Episode 20





「これが、神羅の裏の顔だ。」

そう言い放ったクラウドに、私たちは言葉を失う。

こんな、人間を使って実験だなんて……
私が働いている会社は、こんな、惨いことを。


プレートを落として、人間の身体を使って実験して……

こんなんじゃ、悪者はまるで…………



「……クラウド?」


ティファの言葉に、ふと現実に戻される。
そのクラウドを見ると、まるで何かに怯えるように顔を顰めていた。
何かが見えたのか。

空洞の奥に目を凝らした途端、私たちは影のようななにかに押し流された。






「いっ、ててて……」

またこれか、と無理やり瞼を押し上げる。
みんなも同じように押し流されたようで、私が目を開けてすぐに、クラウド達も目を覚ました。


「ナマエ。」

「クラウド、大丈夫?」

「ああ。」


目を覚ましたティファが、ウェッジに駆け寄る。
彼が生きてるのを確認して、ティファは小さく笑った。






「ウェッジの事、任せていいか。
オレはここで仲間を待つ。
ウェッジが生きてたんだ、可能性はゼロじゃない。」

しばらく進んだところで、バレットが突然立ち止まる。
彼は悲しそうな顔をして、私たちにそう言った。

その言葉に、黙り込む2人。


そして、クラウドが意を決したように口を開いた。


「俺は支柱の上でジェシーとビッグスと話した。
だから、ふたりの状況は知っている。
帰ってくる可能性は……」

「でもよ」




「星に帰ったんだよ」

ティファが、思い出したように言った。
星に帰る。星命学の考え方だ。
そのティファの言葉に、バレットは上を向いた。


「帰る場所、間違えやがって。
……立ち止まってたら、あいつらに笑われちまうな。
ったく、重てえなぁ。」






「みんな、私……ここで。」

みんなが五番街を進む中、私は途中で立ち止まった。

「ナマエ、どうして。」

みんなが振り返って私を見る。
ティファの声は、どことなく寂しくて辛そうだ。

……でも、みんなとは一緒にはいられない。


「あてがあるの。
……それに、みんなとは、どんな顔して一緒にいたらいいのか……分からないから。」


じゃあ。と、小さく笑ってみんなに背を向ける。
次は誰も、私を引き止めはしなかった。





「こんばんはぁ…………」

とぼとぼと歩いた道を少し戻って、やってきたのはチョコボ屋のサムさんの元。


「ん?あぁ、兵器開発んとこの嬢ちゃんじゃねえか。
ひでぇ事になっちまったな。」

「ああ、はい、まあ……」


神羅がプレートを落としたと分かった今、なんとなく所在の無いような気分になる。
でも、起こってしまった事はもうどうしようも無い。
取り返しのつかない事だ。


「あの……実は、サムさんにお願いがあって……」

恐る恐る彼を見上げる。
おう、どうした?と腕を組むサムさんに、私は意を決した。


「……一晩だけ、泊めてくれませんか!!!」







「それで?どうしようもないから言われるまま あたしんとこに来たって訳かい。」

「はい、すみません……」


男の家に1人女の子を置くって訳にはいかねえな。とサムさんに紹介されてやってきたのは、何だか妖しげな雰囲気の手もみ屋。
妙に肌蹴た着物を揺らしながら、その女性、マダム・マムさんは私を見て小さくため息をついた。


「最近客じゃない訪問が多いね……
まあこんな時だからね。仕方ないよ。
一晩くらいゆっくりしていきな。
あたしだってスラムの住人だ、困った人を追い出しゃしないよ。」

憐れむように笑って、マムさんは私を店の中へ招き入れる。
お店の中も外見同様に異国風のインテリアで統一されていて、薄暗い雰囲気に妙な気分になりそう。


「こっちだ、着いてきな。」


呆れたような態度とは裏腹に私の肩を優しく叩いて語りかける彼女に、どこか安心する。


「……あの、何も聞かないんですか。」

「何もって、何をさ。」

「どこから来たとか、なんとか……」

「サムの紹介なら変なやつじゃないだろ。
それにスラムには訳アリの人間が集まってくる。
いちいち聞いてちゃキリがないってもんさ。」


それとも、と、マムさんが着物を翻して私を振り返った。


「何かあたしに後ろめたい事でもあるのかい?」

「い、いえ!そんなんじゃないです!」

「だったら、聞くことは無いよ。
部屋はそこ上がって右。
今日はもう店じまいにするから、客のことは気にせず好きにしな。」


じゃああたしは寝るから、と踵を返してひらひら手を振る彼女の背中にお礼を言って、私は部屋に入ると、ベッドに寝転んだ。








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