Re;Project
デンジと両片思い
「なぁなぁ、お前チョコ何個もらった?」
「うるさい聞くな」
「あれ?愛しい愛しい可愛い彼女からもらってないのかよ?」

 放課後の教室。その言葉に体が反応してしまった。同じクラスで、なぜか馬が合う男友達…デンジのその友だちオーバ(デンジ曰く「腐れ縁」)がニヤつきながら言った言葉だ。

「彼女とは別れた」
「はぁ?あんないい子だったのに別れたとかもったいねぇ!」
「美人ほど裏があるってことだオーバ」
「はぁ、せっかく応援してたのによ」
「もう放っておいてくれ」

 デンジがそう突き放すと、オーバは渋々と彼から離れていった。どうやら今回の失恋は相当痛いようだ…。あとで慰めに行ってやろう。とは裏腹に、ほっとしている自分がいる。

「聞いたかよname、あいつ彼女と別れたんだって」
「へー。じゃああとでおめでとうって言いに行くわ」
「相変わらず性格悪いな、お前」

 デンジとは中学校の頃からずっと同じクラスだっただけなのに、なぜか放っておけない…言いかえれば構いたくなる。とは言っても、お互いに彼氏彼女を作って、それぞれ楽しいハイスクールライフを送っていた。つまり、デンジとはザ・男友達女友達のお付き合いをしている。

「そういうお前はどうなんだよ。付き合ってる彼氏にチョコあげたのか?」

 ニヤニヤしながら聞いてくるオーバの言葉に、数日前の嫌な思い出がよみがえってしまった。「一緒に帰ろう」って約束していたのに、他の女子と仲良く腕を組んで帰っていたアイツ。

「…その話は止めて」
「あ、はい、失礼しました」

 オーバはまたそそくさと去って行った。そしてクラスメートに呼ばれて、カバンを持って教室から出て行った。

「おい」

 やれやれと思っていたら、眉間に皺を寄せたデンジがカバンを持って私の横に立っていた。

「帰るぞ、早くしろ」
「はいはい」

 早くしろと言うわりに、待たずにさきさき帰って行くのがお約束。だけど、今日はこの場で待たれると困るんだよね。机の中に入れてあるチョコを触ってそう思った。




「彼女と別れたんだって?」「彼氏と別れたんだって?」

 帰り道。ほぼ同時に口を開き、お互いに同じようなことを聞いていた。

「先に言えよ」
「知らない女と腕組んで歩いてました」
「校舎裏で別の男とキスしてるとこを見てしまいました」

 バレンタインだと言うのに、お互いに悲しい思いをしていたんだなぁ。去年の私は、その元彼のために手作りチョコを渡して幸せの絶頂にあった。今年もがんばろうと思っていた矢先に…見たくない光景を見てしまった。まぁ、元から浮気性の男で、以前に何度も同じことがあってその都度許してきたけど、さすがに3回もされると吹っ切れるよね。おかげで立ち直りが早かった。

 だけど、この男は違った。明らかにずーんと落ち込んでいるのだ。これが男と女の恋愛観の違いなんだろうな。

「結構マジで好きだったんだけどな」
「わかるーその気持ち」
「…寂しくないのか?」
「んー、ちょっとは寂しいかな」

 すると、一呼吸置いたのちに「そうか」とデンジは呟いた。

「デンジは寂しいんでしょー?」
「…ま、まぁ?」
「じゃあそんなデンジくんにnameさんからのプレゼントです」

 そう言って、カバンからチョコを出してデンジに見せた。元彼に裏切られたショックを晴らすために、今年はいつも以上に張り切って作った手作りチョコ。自分で言うのもなんだけど、ラッピングも見た目も味もお店で売っているようなチョコに近い。チョコマニアのお父さんからも凄く褒められたから。

「…それ、あいつにあげる用だったんだろう?」
「んー、半分正解半分不正解」
「は…?」
「まぁ食べてみてよ」

 しばらくして、デンジはチョコを受け取った。歩きながらではみっともないから公園のベンチに座った。デンジはまずラッピングをまじまじと見て、包装紙を丁寧に剥がした。蓋を開け、トリュフチョコの見た目に感心したあと、手に取った一粒を一口で食べた。

「どう?」
「ん、うまい」

 と褒められたが、nameにしては上出来だなという嫌味を最後に付け加えられた。何よそれといつもなら反抗するけど、今日はデンジに対して優しい気持ちがあるからしなかった。「私にしときなよ」と、その気持ちを言おうとしたとき、ぼそっとデンジが呟いた。

「…半分不正解の意味がわかった気がする」
「えっ?」

 唇からチョコの味がした。すぐ目の前にデンジがいる。つまり、私は彼にキスされたのだ。

「もう、俺にしとけよ。お前もそれを望んでるんだろう?」
「えっ?」
「バレバレなんだよ」
「……!」




 その数日後、なんで私がデンジのことを好きだとわかったのか聞いてみた。

「嫌味に対していつもみたいに反抗してこないから」
「え?」
「それに、あのチョコ凄くうまかったから、絶対俺のために作ったんだなって確信があった」

 と、彼は自信たっぷりに言った。
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