標的12

風紀委員のみならず、並中生が無差別に襲われる事態へと悪化してしまったからか、登校した先の教室はガランとしており、授業も午前で終わってしまった。担任やクラスメイトらの今回の事件に関する注意事項や真実に近い噂話を聞きながら、四季は言われた通り早く帰ろうと帰路に着いた。
途中弟とも一緒に帰ろうと教室を覗いたがそこには目当ての人物がおらず、今朝友人の兄の見舞いに行ったきりなのだろうと考え1人で帰った。
こんな物騒な事件が立て続けに起こり、心配するべきなのだろうが、四季の中に生まれた時からある勘が問題ないと伝えているため、そこまで心配はしていなかった。

「ただいま帰りました。」
「おかえりなさい。」

昨年までサボり常習犯だった息子と比べ、基本的に品行方正で遅刻欠席早退が1度も無い娘が早く帰ってきたのだが、事情を察したのか母はにこやかに笑って返すだけだった。それに四季は微笑んで返し、自室に向かおうとした。

「四季ー!!あそべー!!」
「ランボ、待つ!!」

そんな彼女の行く手を阻むように、足下に幼い子供たちがキャラキャラとはしゃぎながらやってくる。フワフワの髪を持つ命令口調のランボに対し、咎めるような言葉を放つ弁髪少女のイーピンだが、ちらりと四季を見上げた顔には期待が垣間見える。わんぱくな子供達と遊ぶ事は鍛錬にも繋がると考えている四季はしゃがみこみ、目線を合わせるよう2人を抱き上げ頷いた。

「何して遊ぼうか?」

緩く笑んで問いかければ、パアッと喜色が顔いっぱいに広がる子供達。それから拙くもうんと、えっと、と頭に思いついたものを再現無しに伝えてくるランボとイーピンに、頷き相槌を打ちながら答えていく四季はそのまま階段を上がり、自室に入る。
一生懸命話そうとする幼子達に癒されながら、荷物を置いて着替えを済ませた四季がそれじゃあ遊ぼうかと声をかけるよりも早く、隣室から弟の声が聞こえてくる。

「ツナだ!!」
「あっ…」
「ランボ!」

聞こえたのは四季だけでなく、ランボも同様だったようで、分かるや否や四季の部屋を出て行き、ツナの部屋に突撃しに行く。止める間もなくイーピンもそれに続いていき、残った四季は急に静かになった室内で1人目を丸くしていたが、子供達の興味が無くなったのならばと先に宿題を済ませようと机に向かった。

「いってらっしゃーい!」

宿題を済ませ、1つ息をついたところで外から母の声が聞こえてきた。宿題をしながら聞こえていた弟が友人らと遊びに行くからだろう、と当たりをつける。ちょうど勉強机の前に玄関先を見下ろせる窓があるので、ここからでも見送りをしようと窓を開けて、見下ろした。

「綱吉。」
「!四季!」
「いってらっしゃい。」

声をかけられ振り向いたツナはボソリと行ってきますと顔を逸らして言い、先に進んでしまった。それに続く獄寺、山本はどうしたのかと疑問に思いながら、しかし慌てて追いかける。その際、ツナと同じように四季を見上げ、獄寺は小さく頭を下げ、山本は軽く方手を挙げた。
先を行くツナは先程、見上げた先にいた#シキの言葉とその表情に、何故か緊張と恐怖で固まっていた体が解きほぐされるような心地になった。本当なら、自分よりも頼りになるだろう四季に任せたい、自分ばかり望んでもいない戦いに向かいたくはない。そう思ってもいいはずなのに、姉の顔を見た途端、彼女が戦わずに済んで良かったと心底ホッとした。それを認めたくない自分がいて、だから顔を逸らしたのだ。
そんなツナや獄寺、山本の行動を見ていたリボーン、ビアンキは顔を見合せ仕方ないとでも言うように嘆息した。


弟達を見送って一息ついた後、四季は動きやすい服装に着替え、いつも通り鍛錬をしに行こうと部屋を出た。いつの間にか居なくなっていたランボとイーピンもどこかへ行ったようで、現在家にいるのは母と自分のみのようだ。現在起こっている事件の事を考えれば、一言伝えた方が良いだろうと思案しているところでふと、弟の部屋の前に見覚えのある物が落ちていることに気づく。

「!これは…」

紺色の生地に淡い紫色の花が刺繍された小さな袋。微かに顔を近づければふわりと薫る花の匂い。
間違いない。自分が家族に必ず渡している匂い袋だ。
家族一人一人に渡しているそれは色も分けているのでこれが誰の物かもすぐに分かった。先程友人と遊びに行った弟の物だ。

「お母さん。散歩に行ってまいります。」
「はい。行ってらっしゃい。」

穏やかな母の笑顔と声に見送られ、四季は急いで家を出た。弟が向かった先はどちらだったか首を左右に動かし、ここだ、と勘が働いた方に足を向けた。
早歩きでスタスタと進み、勘を頼りにその足を段々と速めていく。

「この先って…」

向かう先に気づき、ポツリと呟いて一瞬足を止めた四季だが、すぐに頭を振って駆け出した。
まだ頭上に高く位置する太陽が沈む前に、何としてでも届けなくては。焦りで早くなる鼓動、不規則になる呼吸をなんとか抑えながら、ツナ達が向かったであろう黒曜町の方へ向かい、更に急いだ。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -