標的11

無事2年生に進級した四季は夏休みを終え、新学期を迎えていた。今日もいつもの様に朝食を作ろうとキッチンで作業していると、母親が十数枚のチラシを持ってやってくる。

「おはようございます。お母さん。」
「おはよう四季ちゃん。四季ちゃんも何か気になるのがあったら言ってね!」

挨拶を交わし、最後の母の言葉にきょとりと首を傾げる。どういうことかと聞けば、この週末で並中生が次々に襲われる事件が起きたことで心配し、近所の空手やムエタイ、合気道といった教室のチラシをかき集めてきたらしい。合点がいった四季だが、彼女は幼い頃から家族には内緒で鍛え続けていたのでチラシは不要だ。そう思い、上手く隠しつつやんわりと断ると母はそうよね!と頷いた。

「四季ちゃんも急に言われたら困るわよね。ごめんなさいね、突然。ツナにも見せるつもりだから、何かあったらツナに守ってもらうといいわ!男の子なんだし!」
「それは…」
「名案だな、ママン。」

母の提案に弟は守るものと考えている四季がどうにか伝えようと声を発したところで、別の声が聞こえてきた。ダイニングテーブルに用意されている子供用の椅子に座り、器用に足を組んでコーヒーを飲んでいるリボーンだ。
リボーンは2人に特徴的な挨拶をすると、奈々が机に広げたチラシを覗き込む。

「ツナはいつも四季に守られてばっかだからな。そろそろ強くしてーと思ってたんだ。」
「綱吉は、充分強いよ。」

四季の言葉にチラリと視線をやるだけで答えないリボーンは、これは俺が預かるぞと言ってチラシを懐にしまっていく。そんなリボーンを頼もしいわ!と嬉しそうに見る母を見た四季はどうしようと1人焦るのだった。


あの後ツナが起きてきて、母やリボーンから件の並中生襲撃事件について知り、案の定怯えていた。しかし今まで襲われていたのが風紀委員のみと知りホッと胸を撫で下ろす。そんなツナに対して不安が拭えず内心落ち着かない四季は少し心配してツナを見ていた。

「ったく、俺は関係ないって言ってるのに…」
「いつまでも四季に甘えてるお前が悪い。」
「うるさいよ!」
「私は甘えてるようには見えないけれど…」

今日はツナが比較的早く起きてきたこともあり、珍しく双子揃って登校していた。それについてきたのはリボーンで、通学路を歩く2人のすぐ側にある塀の上を平然と歩き、話していた。
ツナは今朝、心配した母、そして己を鍛えようと画策するリボーンから大量のチラシを渡され、それを前にぶつくさと文句を垂れていた。ツナの文句にリボーンが一刀両断と言わんばかりに正論をぶつけてくるのでツナは叫ぶことしか出来ない。四季のフォローも空回りしている。

「!風紀委員だ!」
「本当だ。反対側にもいるね。」
「ホントだ!」

暫く歩き、学校に近づくと、校門前や通学路の至る所で風紀委員が少人数で固まって何かを警戒するようにしていた。週末で多くの被害が出た風紀委員の心中を察し、ピリピリもするとリボーンが言えば、ツナがやっぱり不良同士の喧嘩だと結論づける。

「違うよ。」
「!」

が、そこに新たな声が入ってくる。振り返ればそこには殺気立ったヒバリがいて、身に覚えのないイタズラだと一連の襲撃事件について話す。慌てて自分たちはただ登校しているだけだと弁解しようとしたツナは、ヒバリの様子に益々怯える。

「み〜ど〜り〜たな〜びく〜」

怯えてしまったツナを宥めていた四季の耳に、録音したような校歌が聞こえてくる。どうやらツナにも聞こえたようで音の出処はとキョロキョロと首を動かして探っていると、どうやらヒバリの着うただったようで、ヒバリが携帯を耳に当てるとピタリと音が止まった。
無言のまま携帯を耳に当てるヒバリに今のうちにと逃げるようにそれじゃあこれでと動こうとしたツナだが、ヒバリから待ったと声がかかる。

「君の知り合いじゃなかったっけ。笹川了平、やられたよ。」
「!」

ヒバリの言葉に驚き、顔を青ざめながらも了平が何処にいるか聞いたツナはそのまま走り出した。四季も追いかけようと足を向けて、しかし少し考えてからやめた。

「行かないの。」

そんな四季にヒバリから声がかかる。ヒバリの言葉に驚いたのはツナだけではなく、四季もそうだったからだ。
ヒバリからの問いに一瞬きょとりとして、しかしすぐに困ったように笑った。

「大勢でお見舞いに行くのは、よくないと思ったので…」

正確には、了平はツナの友人であり、あまり関係のない自分が行く必要はないと考えたからだが、ヒバリに答えた理由も嘘ではない。前世の頃、蝶屋敷で頻繁にお見舞いに行ったり、偶々お見舞いのタイミングが被って大人数になった時、しのぶやアオイに怒られたのだ。少し関わっただけだが、了平はきっと妹だけでなく友人や後輩にも好かれやすいだろう。となると見舞いに来る人も多くなるはずだろうから、自分が行くのはやめた方がいい。そう考えてやめたのだ。
答え、暫し考えた四季は話を変えるかのようにそういえば、と声を上げた。

「先程降りかかる火の粉は元から絶つと仰っていましたが、イタズラの犯人が見つかったということですか?」

珍しい事もあるものだ。
ヒバリは内心虚をつかれた。
イタズラの首謀者について聞いてきた目の前の女子生徒は、基本的に弟にしか興味がわかない。これまで深く関わったことはないが、その中でも彼女が弟にばかり気にかける様子は幾度も目にしており、印象的だ。だからこそ彼女が風紀委員ばかり狙われ、ましてやお世辞にも喧嘩に強いと思われない弟は関係ないはずの事件について聞いてくるのは普段の彼女からすると考えられないのだが、しかしここで聞いたところで自分が期待するような回答は返ってこないだろうと思い直し、自然と湧いた期待という言葉に疑問を持つ。

「そうだけど、君に関係あるの?」
「綱吉がお世話になっている方なので、何かあったら綱吉が悲しみます。」
「……………。」

自身の疑問が少しでも解消されるかと思って聞いてみたが、結局返ってきたのはどこまでも弟のことしか考えていないようなもので、ヒバリはなんだと少しガッカリして不機嫌になる。そのまま黙って背を向け歩き出すヒバリに何を思ったのか、四季はご武運をと言って頭を下げた。


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