Autumn of Sleep







こちらの作品は、えれきちコラボ第一弾、
「徒花と道草」ゆきち様
書いてくださった「花と約束」の番外編です。
ゆきち様のサイトには、私が書いた
「夜明けのあいだに」番外編を
掲載していただいております。
ゆきち様の「徒花と道草」も是非。









昨夜閉め忘れたらしい窓から入り込んできた風にふるりと身体を震わせれば、肩が全部出てしまうほどずり下がっていた布団がふわりと首元まで掛けられた。
季節はもう秋になろうとしていた。肌を撫ぜる早朝の空気はひんやりと冷たい。けれど掛けられた布団はふかふかで、おまけに大好きな人の香りがするから心地好くて、起きなければと思ってもなかなか瞼が上がってくれない。

「んん……」

微睡みの中、手探りで自分の右側にあるであろう温もりを探せば、大きな手がそれを捕まえて、きゅうっと絡まる指。それから、ふっと空気を揺らした小さな笑い声に薄目を開ければ、頬杖をついたクラウドが驚くほど優しい眼差しで私を見つめていた。

「クラウド…?」
「悪い、起こしたか?」
「……そんなにじっと見つめられてたら、気になって寝てられないよ」
「ふ、そうか」
「どうしたの?目が覚めちゃった?」

寝起きで掠れた声が気になって何度か咳払いをしながらそう尋ねれば、クラウドはいや、と言った後に言葉を続けた。

「せっかく久しぶりに会えたんだ。あんたの顔を見ていたくて。それに、……起きて、ナマエがいなかったらと思うと、怖かった」

尻すぼみで吐かれた言葉は、私の目をまるくさせるには充分すぎるものだった。クラウドらしくない、あまり他人に見せない気弱な部分や幼さ。そういうものが見えて、心臓を鷲掴みにされたように締め付けられる。いつもの冷静で格好良いクラウドも大好きだけれど、こんな一面は私にしか見せてくれないのかもなんて思ったら、愛おしさが溢れてどうしようもなくなった。


あの時私たちはお互い、別々の道を歩むと決めた。歩く道や、歩くスピードは違っても、いつかこの広い世界のどこかで、また一緒に並んで歩けると信じていたから。その時に、色んなことがあったねって、笑い合って話せるって信じていたから。でも、いくら信じていても、寂しさなんてものは簡単には消えてくれないし、クラウドのことを考えると息苦しくなることだってある。
クラウドはそんな不安に駆られることなんてないんだろうと思い込んでいたのだけれど。

「私だけじゃなかったんだ…」
「ん?」
「…ううん、なんでもなーい」
「なんだそれ」

クラウドも、おんなじ気持ちだったんだね。
そんなチープな言葉は呑み込んで、広くて暖かい胸に擦り寄る。急に距離を詰めた私に驚いたのか、クラウドは一瞬だけ固まって、でもすぐに背中に逞しい腕が回された。

「はぁ、あったかい」
「急に冷え込んだからな。風邪引くなよ」
「ふふ、クラウドこそ」

くすくす笑い合う、擽ったいような穏やかな時間が流れる。この時間がずっと続けばいいのに、なんて、そんなのは贅沢かなぁ。
今日が終われば私はまたミッドガルに戻って、仕事に追われる日々が始まる。クラウドもきっと、やり遂げなきゃいけないことのために世界中を奔走するんだろう。またしばらく会えなくなっちゃうのはやっぱり寂しいけれど、おんなじ気持ちだってわかった途端に、なんだか頑張れそうな気がしてくるのだから私も随分単純だ。

「ね、クラウド」
「なんだ?」
「今日はごろごろしてようよ。起きてもいなくならないって約束するから、もうちょっと一緒に寝よ」
「……ああ、そうだな」

約束だ。そう言って私を抱き締めている腕に力を込めて、クラウドは瞼を閉じた。まるで離さないと言われているようで、胸の真ん中がぽかぽかする。私も釣られて瞳を閉じて、大好きな人の暖かさに包まれた。
本当はせっかくだから、街を歩いたりしようかなんて考えていたけれど、なんだかいつもより可愛く見えるクラウドにそんな気も削がれて。秋の肌寒さに甘えて、こんな日があってもいいよねと言い訳をしながら、揃って心地好い眠りについたのだった。



また会える日を楽しみに、私は私の今を精一杯生きるよ。

─Autumn of sleep─









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