かの金髪についての考察と研究





「クラウドの髪ってさ、毎朝セットしてんの?」


昨夜、一緒に飲んでたユフィが突然真剣な顔をしたと思ったら、尋ねられたのはそんな質問だった。


クラウドのつんつんのあの髪は、天然ものだ。
そして聞く限り、それはどうやらお母様譲りのものらしい。


「ううん、元からああいう髪型だよ。」

そう答えた私に、ユフィが爆笑していたのをよく覚えている。


しかしそこで浮かんだひとつの疑問。




"あれ全部撫で付けたらどうなるんだろう"



そしてその飲み会の次の夜、私と彼(と彼の髪)の攻防戦の火蓋は切って落とされたのである。







「いやだ。」


案の定返ってきた予想通りの反応にため息をつく。


「いいじゃん、1回だけ!クラウドのストレートヘア見てみたいの!
アイロンとワックスをちょちょっとやるだけだから!」

「断る。」

「すぐ終わらせるから!ねえ、ちょっとだけ!」

「絶対に駄目だ。」

「なんで!」

「無駄だからだ。」

「どうして!」

「どうしても。」


厄介払いをするように、クラウドがしっしっと私を手で払ってテレビの前のソファに腰掛けた。

ちょっと。
こんなのでも一応あなたの彼女ですけど。

良くない?髪の毛くらいいじっても。



悔しくなって、私は傍にあったタオルを手に取った。



「……クラウド……?」


後ろからそっと声をかける。
なるべく優しく、儚く、イメージはティファだ。


「髪の件ならもう断ったはずだ。」

振り返りもせずに答える彼とテレビの間に立って、私は彼の膝に跨った。

何のつもりだ、と怪訝そうに私を見つめる彼に、上目遣いで首を傾げる。
まるで釣り糸を川に垂らす釣り人の気分。
それか草陰で狼を狙う狩人。


「少し、わがまま言いすぎたよね……
ごめんなさい、怒らせたかった訳じゃないの。」

そっと彼の滑らかな頬を撫でて額にキスを落とす。
腰を少し寄せると、彼がぴくっと眉を上げたのが分かった。
掛かれ、掛かれ……!!

首元に鼻を埋めて擦り寄る。
一瞬隠し持ったタオルの方を見た気がしてドキッとしたけど、何も聞いてこない所を見るとぎりぎりバレていないらしい。


はぁ。とクラウドがため息をつく。
そして遂に、彼は私の腰に腕を回した。

……掛かった!!!


その瞬間彼の両腕をとって、タオルでぐるぐる巻きにする。
最後にぐっと縛って、ついに私はクラウドを捕獲した。


「はっはっは、掛かったなクラウド!!」

「……」


スキップでドライヤーとヘアアイロン、それにワックスを抱えてクラウドの元に戻る。
腕を纏められて不機嫌そうに大股を開いてソファに座るクラウドがめっちゃ可愛い。

ちょっと失礼しますねー、と髪を弄り始めた私に、クラウドは諦めたように目を閉じた。





結果から言うと、クラウドの髪は全く言うことを聞いてくれなかった。


「だから言っただろ、無駄だって。」

ふん、と鼻で笑うクラウドにむすっとしてからため息をつく。
なんだよ、縛られてるくせに。


「へーへーすみませんでした。」

持ってきたなんやかんやを洗面台に持っていく。
クラウドのタオルも解いてあげなきゃ。



そう思いつつリビングに戻ると、そこには、既にそれを解いた彼が立っていた。


「えっ、なんで!?タオル……!!」

「このくらい簡単にほどける。
なめてもらったら困るな。」


まずい。
完全に機嫌が悪い。
しかも面倒臭い方向で。
ずんずんと彼が歩み寄ってきて、咄嗟に後ろに後退る。

どん、と背が壁にぶつかって、私の両腕は呆気なく彼にとられた。
そのままそれらはタオルで縛られる。


……んぐ、ほどけない。



「される覚悟が、あったんだよな?」


意地悪に笑った彼に、今度は私が諦めたように目を閉じた。








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