Episode 10





『緊急放送、緊急放送。各部署に告ぐ。
アバランチと名乗る反神羅組織による魔晄炉爆破予告声明のため、特別警戒態勢を敷く。
関係部署は速やかにマニュアルに従い、各自持ち場に着くこと。繰り返す。─────』




作業も波に乗った11時頃だった。
突然社内に流れる緊急放送、それに顔を上げたチームのメンバーと目を合わせる。


「オイオイ、また爆破かよ。」

「血の気が多いね、アバランチさんは。」

誰かがついたのが伝播して、思わず私もため息をついた。
ほんと、迷惑な話だ。

いけない いけない、さっきチームのモチベーションが上がったところなのに。


「終電が早まったら困る、みんなさっさと終わらせるぞ。」

「はいよ。」




それからの作業の進歩は早かった。
流石は先輩方と言うべきか。
無駄な話ばかりしつつ、動きには全く無駄がない。

結局、ローチェさんのバイクの修理作業は午前のうちに終えてしまった。
リーダーが課長に報告を終えて、渾身のドヤ顔をたたえつつ帰ってくる。


「報告完了。
課長、もう終わったのかーってひっくり返ってたぜ。」

「マジで?見たかったかも。」

「リーダーの特権だな。」

「はいはい。」

冗談を言い合うチームの先輩に、思わず笑いが零れる。
それにならったように、皆もくすくす笑いだした。






ふと、リーダーが真剣な面持ちで私を見つめる。


「それと、ナマエ。お呼び出しだ。出すものがあるだろってよ。」




出すもの。
設計図の訂正版のことだ。


「あ、はい!行ってきます。」

自分のデスクに乗っけた紙の束を抱えて、課長の元に向かう。
背中に受ける、気の抜けた「行ってらっしゃい」の声が、何となく私の背筋を伸ばした。





「課長、お待たせしました。
お話っていうのは、設計図の件で間違いないですか?」

窓の外を眺めていた課長が、椅子を回して私の方を向く。
……なんだか、緊張してきた。


「ああ、書き上げて来たかい?」

「はい。……こちらです。」

課長が私の手から設計図を受け取って、ぺら、ぺら、と1枚ずつ確認される。
息を飲んで見つめる私に、課長が顔を上げた。




「うん。よく直して来たね。じゃあ、預かるよ。」

はぁ……良かった……!!
とりあえず第一関門突破!と、内心ガッツポーズ。


「はい、よろしくお願いします!」

頭を下げた私に、課長が悪戯っぽく尋ねた。


「……自信は?」



自信、そんなもの、

「これ以上のアイデアは、誰にも出せないと思います。」




私の答えに少し目を見開いて、課長がうんうんと頷く。


「君のそういう所が、この斬新なアイデアの源かもしれないね。」





「あ、ナマエ!おかえり。何?提出忘れ?」

チームの元に戻ると、先輩の1人から声を掛けられた。


「いえ、ちょっと……」

言葉を濁す私に、先輩が口を尖らせる。

「何よ、チームに隠し事は無しでしょ?」

「そういうお前は、こないだ彼氏と別れた事はちゃんと皆に言ったのか?」

「なっ……!!それは秘密って……」

「チームに隠し事は無し、だろ?」

「このクソ男……!!」


ゲラゲラと笑うリーダーを殴る先輩。
それを見つめる先輩方もなんだか楽しそうで、おかしくて笑う。


不意に違和感を感じて、私は首を傾げた。
……あれ、そういえば、何でみんな何もしてないの?
午後の分の仕事がまだ残ってたはず。


「あの……先輩。残りの仕事は……?」

私の質問に、チームのメンバーのテンションがガクッと下がったのが分かった。


「ああ……それなら、例のベテランさんチームが丸ごとかっさらってったよ。」

「アイツらよっぽど手柄が欲しいのね。」

「俺らに手柄寄越したくないだけだったりしてな」

「有り得る。」

先輩が、例のベテランチームのデスクの方向に「べーっ」と舌を出す。


「そんなこんなで、俺たち今日はやる事なしって訳だ。」


ガハハ、と下品に笑って、リーダーが突然私の右肩を掴んだ。


「ナマエ……こういう鬱憤とイライラが溜まった時、どこに行くか知ってるか?」

「い、いえ……」

そして次に、左肩が先輩に掴まれる。


「全くナマエは可愛いねぇ。あたし達が大人の遊び方ってのを教えてあげるよ。」





数十分後、何故か私は、欲望の街 ウォールマーケットにいた。








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