Episode 8
妙に真剣な面持ちのジェシーから頼まれた依頼はこうだ。
次の作戦で使う爆弾のユニットのために神羅の倉庫から火薬を頂戴したい。
だから着いてきて、ジェシーが倉庫に侵入する手伝いをしてくれ。
そして、それは他のアバランチのメンバーには内密に。
全く、秘密の多い組織だ、アバランチってやつは。
マテリアを投げて寄越されて、受け取ってしまったものだからもう断れない。
「報酬は悪くない。」
ジェシーが天望荘から帰っていくのを見届けて、ぼそっと呟く。
己に言い聞かせるようにして、気乗りはしないがその作戦に加担することにした。
「ナマエちゃんとは、正直付き合いが難しいんだよね。
いい子だし可愛いけど、ほら、神羅の人でしょ?
どうしてもあの子、蚊帳の外になっちゃうっていうか。
アバランチのメンバーみんな、距離を測りかねてるところはあるのよね。」
ジェシーが先程零していた言葉を思い出す。
思えばいつも、あいつは1人だ。
あの町でもそうだった。
始発電車に揺られながら、ニブルヘイムでの出来事を思い出していた。
ニブルヘイム。
私とティファ、そしてクラウドの故郷。
魔晄炉しか無い、いわゆるド田舎の部類に入るその山間の町が私は大好きだった。
……あの時までは。
私の両親は殺された。
神羅にでも、セフィロスにでもない。
強盗に、殺された。
両親の最期はあっけなかった。
夜中に1階で争う音が聞こえると思ったら、様子を見に行った時には喉元を掻き切られて死んでいた。
私も、襲われたはずだ。でもよく覚えていない。
ただ、目を覚ました時には頭が酷く傷んでいて、どうやら殴られたのだと分かった。
両腕は後ろ手に縛られて、放り捨てられるように私は今、床に転がっている。
涙も、出なかった。
心を満たすのは、絶望と憎しみ、そして虚無感。
なんとなく、窓から見える景色に目を向ける。
その時だった、クラウドが私の中で特別になったのは。
窓から外を見る彼と、ちょうど目が合ったんだ。
彼が私を見て目を見開いたあの表情を、よく覚えてる。
私が目を逸らしたすぐあとに、自分の家のドアが勢いよく開かれるのが分かった。
「ナマエ!!」
駆け寄って、大丈夫かと叫ぶ彼。
両の目がエメラルドみたいで綺麗だな、と思った。
金髪も錦糸みたいにしなやかで、月明かりに照らされて輝く。
「……クラ、ウド……?」
「ナマエ待ってろ、すぐにほどくから」
私のために必死になってくれる彼に、漠然と、やめてほしいな。と思う。
「クラウド……もう、」
「しゃべるな、キズがひどくなるだろ!」
「もう……いいの。もう、何も無い……」
必死になってロープを解こうとするクラウド。
やっぱり涙は出なかった。
「もう……死んでいい、私も。」
「ダメだ!」
私の言葉に、クラウドが手を止めて私に怒鳴った。
「……どうして、」
「俺が、ナマエに死んでほしくないから!
何も無くなんてない、俺がいるだろ……!」
その時私は、やっと泣いた。
声を出して子供らしく泣く私を抱きしめる、頼りない腕。
後ろで結んだ彼の髪が、目の前でぴょこぴょこ揺れている光景が、私の絶望の記憶のラストシーン。
必死にひとりで生きた。
その後クラウドが出ていったその町に、私が留まる理由は無かった。
今度は、私がクラウドを守る。
「……はぁ。」
なんで今、こんなこと。
仕事前なのに、完全にいらん事考えた。
小さい時のクラウドは可愛かったなとか、ティファの方が可愛かったとか、どうにか思考を逸らす。
バッグの中には数々の兵器の設計図。
昨日結局眠れなくて夢中になって書いたものだ。
私みたいな新人のアイデアが聞いてもらえるはずなんてないんだけど、どれも自信作。
せめて課長には銃を突き付けてでも見てもらおう。
銃持ってないけど。
この街は、ティファは、マリンは……クラウドは、私が守るんだ。