のんきなやつら
「……やっぱりここにいたか。」
グラウンドの木陰に歩み寄った俺は、そう言ってため息をついた。
「おお、恵。回収か?」
「はい。そんなところです。」
木の幹にもたれかかったままこちらを見上げたのは、すっかり見慣れたパンダ。
そしてその腕の中で、すやすやと寝息をたてる名前が身動ぎをした。
「またケンカしたって?
お前らも懲りないな、まったく。」
「……すみません。」
遡ること約20分前。
次の休日に遊びに行く予定だった俺たちだったが、急遽任務が入ってしまい詫びを入れたところ、俺の言い方が悪かったのか口喧嘩になってしまった。
こういうのは謝罪に徹するのが良いと分かっていながらなんだかんだ言い返してしまった俺は、どうやら名前の前では随分ガキ臭いみたいだ。
そして名前は拗ねると、決まってパンダ先輩のところにやってくる。
1度五条先生のところに行って俺にこっぴどく絞られてからは、決まってここが名前の避難先だ。
はぁ。ともう一度ため息をついて、彼らの前にしゃがむ。
……それにしても。
「それにしても相変わらず可愛い寝顔だな、とか思ってただろ。」
「まあ、そうですね。」
「お前ら本当に……」
素直に頷いた俺に、パンダ先輩は呆れたように首を振った。
分かってる。もう末期だ。
「ほら、名前。恵のお迎えが来たぞ。」
先輩が肩を揺らすと、名前は「うぅん……」とそのおひさまの香りがする毛並みに小さく擦り寄って、うっすらと目を開ける。
「め、ぐみ……?」
「そう、恵。
ほい、起きろ。俺が刺殺されちゃう前にな。」
「刺殺しませんよ。
……ほら、名前。戻るぞ。」
「んー……」
「……これまだ起きてないな。」
寝ぼけながらとりあえず俺に両手を伸ばした名前を横抱きにすると、あっという間に彼女は腕の中で再び呑気な寝息をたてはじめた。
本当に、こいつは警戒心とか無いのか。
「すみません、パンダ先輩。
迷惑かけました。」
「別に良いよ。
こんなに懐いてくれる後輩もなかなか居ないしな。」
軽く会釈をすると、ひらひらと手を振って先輩が笑う。
胸元に名前が沈んだ後が残っているのが少し可笑しい。
背を向けてから名前の髪に鼻を埋めると、シャンプーの香りに混じったあの暖かい匂いがふんわりと香った。
「……名前。」
腕の中の彼女に、できるだけ優しく話しかける。
額にキスを落として、それでも目覚めないその緩みきった寝顔に思わず笑いが零れた。
「……め、ぐみぃ……」
寝言で名前が呟く。
「ふっ、なんて顔してんだ。」
暖かい陽の光と優しい香りに包まれながら、今度の休みは一日中寝ているのもいいかもしれないなんて考える俺は、こいつに負けないくらい呑気なのかもしれない。
「……なあパンダ。アイツらいつもあんな調子なのか。」
「可愛いだろ?俺たちの後輩。」
「お前も相当呑気な奴だな。」
「しゃけ。明太子!」
「ふっ……ああ、私もかもな。」