みんな違って、みんないい。
「名前、お待たせ〜。ご飯出来たよ。」
階段をおりて、かちゃりとドアを開く。
サイドテーブルにご飯の乗ったトレーを置いて、ベッドに寝転ぶ君の髪を撫でた。
「ん……悟さん?」
「名前の悟さんですよ。
体調はどう?少しはマシになったかな。」
「んん……」
「うん、無理しなくていいよ。」
名前は一昨日から熱を出して寝込んでる。
ここの所ずっと頑張り通しだったから、その無理が祟ったのかもしれない。
病院には、連れて行ってあげられてないけど。
「お粥持ってきたけど、食べられそう?
空っぽのお腹に薬入れるのは良くないから、食べてほしいな。」
寝ている名前の手を引いて、身体を抱き起こす。
口をひらこうとしない名前の唇をスプーンでつついて、少し開いたそこにお粥を押し込んだ。
「ん、っ……けほ、」
「ああ、ごめんね。ゆっくりでいいよ。」
案の定名前が噎せて、口から押し込んだそれがどろっと流れ出る。
咳き込む彼女にそっと笑いかけて、垂れたそれを舌で舐めとった。
「美味しい?僕特製・名前用ごはん!」
「ん、ん……ありがと……」
「美味しい?」
「うん……」
熱で頭がぼうっとしてるのか、呂律がまわってない。
それでも少しは食べられたみたいだったから、今度は薬とコップを渡す。
名前はそれを受け取ると、こくりと飲み込んだ。
汗で湿った喉が蠢くのがいやらしい。
噛みつきたい、なんて思った自分がおかしくて、小さく笑った。
「それじゃあ残りはここに置いとくね。
食べ終わった時に片付けるから。」
「……全部、食べれないかも、」
「大丈夫だよ。美味しいんでしょ?」
首を傾げて頬を撫でると、名前が小さく首を竦める。
そんな彼女の額にキスを落として、僕は部屋をあとにした。
かちゃん、とドアを閉める。
その瞬間、僕はその場にしゃがみ込んだ。
腰が抜けたみたいに、ずるずると。
「ああ、ほんっとに……可愛い。」
熱が下がらずに喘いで、それでも僕のお粥を必死に飲み込もうとして……
あんな健気な彼女をずっと見ていたいと思う。
それなのに病院なんかに連れて行っちゃ、もったいないよね。
テレビでは "個性が光る女性タレント特集" なんて言って、いわゆる可愛いアイドルやら女優やらが気味の悪い笑顔を浮かべながら愛想を振りまいていた。
僕にとっては、どの顔も正直大差ない。
だって、君じゃないもの。
名前の部屋にしっかり鍵が掛かったのを確認して、僕はまたリビングにつま先を向けた。
世の中のいろんな女の子たち。
そのどれもが、僕の欲しい人とは違って、僕の世界には居なくていい存在。
彼女の部屋の方に視線を向けて、思わず笑いが零れる。
ねえ、名前?君もそう思うよね。
みんな違って、みんないいって。