塩対応作戦 : 伏黒恵の場合 後編





レジで戸惑った顔をした店員さんをうしろに、ずんずん進んでいく。


「ちょっ、めぐみ、どこ行くの?」

「高専。」

「はっ!?どうして、」

「いいから黙って着いてこい。」


手を引いたまま、彼がスマホを取り出す。

「もしもし。今から高専に連れて行きたい人がいるんですけど、どうにかしてください。」

無愛想に言うだけ言って、ブチッと電話を切った恵。

「えっ、いいの?」

「あの人にはいつも振り回されてるんだ。
振り回してやっても文句ねえよ。」


そうしてだいたい1時間後。
私は、東京呪術高専の門の前に立っていた。


「あれっ、伏黒?お前こんなとこでどったの?」


その時、後ろから突然明るい声が聞こえる。
振り返ると、両目の下に傷がある短髪の男の子。
彼を見て、恵は私と繋いだのとは逆の方の手を小さく上げた。


「虎杖。」


この人が、例のイタドリくん。
……思ったよりゴツいな。

取り敢えず小さく頭を下げてみると、イタドリくんの目線が下がって私と恵の繋がれた手を見たのが分かった。



「あっ!!君、もしかして伏黒の彼女サン!?」

「えっ、あ、えぇっと……」

「ほえー、伏黒こんな可愛い彼女さんいたの!?
全ッ然知らんかった!」


ずんずん近づいてきたイタドリくんが、私の手を取ってぶんぶん振る。

「俺、虎杖悠仁っての!よろしく!」

「あっ、苗字名前です!」

思わずつられて声を張ってしまった私を、恵が小さく笑った。


「虎杖。名前が驚いてる。」

「ああ、ごめんごめん。
テンション上がっちゃって。」


虎杖くんがまるで太陽みたいに笑う。
だって、と彼は私と彼の肩に手を置いた。


「伏黒と苗字サン、すっげぇお似合いだし!」

「お似合い、?」

「おう!伏黒ひねくれてっから大変だろ?
その点苗字さんはそういうの受け入れてやれそうだし。」

「余計なお世話だ。」

「へーへー。」


眉をひそめた恵に肩を竦めた虎杖くんがなんだか大型犬みたいで可愛い。
思わず笑う私に恵が笑って、再びその手を引いた。


「こっちだ。」


そのまま高専の敷地内にあっさり足を踏み入れて、ズカズカと進んでいく。


虎杖くんと3人で辿り着いた先には、茶髪の綺麗な女の子がエナジードリンクを片手にベンチに腰掛けていた。
隣には、眼鏡をかけた女の人。

その2人がこっちに気づいて首を傾げる。


「伏黒に虎杖。
あんたたち何してんのよ、休みの日にこんな所にいるのって珍しいじゃない。」

「お前らも休日任務か?」

「いや、そうじゃなくて」

「見て!!伏黒の彼女!!!」


恵の言葉を遮った虎杖くんが私の背を押す。
彼の背中に隠れていた私はその前に出て、思わず顔を下げた。


「……名前。禪院先輩と釘崎だ。」

恐る恐る、顔を上げる。
すると2人は驚いたように目を見開いて、次の瞬間その目を輝かせた。


「えぇーーっ!!彼女!?マジ!?」

「……マジ。」

「お前いつの間にこんな子引っ掛けてたのかよ、隅に置けねぇな。」


うりうり、と肘で彼をつつく2人と、それに居心地悪そうにする彼。

いい人に囲まれてるんだ。恵。



「伏黒さ、あんまし自分からグイグイ行く方じゃねぇじゃん?」

ふと降りてきた声を見上げると、隣で虎杖くんもその様子を眺めていた。


「それに、基本的に何でも自分一人でどうにかしようとするんだよ。
任務でも、1人じゃどうしようもないのに飛び込んでさ。
俺たちを頼ってない訳じゃなくて、伏黒はそういうのに慣れてるんだよ。多分。」

私の肩に彼の大きな手の温もりが乗る。
とんとんと叩いて、彼は優しく微笑んだ。


「だからさ、教えてやってよ。
頼り方とか、弱音の吐き方をさ。
きっとそれは俺達にはできねーから。」


な?と首を傾げた彼に、大きく頷いた。

彼の居場所は、私が作る。
きっとそれはいつか、私の居場所にもなるから。




塩対応作戦 伏黒恵の場合
結果 : これから矯正する (­­虎杖くんにも頼まれたし!)





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