標的13

四季が自分達を追ってきているとは思ってもいないツナ達一行は、バスに乗りこんでから順調に目的地に辿り着き、城島犬、MMという2人の刺客と一戦交え、勝利を収めていた。しかし一息付く間もなく新たな刺客が現れ、現在その敵と対峙しているところであった。
新しい刺客、バーズは名前の通り鳥を複数飼っており、その鳥につけた小型カメラからこの場から遠く離れた並盛にいる無関係の京子、ハルを映し出し、彼女達に危害を加えたくなければツナを傷つけろと脅迫してきた。当然仲間内で、さらに敵に脅されるような形で大切な友人、ボスであるツナを傷つけることなどできないと主張するが、状況は圧倒的に不利であり、躊躇なく京子達が傷つけられてもいいのか、と言われてしまい、仕方なく最初に言われたツナを殴るという条件はツナを殺すために来たというビアンキが従い、事無きをえていた。
しかし、次に言われたのはバーズが用意したナイフを柄の根元深くまでツナに刺すこと。殴る程度なら力加減をコントロールすることはできるが、ナイフを刺すとなると話は別だ。先程勢いよく殴ったように見せ、実際はそれほど力を入れていなかったビアンキはもちろん、友人である獄寺、山本も断った。

「それはありがたきお返事。それでは次のドキドキ行きましょう。」

しかしバーズは気を悪くすることなく興奮して止まらない鼻血をそのままに、京子が映るスクリーンを前面に持ってきた。画面内の京子は何も知らず友人の黒川花と歩いているが、その画角が京子の横顔のアップからどんどん引いていき、彼女の背後にいるバーズに忠実だという殺し屋のジジの姿も映し出され、ツナ達は目を見開いた。

「硫酸!?」
「何する気なのー!?」
「硫酸って人にぶっかける以外使用法あるんですか?いやー楽しみだ。彼女痛くて驚くでしょーね!!爛れてまたびっくり!」

ジジの手にあったのは硫酸と書かれた大きなボトル。おそらく原液だろうそれに驚いたツナ達の疑問に、さも当然と言わんばかりに京子にかけるのだと答えたバーズの様子は冗談とは到底思えず、皆がドン引き、戦慄く。そうしている間にも、バーズは画面越しのジジにやっちゃって、と指示を出し、ジジは京子の背後に近づき蓋が開けられた大量の硫酸が入ったボトルを傾ける。当然、中の液体は重力に逆らうことなく傾き、京子の頭にかけられるようにボトルの口から溢れ出そうになる。

「待って!!ナイフでもなんでも刺すから!!!」

あと少し、傾けたら液体が溢れる、というところでツナが声を張り上げ、止めた。そのツナの声に合わせたようにピタリと止まるジジ。しかしそれに気づかずツナは関係のない京子を酷い目に合わせるのは絶対ダメだ!と言い切り、バーズが放り投げていたナイフを手に取り、切っ先を自分の足に向ける。
恐怖で竦みそうになる体を、これまで自分のために動いてくれた獄寺や山本の姿を思い出し、自分を奮い立たせたツナは震える体を抑えるようにナイフを両手で持ち、短くなる息を大きく吸い、振り下ろした。

「ここここここれくらいー!!!」
「綱吉っ!」
「ギギィィッ!」

ツナの恐怖に満ちた声の後、ふたつの声が重なった。一つはツナ達の近くで、もう一つは、画面内から。その声に驚いたツナが固まっている内に、ツナの手からナイフが離される。呆然としているツナの耳に、狼狽えるバーズの声と、画面から別の声が遠くで聞こえていたが、脳が理解することはまだできず、目の前にいる、この場にいるはずのない者の姿にただただ驚いていた。

「綱吉、怪我はないっ?」
「四季!?」
「ハーイ、京子ちゃん、助けに来ちゃったよ。おじさんカワイコちゃんのためなら、次の日の筋肉痛も厭わないぜ。」
「シャマル!」

ツナの手からナイフを払い落としたのは自分の双子の姉である四季だった。そして画面内で京子を助けたのはリボーンから言われて張っていたDr.シャマル。さらにハルの方も10年バズーカで10年後の姿になったランボとイーピンによりことなきを得ていた。思わぬ助っ人のお陰で京子とハルは知らずのうちに守られ、その光景を目の当たりにしたバーズも逃げようとしたが待ち構えていた獄寺のひと蹴りでのしてしまった。
しかし、今はそれどころではないと、ツナは自分の体を仕切りに確認し、触って確かめている己の姉を見る。

「な、なんでここにいるんだよ!」
「?お守り忘れていたでしょう?届けにきたの。ついでに少し散歩しようかと思って。」
「ここ最近の危ない騒ぎ知らないのかよ!?っつか学校早く終わったのそのためだろ!?何考えてんだよ!」
「お守りを早く届けないと、と思っていたのだけれど…」

それ以外は特に、と言わんばかりに答える四季の様子に沸々とツナの体に湧き上がる苛立ち。それは堪えることなどできずに、感情のままに爆発する。

「そんなのどうだっていいだろ!?こっちの気も知らないで、のこのこと危ないところに来るなよ!」
「!」
「ツナ。」
「っ!ぁ…」

苛立ちをそのまま吐き出したからか、今までの弱気な表情はなく、眉も目尻も吊り上げ声を張り上げて怒ったツナは、リボーンの固い声により呼ばれたことで漸く我に返った。目の前で声を荒げたせいか、目を丸くして驚いている四季を見て、バツが悪くなって顔を逸らした。

「誰!?」
「!えっ…!」

そんな時、ビアンキが何者かの気配に気づいたのか、生い茂る林の中に目を向け、声を上げる。それにいち早く反応したツナは何か言いたそうにしている四季の顔を見ることができずに、ビアンキの側まで移動した。

「隠れてないで出てきたら?そこにいるのはわかっているのよ。来ないのなら、こちらから行くわよ。」

ポイズンクッキングを手にし、言葉を投げるビアンキの脅しに慌てたのか、小さくも待って、と声が返ってきた。そして僕だよ、と言って姿を現したのは、大きな本を抱えた幼い少年。

「フゥ太!」

それは、数日前から行方知れずだった沢田家の小さな居候の1人、フゥ太だった。暫く帰ってこないと己の母が心配していたこともあり、無事でよかったと喜んだツナが一緒に帰ろうと声を掛けるも、フゥ太は頷くことなく、さらにあろうことかこの並盛中生襲撃事件の首謀者とも言える骸についていくと言って去っていってしまった。

「さよなら…」
「待てよフゥ太!!」

こちらを振り返ることもなく走り去っていくフゥ太を咄嗟に追いかけるツナ。

「10代目!深追いは危険です!!」
「どーなってんだ?」
「ダメ!」

そのツナを追いかけようとした獄寺と山本だが、何かに気づいた四季が2人を後ろに引っ張る。と、同時に2人の前を何かが飛んでいく。
それはドゴッと鈍い音を立てて一本の木に当たり、落ちた。そこで漸く飛んできた物が鉄柱と気づくが、それを気にかける間も無くザッとコンクリートを踏み締める音が聞こえ、身構えた。
次の刺客か、と警戒する獄寺達の背後で、四季だけは、目の前の敵よりもフゥ太を追いかけていってしまった弟を気にかけ、心配していた。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -