朝日は君の囁きと共に。





月曜日の、私の朝は早い。

日が昇る少し前に起きて、ちょっとだけごろごろしてから、ベッドから起き上がるのは5時半を少し過ぎる頃。
コーヒーを淹れて、バターを塗ったトーストにもう一度バターを塗る。この罪悪感がなんとも幸せだ。
ぱぱっと朝食を済ませたら、歯を磨いて、メイク。
彼がいつか褒めてくれたピンクのシャドウをのせて、主張しすぎない程度に赤いグロスを馴染ませる。

電車の時間まではあと1時間半。
まだまだ余裕だ。

それから訂正したての設計図を確認して、アイデアが浮かべばメモをして……
そうしているとだいたい夢中になっているので、そこで30分が過ぎる。

荷物を詰めて、電車まであと1時間。
時計を見つめて、私はケータイを握った。
短針と長針が真っ直ぐ、時計の盤を左右に分ける。
それに秒針が、かち、かち、と近寄って、ついに長針と重なった。


……今だ。


ケータイに目を落とした瞬間、ファンファーレを高らかに鳴らしながら手元のそれが光る。
その音が鳴りきらないうちに、私は受話器を取った。



「もしもし!」

『もしもし、ナマエ。おはよう。』

「おはよう、今日も時間ぴったり。」

思わず弾む私の声に、彼が笑う。
柔らかい声色が心地良い。


『ナマエも、ケータイ握って待ってただろ。』

「うん……バレてた?」

『まあな。』

だって、早く話したくて。と言い切る前に、彼が再び口を開く。
その言葉に、私の体温がぐっと上がったのが分かった。


『それに……俺も、握ってた。早く話したくて。』

照れくさそうに笑う彼の声が、優しく鼓膜に溶ける。
甘いその囁きは、いつになっても私の心拍数を上げる。


「1週間、何か楽しい事あった?」

『ああ、今週は……』

何があった、誰がこんなことをしていた、どこに行った……
そんな彼の話を聞くのが私の1番の楽しみになるのは、あっという間だった。

ニブルヘイムからミッドガルに来て、それから街の外の景色なんて全く見ることが無くなった私にとって、彼の話はいつも冒険に溢れていて、新鮮で。
まるで買ってもらった絵本をはじめて開いた時みたいな、そんなわくわくで胸がいっぱいになった。

そして何より、彼と同じ時間を重ねることが、私の何よりの幸せだった。








『……そろそろ時間だな。』

「あ……そうだね、」

時計を見ると、電車の時間まであと15分。
そろそろ家を出てもいい時間だ。
思わず沈んだ声でこたえた私に、クラウドはふっと笑った。


『来週がまた、待ちきれなくなるな。』

「うん、私も。あまり無茶しすぎないでね。」

『ああ、分かってる。』


私も小さく笑って、じゃあ。と少し耳を離した時だった。



『ナマエ。』

「うん、何?」




……あ、今、きっと彼が笑った。




『行ってらっしゃい。』

「……行ってきます!」



会えない日ばかりだけど、もうあの時みたいに彼の姿を求めてきょろきょろと街を見回す事も無くなった。

青空を仰ぎ、空気を吸い込んで、ひとつ歩みを進める。

今週も、精一杯生きよう。
今日もどこかで戦い続ける彼に、笑われないように。

胸を張って、力強くまた1歩を踏み出した。


こうしてまた、私の1週間がはじまる。









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