お前のおかげで
生まれて今まで15年間、俺は1度も自分の誕生日ケーキというものを口にしたことがない。
……といえば嘘になる。
厳密には、"サンタの絵が乗っていない誕生日ケーキ"を食べたことがない。
誕生日会だってそんなの名ばかりで、大抵はクリスマスパーティーのついでだった。
だから俺は誕生日に期待してないし、なんなら子供の頃は"おかげさまで1年間に貰えるプレゼントが他のみんなより1つ少ない"と自分の誕生日を呪ったりもした。
「そろそろクリスマスだねえ。」
名前がぼそっと呟いた一言に、小説のページを捲りながら「そうだな。」と適当に返答する。
「でもさ。恵の誕生日も近いよね。」
わくわくしたような表情を浮かべる彼女は可愛いが、なんとなく嫌だな、と思った。
「……まあ、そうだな。」
「そっかぁ……」
じゃあ、一緒にしちゃおうか。なんて言われるだろうか。
みんなより少し多めに切り分けられたケーキと、お情けで添えられたメッセージプレートを思い出す。
ため息をつきそうになった、その時だった。
「そしたらさ、ケーキ2個も食べられちゃうね!!」
「……はっ?」
ぎゅうっと俺を後ろから抱きしめた名前に、間抜けな声が漏れる。
「いや、は?って、だってそうでしょ?
22日は恵の誕生日ケーキ食べてー、んで25日はクリスマスケーキ。」
「ひとまとめにしないのか?」
「んえっ?する訳なくない?
せっかくの誕生日に大切な彼氏差し置いてあったことも無いカミサマの誕生日祝うなんて、無しでしょ。」
何言ってんだ、と言わんばかりに不思議そうな顔をした名前が、俺の髪に擦り寄る。
「それに、お祝いごと多い方が楽しいじゃん!」
でしょ?と俺の顔を覗き込む彼女に、愛おしさが溢れた。
「……っはは、そうか。そうかもな。」
振り返って、名前を抱き締める。
「うおお、何?どした?」
「名前を好きでいて良かった。」
強く抱き直して首元に鼻を埋めると、俺と同じシャンプーの匂いがふわりと香った。
「ふふん、自分の可愛い彼女を誇りな。」
「あぁ。」
名前の額に自分のを重ねる。
目の前でぶつかった視線を少し傾けて、今度はそっと唇を重ねた。
「ん、」
「誕生日会、楽しみにしてる。」
「盛大にやったるから期待しといて。」
こうしてまたひとつ、好きなものが増える。
全部、お前のおかげで。