投げ、行手を阻む。
逃げ道を防がれた獄寺達はツナを追うにも、敵の本拠地に乗り込むのにも、目の前の敵を倒さなければならないと察し、各々武器を手に取り構えた。

「四季。」

武器が無く、手ぶらの状態で来てしまった四季はツナが去って行ってしまった林の方と、刺客の方とを交互に見てどうすべきか思案する。と、その時リボーンがぴょんと肩に飛び乗って呼びかけた。それに気づき、不思議そうに目をやれば、大きくつぶらな黒い瞳とかち合う。

「お前はツナを追え。ここはコイツらがなんとかする。」
「………先に行きます。」

暗にここにいるなというリボーンの意図を汲み取り、一言だけ告げて駆け出した四季。食い止めようと敵が動くが、そうはさせまいと山本が割り込み、その間四季はツナと同様林の中に消えていった。

「綱吉っ…」

鬱蒼と生い茂る林の中、四季は弟の気配を辿りながら進んでいた。いつも鍛錬する山の中よりもこの林は手入れがされていないせいか、木が高く伸び、日が出ているはずなのに光があまり入らず薄暗い。夜を思わせるような雰囲気に、同時に気配は感じないものの、鬼が潜みやすそうな状況にどくりと焦りから心臓が大きく脈打つ。

「綱吉っ…」

今彼女は鬼を倒すための唯一の武器、日輪刀を持っていない。そんな中、もし鬼と遭遇してしまったら。もし、弟が襲われて怪我を負ってしまったら。考えただけで喉元に何かが込み上げ、息がしづらくなった。そしてそんな不安を振り払うように首を横に振り、気を持ち直す。
その時、視界に人影が映った。

「綱吉っ!」
「!おや…?」

叫ぶようにしてその人影を追いかけて飛び出した四季だが、己が捉えたその人影の正体が弟とは全くの別人と気づき驚いた。自分や弟よりも上背のある藍色の髪をしたその人物は、先程現れた刺客と同じように黒曜中学の制服を着ていた。
綱吉じゃなかった…!
弟と違う人物の登場に驚いた四季が目を丸くしている間、相手も一瞬驚いていたようだがすぐに我に返ったようで、嬉しそうに破顔する。

「よかった!助けに来てくれたんですね…!」
「えっ…」
「骸に人質にされてて、一生出られないかと思ってて…助かったー!」

相手の話から察すると、どうやら彼はムクロという人物に人質にされていたようで、逃げてきたのだろう。しかし四季は彼を助けに来たわけではなく、ただ弟を探しに来ただけなのだ。非常に盛り上がっているところで申し訳ないが、そのムクロという者が鬼でない限り、四季は手を出せない。
だからと言って、過去に幾度も鬼を倒す鬼殺隊に身を置き、襲われそうになっている一般人を何度も助けてきた四季は、相手を見捨てる事などできなかった。助けを求めている人がそばにいて、自分は助ける力があるのであれば、たとえ誰であろうと助ける。それが鬼殺隊の柱としての責務だと考えている四季は己のことよりも相手の事を考え、口を開いた。

「すみません。私は助けに来たわけではないんです。この林に迷い込んでしまった弟を探しに来ていて…」
「あ、そうだったんですね…すみません、勘違いしちゃって…」
「いいえ。ですが、貴方が助けを求めているのならば、私にできる範囲で、助けたいと思います。弟はここに貴方のような人を助けに来ていたのだと思います。だから、弟と一緒にいれば助かると思うので、一緒に探しませんか?」
「えっ…」

1人でいるよりも共に行動したほうがいいと判断した四季は助けを求めている黒曜生にそう提案した。弟であるツナは、本人の意思ではないものの元々この黒曜ランドに乗り込むつもりで来ていた。それはつまり、彼のような人質も助け出すことと同義だ。詳細は知らずとも、弟は人を簡単に見捨てるような子ではないと知っている四季は頼りになる弟を探しながら、助けを求める彼も守るために提案していた。
それに驚いたのは提案された黒曜生、基、人質と自分を偽っている六道骸本人だ。骸は四季のことも当然知っていた。何せ連日の並盛中学生襲撃事件の首謀者は骸自身で、その目的はイタリアン最強マフィア、ボンゴレファミリーの10代目ボスとの接触。マフィアの内情も嫌と言う程熟知していると自負する骸は、四季がボンゴレ9代目の寵愛を受けている「ボンゴレの姫」と噂されている少女ということも知っていた。姫と呼ばれる程ならば、きっとか弱い人間なのだろうと予想していたが、それは実際対面してみて予想通りだったと納得するべきなのに、どこか違和感を拭えない。10代目と同様弱く小さい存在のはずなのに、10代目とは違い、内に何かを感じさせる目の前の少女に、薄気味悪ささえ覚える。

「あの…?」
「っ…すみません…その、実は、僕以外にも人質にされている人がいて、その人のことを考えたら、やっぱり戻ろうかなって…」
「えっ…」

四季に対して複雑な感情を抱えていた骸だが、その四季に声をかけられ、咄嗟に出てきたのは提案を拒絶する言葉。本当なら、提案を受け入れたほうがツナにさらに接触でき、懐に入り込むことができたのだが、その間、この得体の知れない少女と行動を共にすることを考えると到底受け入れることができなかった。
提案を拒否された四季は驚き目を丸くするが、強要することはできない。確かに相手の言葉にも一理あるからだ。彼以外にも人質がいるのだとしたら、彼が逃げ出したと知ると他の人質がどうなるか分からない。それならば、まだ知られていない今のうちに戻るほうが得策とも言える。
しかし、そうなった場合、彼はまた閉じ込められ、制限されてしまうのではないか。また怖い思いをするのではないか、そう思うと、わかったと引き下がることもできない。

「でも…」
「弟さんが、必ず助けに来てくれるんですよね?だったら、他の仲間と一緒に待っています。助けに来てくれると信じて、待っています。」
「………………わかりました。それなら、これを持っていてください。」

相手の梃子でも動かない、意見を変えるつもりはないという意志を感じ、四季は引き下がった。その代わりに、と差し出したのはツナに渡す予定だったお守り。差し出された相手は受け取ることはせず、これは?と問うた。

「お守りです。万が一の時のためにも、持っていてください。弟だけでなく、私も微力ながら、助けられるかもしれないので。」
「………………。」

四季の言葉に再度お守りに目を落とす骸。ふわりと微かに香る名前のわからない花のような匂いに、心が落ち着いていくような心地がした。そのせいか、自然と手が伸びてお守りを掴んでいた。それにふわりと小さく笑んだ四季。

「っ、分かりました。絶対、助けに来てくださいね。弟さんだけでなく、貴女も。」
「………はい。」

相手の言葉に頷いた四季は頷いて、お守りを持つ相手の手を両手で包むようにして握る。そして、そのまま目を閉じ、小さく笑んだまま口を開いた。

「ご武運を、お祈りしています。」
「っ………早く、弟さんを探しに行ってください…!」
「はい。貴方もお気をつけて。」

自分のために祈る四季の姿に息を呑み、動揺した骸は突き放すように早口に言えば、すんなりと手が開放され、そのまま四季は林の中に消えていった。それに少し残念な気持ちを覚えた骸は黙って彼女が去って行った方を見つめていた。手にするお守りは大切そうに握りながら。


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