Re;Project
笑ってないでキスをして!
「エプロンとかそそるなぁ」
「はぁ?」

出来上がった料理を持ってリビングに運んでるとデンジがそう話しかけてきた。エプロンがそそるって、変態思考丸出しじゃない。エプロンを着て料理を作るのは当たり前なのにね。

「バッカじゃないの」
「あぁ、バカでいいさ」

今日の晩ごはんは、から揚げと卵スープとトマトサラダ。テーブルには自画自賛だけど美味しそうな湯気を立てている料理が並ぶ。

「料理上手くなったなぁ」
「おかげさまで」

いただきます。箸でから揚げを掴んで口に運ぶ。んー、我ながらよく出来てる。味がよく染み込んで美味しい。

「んまい」
「それなら良かった」

最初は料理のレパートリーがなくて大変だったけど、1人暮らし歴の長いデンジに教えてもらったり料理本なんかを読んだりして結構レパートリーは増えた。増えたのにも関わらず今日のメニューが料理の基本、唐揚げなのは、この男のリクエストだから。
それにしても、この人は何をしてても絵になるなー。背高いし、金髪だし、顔は小さいし、カッコいいし…。ジムリーダーを辞めさせられたらモデルとして食べていけるんじゃないだろうか。

「ん、なんだ?」
「えっ?ううん、なんでもないよ」
「……」

すると、おもむろに「あっ」と口を開けてきた。えーと、これは所謂「あーん」をしてくれってことかな?
デンジの取り皿を見ると見事に唐揚げばかりなので、サラダのトマトを箸で掴んで口まで持って行ってあげた。「それじゃねぇよ」なんて目が言ってる。

「野菜もちゃんと食べなさい」

パクッとトマトを一口で食べたデンジ。「覚えてろよ…」って目が言ってる。野菜も食べないと体が保たないんだからね。特にデンジはジムの改造とか改造とか改造とかで外に出ない…キレイに言えばインドア派、ズバッと言っちゃったら引きこもり。だから野菜は余計にちゃんと摂らないとね。

というか、こうやってあーんってしてあげたら野菜食べてくれるんじゃん。

「デンジくーん、キャベツもちゃんと食べましょうねー」
「オマエ…」
「ちゃんと食べないと体が保たないよ?特にデンジは運動とかしないんだから」
「ちゃんと運動はしてるだろ?」
「は?」

家からジムまでの通勤のこと?あんなのは運動とは言わない。あれはただの通勤!片道5分程度じゃないの。

「バーカ夜の運動だよ」
「……」

ダメだコイツ…あれを運動って呼ぶ人なんて聞いたことないわ…。なんて呆れてたら、いつの間にか唐揚げがキレイになくなっていることに気付いた。

「ちょっと!言ってるそばから!唐揚げ全部食べて!あたしあまり食べてないんだからね!」
「男と女じゃ必要なエネルギーも違ってくるんだよ。そんでオレはジムリーダーって仕事を毎日してるし」

ごちそうさまと呟いて、皿向こうに置いとくからなって、シンクに空いた皿をさっさと持って行ってしまったデンジ。まぁ…1人分のノルマの野菜は食べてるから良しとしようかな。唐揚げの1人分のノルマは余裕で越してるけどね。

「ったくもう…」

あたしも完食してシンクに皿を持っていく。そしてエプロンを着て後片付け開始。お気に入りの香りがする洗剤を使った皿洗いはすごく好きな時間。

「…name」
「ひゃっ!い、いきなりなによ!」

好きな時間を邪魔する時間もまたあるワケで…それがこの男のちょっかいタイム。後ろから抱きしめられたり、酷い時はお尻をまさぐられる…。今回は耳元で名前を、呼ばれた。耳が弱いって知っててやってくるから質が悪い…!

「言っただろ?エプロンってそそるなぁってよ?」
「だだからって…ここでやめて!」
「じゃあ早く皿洗い終わらせろよ」
「きゃ…どこ触ってんの!」
「お尻」

ククッて喉の奥で意地悪そうに笑うのはデンジ。そして、もっと意地悪なのはこういう時にキスしてくれないってこと!


笑ってないでキスをして!
(なんでこういう時にキスしてくれないの?)
(オマエが欲しそうな顔してるから)
(はぁぁー!?)
(その分あとでたっぷり可愛がってやってるだろ?)
(……)
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