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シロナと友チョコ
「おはよーシロナ!」
「おはようname」

 登校してすぐ、自分の教室をスルーして1番の友だちのシロナのもとへ。シロナは普通コース私と違って難関受験コースのクラスにいる。テストのときはかなりお世話になってるし、お昼は一緒に外のベンチで食べるんだ。

「今日の放課後一緒に帰ろう!」
「えぇ、いいわよ。でも補講が入ってるから少し遅れるわ」
「いいよいいよ!私も赤点補講があるからー!」

 このように、私たちは性格も頭の作りも全く違うから、周りからは「不釣り合いカップルならぬ不釣り合いコンビ」なんて言われている。「大声で赤点補講なんて言わないの」と、シロナは呆れ笑った。

 よく他の友だちから「シロナさんってかっこいいよね」「頭が良いシロナさんと仲が良いって羨ましいなー」って言われるし、男子からは「お前シロナさんと仲が良いから仲を取り持ってくれない?」とか「シロナさんに俺のことアピールしといてよ」なんて言われる。先生からは成績優秀な優等生だからよく褒められている。下足棟でシロナを待っているときに思い返していた。誰に対しても優しいし、どんなことがあっても冷静だし、大人っぽくて美人だから老若男女問わず人気なのだ。そして、私も憧れている。

「ごめん!name待った?」と小走りでシロナはやってきた。返す言葉は1つ。「ううん、私も今終わったとこ」。

「補講のあと先生に呼ばれちゃって…」
「えっ、何か言われたの?」
「うん。明日の集会でこの間の検定試験の表彰をするからって」
「へー、やっぱりシロナってすごいなぁ」
「そんなことないわよ」

 という会話をしながら、靴箱の扉を開けた。そこから靴を出して履き、さぁ帰ろうと2,3歩進んだけど、シロナが来る気配がない。どうしたものかと振り返ると、シロナは両手にラッピングされたものを持って佇んでいた。

「どしたの?」

 とシロナが見ている彼女の靴箱を見ると…。あるわあるわチョコがある。チョコだけじゃなく手紙も数通入っている。私はほえーと感心するが、当のシロナは眉ひとつ動かさない。

「すごいねシロナ…」
「チョコが好きだから嬉しいけど、差出人がよくわからないとちょっと不安だわ」

 チョコの種類はたくさんある。お店で売っているチョコや、いかにも手作りチョコですなラッピングのもの。シロナは1つ1つをバッグに詰めながら続ける。「お店のものは美味しいけど…みんな似たようなチョコなのよね」「手作りは嬉しいけど、ちょっと怖いと思わない?」。

 最後は「まぁ、それでも嬉しいんだけどね」と言った。だけど、その時のシロナの表情はなんだか寂しそうに見えた。

「行きましょう」
「う、うん」

 シロナはすたすたと先に歩いて行った。私は遅れないように小走りで追いかけた。

「バレンタインって愛の気持ちを伝える日なのに、いつの間にかチョコを介して想いを伝えるようになったわよね」
「え、う、うん…」

 私はさっきの寂しそうなシロナが忘れられなかった。なんであのとき寂しそうにしていたのか聞きたかったけど、黙っていた。自分なりにいくつか理由を考えてみた。シロナが好きなチョコがなかった(まぁ甘いもの好きなシロナはなんでも食べるんだけど)。次に、バレンタインが本来と違う意味になっていることに嘆いている。そして、シロナの意中の人からのチョコがなかった。

「nameはチョコをもらったの?」
「うん。クラスの女子からちょっとだけ。友チョコってやつ」

 すると、シロナは一呼吸置いて「そう」と呟いた。あれ、ますます落ち込んでいる…?

「あっ、そうだシロナ!」

 何とかして元気付けようと、シロナに用意していたチョコをカバンから出した。「ハッピーバレンタイン!」と、可愛いラッピングをした大きなチョコをシロナに渡した。

「……」

 シロナは呆気に取られている。なぜなら、このチョコはシロナのために選んだ、ビッグサイズなチョコだからだ。中身はスーパーで売っている普通の板チョコなんだけど、バレンタイン限定の大判サイズになっている。いやぁ、サブバッグに入れてたんだけど重かったし嵩張った。さて、シロナの反応は…?

「ぷっ」

 吹きだしたあと、先ほどのシロナからは想像できないくらい大きな声で笑い始めた。というか、今まで一緒にいてこんなシロナは見たことがない。こんなに笑われると、なんだか不安になってくる。

「シ、シロナ、どうしたの…?」
「ううん!nameありがとう!こういうチョコ、1度でいいから食べてみたかったの!でも自分で買うのは恥ずかしいし、だからってnameにお願いするのも気が引けちゃって…」

 なんだ、そういうことだったのか。欲しいと思っていたチョコを私がくれると思わずに笑っちゃったんだ。

 すごい、通じ合ってるんだな、私たちって。

「あ、でも。私勉強が忙しくてnameへのチョコを買えてないの。ごめんなさい」
「だからあんなに落ち込んでたの?」
「えっ!なんでわかったの?」
「それくらいわかるって。あ、じゃあ今からアイス食べにいこうよ!もちろんシロナのおごりで!」
「いいわよ。最近お互いに忙しかったから行けてないもんね」

 シロナがいてくれて本当に良かった。じゃなきゃ、こんな明るい気持ちになれない。この先もずっと仲良くいられたらいいなと、チョコを大事そうに抱きしめるシロナを見て思った。
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