Episode 3





とりあえずバッグを201号室の前に置いて、ティファの帰りを待つ。



そっか……これからはお隣さんか。
あんなに遠くて会えない存在だったはずなのに、不思議な感覚だ。

これからはもう、探さなくてもいいんだ。



部屋の鍵は持ってないので、ドアに寄りかかって共用の廊下に座り込む。
さっきはあの場所から早く離れたい一心だったけど、冷静に考えたらティファに鍵を預かってくるべきだった。


まあいっか。
頭を冷やすいいタイミングかもしれない。




そもそも私が彼を探していたのは、他でもない。
彼に貰った恩を返すためだ。


でも今となって考えれば、故郷を飛び出して独り街に出てきた私は、それをミッドガルで生き抜く心の支えにしていたのかもしれない。




遠く、遥か上の方で、魔晄炉が魔晄を吸い上げる音がする。

神羅カンパニー、兵器開発部門。
そこに身を置いたのも、クラウドに会う可能性を少しでも上げるためだった。
クラウドがソルジャーになるために町を出ていったとティファから聞いて、同じ会社にいれば出会う事もあるかもしれないと思ったし、
こんなに大きい会社にいれば、それだけで多くの人と出会えるだろうと確信していたのだ。

今となっては、人々の暮らしを支え、平和を守る神羅の兵器開発部門で働くことは、私の誇りになっている。




そして思い出すのは、今日の夕方の魔晄炉爆破事件。
犯人はアバランチを名乗っているらしいけど、人々の危険を脅かして便利な生活を奪った彼らは、神羅の一員としてどうしても許せない。

被害にあった同僚もいた。
魔晄を吸い上げることは星の命を奪うことだと魔晄炉に爆弾を仕掛けたらしいが、罪もない住民の生活を壊して自らの主張を通そうとするなんてテロリストのやる事だ。

何より悔しかったのは、その壱番魔晄炉のセキュリティのために置かれていた兵器たちが、そいつらに対して意味をなさなかったという事。
破壊された兵器の中には、私の部署が改良したものも数多くあった。
それの破損や破壊の報告を受けたチームのみんなの顔が浮かぶ。みんな悲しくて悔しそうだった。

明日会社に着いたら、誰より早く破損状況を確認させてもらおう。
それから対策を練って、修理できるものは修理の手伝いも。
悔しい。辛い。でもそんなこと言ってられないくらいにやることは沢山ある。

アバランチなんかに負けないように、私も頑張ろう。
今日からはクラウドだっているんだ。
恥ずかしくないように働かなくちゃ。



しばらくすると、2つの足音が天望荘の階段を上る音が聞こえた。
そして近付く話し声。

「ここなの 名前は天望荘。部屋は2階ね。」

ティファの声だ。

「おかえり、待ってたよー。」

ひらひらと手を振ってみる。

「ごめんねナマエ!私すっかり鍵渡すの忘れてて……」

「ううん、大丈夫。私も忘れてたし。」

2人で苦笑いしてから、ティファがクラウドに向き直る。

「この201号室が 私の部屋。これからはナマエの部屋でもあるね。私はたいてい店にいるから、ここは眠るだけ。
なにもなくて 恥ずかしいくらい。」

「ティファ、私散らかしちゃったらごめんね。」

「ふふ、怒っちゃうかも。」

「それは気をつけなきゃ……」

軽口を叩いて、クラウドに202号室の鍵を渡す。

「はい、これ。一つだけだから無くしちゃ駄目だよ。」

「ああ、分かった。」

クラウドが鍵をぎゅっと握った。
手、大きくなったなぁ。

ティファとクラウドがドアの前に座り込む私の前を通り過ぎて、202号室の前に立つ。

「202号室はここ。ナマエが空けてくれたの。」

「助かる、ナマエ。」

「いいえー。」

少しでもクラウドの役に立てたら嬉しいからね。
でもクラウドがお隣になるなら、お風呂で熱唱するのはやめよう。


「もちろん 大家さんにはクラウドのこと話してあるからね」

「なんて」

ティファの言葉に、クラウドが尋ねた。

「なんて?
あぁ……同郷の友達が部屋を探してるって、それだけ。まずかった?」

「いや いいんだ」


そのやり取りに、また胸が締め付けられる。
お花の事もあるし、きっとクラウドはティファの事が……なんて、考えても仕方ないことが頭を埋め尽くす。

そっか……好きなんだろうな。
ティファは可愛いし、こんなに優しいから……
また後ろ向きな考えに落ちて行ってしまって、とっさに首を振る。
だめだ だめだ、2人の前でそんな辛気臭い顔出来ない。

ぼうっと考えていると、クラウドが203号室を指さした。


「……そっちは?」


ああ、そこは……
ティファも考えていることは同じらしく、私と目を合わせて少し戸惑った顔をした。

「そこは………遅いから 明日になったら挨拶しようか」


「ティファ、私、荷物をそろそろ運びこもうかな。」

外にいるのもそろそろ嫌になってきて、ティファに声をかける。


「ああ、そうだったね!ごめんごめん。はい、これ。」

ティファから鍵を受け取って、ドアを開けた。
明日のこととか、きっとまだ2人で話すことがあるんだろう。
私はまた、時間がある時に話せばいいや。

荷物を運びながら横目で2人を見ると、2人がクラウドの部屋に入っていくのが見えた。


……今のうちに、片付け終わらせておこう。




しばらくすると、廊下のほうでティファの声が聞こえた。

「今日は 色々ありがとう。おやすみなさい」

話が終わったんだろう、ドアを開けて部屋に帰ってくる。

「おかえり。」

声をかけると、優しく笑ってティファが「ただいま」と首をこてんと傾げた。


「なんだか、不思議な感じ。いいね、妹が増えたみたい。」

「ティファと私ひとつしか変わらないんだから、大差ないよ。」


ベッドに腰掛けた私の隣に、ティファも座る。
少し彼女の方に沈んで、広くないベッドだけど2人でくっついて座った。

「そう?私はニブルヘイムにいる時から 可愛い妹だと思ってたんだけどなぁ。」

「やめてよ、恥ずかしい。」


よしよし、とティファが私の髪を撫でる。
恥ずかしくなって、ぶんぶん首を振った。


「……ナマエ、仕事 大丈夫だった?」


……魔晄炉爆破事件の話だ。


「うん……パニックだった。職場も、街も。」

「そっか……」



沈黙が続く。
今日はなんだか色々あって疲れてしまった。
きっとティファもそうなんだろう。

「寝よっか。」

どちらからともなく、寝る支度を始める。

2人で狭いシングルベッドに寝転んだ。


「ふふ、なんかお泊まり会みたい。」

「でも、ナマエも狭いだろうし、どうにかしなきゃね。」

「夜だけクラウドが床に寝て、私たちがベッド使うのはどう?」

「ありかも。」

2人で目を合わせて、くすくす笑う。

「おやすみ、ティファ。」

「ナマエも、おやすみ。」


ティファが電気を消した。
早く寝ないと、明日から大忙しだ。








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