溶ける。
「……それ、やめないのか。」
裸のまま、適当にそこら辺に落ちていたクラウドの大きめのパーカーを1枚羽織ってベランダに出た。
煙草をふかす私に、クラウドが不機嫌そうに呟く。
「んー、やめる予定は無いかな。」
ベッドに腰掛けたままのクラウドに、背中を向けたまま答えた。
「どうして。」
「どうしてって……別に、理由はないけど。」
そもそも煙草なんて、明確な理由があって吸っている人の方が少ないんじゃないだろうか。
空に溶ける煙を見つめながら、ぼーっと考える。
「……クセ、かな。」
「クセ?」
「うん、なんて言うか……一人でいた時の癖。」
吸い始めたのは、20歳になってすぐ。
昔付き合っていた人と別れてから、それを誤魔化すように吸い始めた。
……そんな事、クラウドには言えないけど。
そんなことを一人心の中で呟いていると、クラウドは徐にベッドから立ち上がって私の隣にやってきた。
風下に立つ彼に煙がかからないようにそっぽを向いて煙を吐く。
すると突然、クラウドが私の摘む煙草をひったくって勢いよく吸い込んだ。
「っげほ、」
「ちょっ、クラウド!何やってるの!?」
案の定彼がむせて、私の手元の灰皿でそれを揉み消す。
その目に浮かぶ涙が、普段の彼と違って不格好だ。
「……俺も吸う。」
「はっ?」
「煙草、ナマエが吸うなら俺も吸う。」
人の煙草を取り上げたと思ったら、次はそんな突拍子のない事を言うクラウド。
思わず間抜けな声で聞き返した私を、彼は真剣な顔で見つめ返した。
「どうして、」
次は私が尋ねる番だった。
一方のクラウドは、よっぽど煙が喉にきたのか咳払いをして唇を親指で拭っている。
「どうしても。」
「駄目だよ、健康に悪いし。」
「知ってる。」
頑固なクラウドに、思わず困惑した。
そんな戸惑う私を、クラウドが抱き寄せる。
少し彼から香る煙草の匂いは、私のとは違って甘く、ほろ苦い。
「あんただって、身体に悪いだろ。」
「別に、私は」
私はいいから。
そう言い切る前に、その口は彼によって塞がれた。
触れた部分は熱をもって、そっと彼の舌が私の唇に触れる。
ゆっくり味わうように彼の熱が私のと絡んで、しばらくすると、それは糸を引いてゆっくり離れた。
「ん……クラウド、」
「苦いな、」
唇をちろ、と舐める舌が心を煽る。
やば。顔が熱い。
「ナマエに先に死なれると困る。」
「大袈裟だよ。」
「どうかな。」
「というか、そうなると私が見送る方?」
「俺の最後はナマエがいい。」
クラウドのワガママに、思わず笑う。
「プロポーズみたい。」
そう言った私に、クラウドは少し目を見開いた。
それから私と同じように笑って、次は触れるだけのキスを落とす。
「それは、近いうちにな。」
私の左手をとって、薬指を撫でると、彼がそう呟いた。
その言葉と行為になんだか満たされて、隣の肩にもたれ掛かる。
クラウドが私の髪に口付けたのが分かった。
ポケットに入っていた煙草の箱を、ベッドの上に放り投げる。
なんだか、もう吸う必要無いかも、なんて。