Episode 9





「おはようございますー。」

「あぁ、ナマエちゃん……おはよう。早いね。」

「おはよー、お疲れ様。」

「少しでも何か役に立ちたいなと思って。
夜通しお疲れ様です。」


いつもの出勤時間よりかなり早めに会社の席に着く。
他にいるのは魔晄炉の件で残らざるを得なかったベテラン社員ばかりだった。
課長さえ椅子の背もたれに死んだように寄りかかっている。


私の手元には、賄賂用に買ってきた缶コーヒーと、設計図の束。
私の設計図たちをみてもらうには、この 人が少なくて仕事が一旦停滞しているこのタイミングしかない。


「課長。……課長、おはようございます。」

「ん……?ああ、ナマエか。おはよう。どうかしたか?」

「課長お疲れみたいなので、良かったらコレ……
昨日は課長や皆さんを残して私たち帰ってしまったので、申し訳ないです。」

「いや、いいんだ。追い出したみたいで悪かったね。
これは受け取っておくよ。ありがとう。」


私からコーヒーを受け取った課長が、ふと私の目を見つめる。
……なんだ?
すると突然、小さく笑った。


「本当の用事は、これじゃないんだろう?」

なるほど、バレてたか。


「……実は、昨日帰ってから兵器の改良案と新しい開発案をまとめてきたんです。
是非とも、見て欲しくて。」


課長のデスクにそっと束を置くと、コーヒーを片手に課長がペラペラと書類を捲っていく。
ごくりと唾を飲んで、その様子を見つめた。



無言の課長と、紙をめくる音だけが私たちの周りに響く。

今になって不安になってきた。

つまらないとか言われたらどうしよう。




しばらくして、そっと課長が書類を置いた。
コーヒーを1口啜って、小さくため息をつく。
それは疲れからか、それとももしかして、がっかりされたのか。



「……どう、ですか。」


「昨日の夜、君たちが帰ってきてからなんだが、本部長チームと統括が来てね。」

「スカーレット統括が?」

「ああ。それで、頼まれたんだよ。
今までの凝り固まった古いアイデアは一新して、斬新で使える兵器を作って寄越せと。」




そこまで言うと、課長は私を見上げて優しく笑った。


「君のアイデアをいくつか推薦しておこう。
まさに斬新なものばかりだ、統括の目を引くかもしれない。」



私のアイデアを……

……うそ、本当に、!?
とりあえず頭をがばっと下げる。

「あ……ありがとうございます!」

思わず大声で言った私に、課長が迷惑そうな顔をしてからまた笑った。


「ただ、私ができるのは推薦までだ。
兵器開発部門からは出せるだけの案を出す。
そこに埋もれるか勝ち残るかは、君の実力次第。
訂正箇所があるなら今のうちに直して、今日中にまた持ってきなさい。
後悔がないように、しっかり見直しておくんだ。わかったね。」

「はい、分かりました。ありがとうございます!」

その日の私は自分の設計図のことばかり考えていて、
先輩に何度か頭を引っぱたかれたりしたが、それでも頭の中はそれでいっぱいだった。







「うっわ……何コレ。」


自分がまさに思ってたように、部署の誰かが声を漏らした。


あれから翌日。
目の前には、傷から煙を出す壊れかけの真っ赤な大型バイク。
フロントフェンダーを覆うように飛び出た部分に、縦に真っ直ぐ刀のようなものが突き刺されたようで、爆発を起こさなかったのが奇跡だ。


ソルジャー3rdのローチェさんのバイクは特注品。
スピードジャンキーと呼ばれ、スピードを愛する彼のために、兵器開発部門のベテランチームによって作られたものだ。

排気量2,700ccのどデカいエンジンと、前後ろのタイヤを別々に動かすことの出来る特別な仕組み。
こんなバイク、世界を探しても他には無いだろう。



「あの……このバイクがどうしてウチのチームに?」

恐る恐る課長に尋ねる。
私のいるチームは ほかのメンバーこそ経験をなかなか積んだ先輩だが、なんせ私というドの付く新人を抱えている。
効率だけ考えるなら他のチームに任せるべきだ。


「元のチームが他の作業に追われていて、ここまで手を回せないんだ。
それと……斬新さに期待してね。」

それだけ言うと、バイクといくつかの書類を残して彼は去っていった。


「……よし、一度分解して中の状態を見よう。
話はそれからだ。」

チームのリーダーが声をかけて、それぞれが分解に取り掛かる。


しかし、バイクをよく理解した壊し方だ。
見れば見るほど、的確にエンジンを狙ってるのが分かる。

神羅のバイクは他と違ってフロント部分があり、そこに重要な部品がぎっちり詰まっている構造になっている。
これを壊した相手は、その神羅製バイクの構造を知っていた……?


「これもまたアバランチの仕業らしいよ。」

チームの誰かがぼそっと言った。


「ああ、らしいな。
それにこの壊し方、素人にできるやり方じゃない。
先日の魔晄炉でも兵器をぶっ壊されまくったし、もしかしたら相手方に、どこぞの兵士でもいるのかもな。」

「ソルジャーだったりして。」

「ソルジャーがなんだって神羅の施設ぶっ壊すんだよ。
もしかしたらウータイの手先だったりしてな。」

みんな手はテキパキと動かしつつ、怖いな、勘弁してほしいな、などと思い思いに語っている。


もし相手がウータイなら、また戦争になるかもしれないのか……



だったら、


「だったら、戦争になる前に使える兵器をもっと作らなきゃですね。
ミッドガルの人々を守るために。」

私のぼそっと呟いた言葉に、チームの動きが止まった。

……えっ、私なにか変なこと言った?
言ってないよな?


少しの沈黙、みんなが俯く。


その中、リーダーがふっと笑った。


「そうだな、俺たちはその為に兵器開発をしてるんだもんな。」

「ナマエ、ナイス。
私、すっかり悪い方向にばっかり考えてた。」

「ああ、なんか目が覚めたな。」

「よし、張り切って、まずはこのバイク直すぞ!」

「おう!」



再び手を動かし出すチームのみんな。
その表情には誇りが浮かんでいるように見えた。








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