Re;Project
シャンプーの香り、それから抱擁
「ねぇ、ビールって美味しいの?」

何を言い出すかと思ったらそんな当たり前のことかよ。美味くないビールがこの世にあるわけないだろ。…いや、あるんだろうけど。

「…あぁ、上がったか」

nameが風呂から上がってきた。黒いバスローブを着ている。うーむ、生足…。

「よく飽きもせずに…ビール腹になっても知らないからね」
「そうならないようにするのがオマエの仕事だろ?」
「自分の健康管理ができない男の世話なんてしたくないですー」
「なんだと!」

生意気を言うヤツを捕まえてこれでもかと言うくらいぎゅーっと抱きつく。オレのしめつけるこうげき!

「きゃー苦しい!離して!ギブアップ!ごめん!離せ!」
「やだね」

締め付けから抜け出そうとじたばたするnameの顔を固定してキスした。風呂から出たあとだから柔らかくて温かい。本当なら、nameはキスした後に顔がちょっとニヤけるんだが、今回は違う。

「…ビールの味」

苦虫を噛み潰したような顔をしている。失礼な。

「ビールの美味さが分からないなんてまだまだガキだな」
「うるさいなー」
「そうそう、ビール腹にならないように毎晩夜の運動してるから大丈夫だぜ?」
「ばっ!何言って…」

ぼんっ!と顔が赤くなった。こうやってコロコロと表情を変えるのがコイツをいじめる楽しみなんだよなぁ。

「まぁいいや。早くあのDVD見ようぜ」

と、nameの体を持ち上げソファに座らせる。その隣にオレが座る。そんで肩をぎゅっと抱き寄せる。やっぱり風呂上がりは温かい。nameの体温をいつもより感じる。
DVDプレイヤーのリモコンを操作して電源をつける。「あ」、ローテーブルに自分のビールしかないことに気づいた。

「オマエ何か飲む?」
「んー?自分で取りに行くー」

体温が離れた。少しだけ寂しくなったなんて言えない。寂しさを紛らわすためにビールを一口、二口飲む。
リモコンの再生ボタンを押す。このDVDはオーバが『すっげぇ面白いから』って笑いながらオレに貸してくれたものだ。『でもちょっとスプラッタ系だから怖がるnameにくっつかれながら見たら?』って余計なこと言い足しやがったから1発蹴りを入れておいた。

「買っといて良かったー!」

nameが持ってきたのは最近よくCMでやってる新発売の酎ハイ。酎ハイなんてただの甘ったるいジュースなのによく飲めるよな。

「はいはいどうせあたしの味覚はまだまだお子ちゃまですよ」

…思ってたことが声に出てたのか、それともそういう顔をしていたのか。
でも、そういうお子さまなとこも含めて好きなんだよなぁ。味覚の調教甲斐があるというか。あれ、違うか?
nameはさっきと同じようにオレの隣に座った。戻ってきた体温。少しほっとする。でも、

「そこでいいのか?」
「え?」
「この映画、結構グロいらしいぞ」
「えー…そうなの?」
「グロいの嫌いだろ?ここ来いよ」

足を広げ、オレの中に座るよう促す。こうすればnameが怖がったらいつでもオレに抱き着けるから。それに、オレもnameを抱いていられる。nameを抱いてるとなんだか幸せな気持ちになるんだよな。
そのnameはおずおずとオレの中にやって来た。ちょこんと座ったそれにぎゅっと抱き着く。

「……」

name…オレと同じシャンプーのにおいがする。同棲してるから当たり前なんだが。髪はさらさらでツヤがあって、肌はもちもちしててすべすべ。

「…どこ触ってんの?」

無意識にオレはnameの太ももをなでまわしていた。細すぎず太すぎずちょうどいい太もも。この太ももの膝枕は気持ちいいんだよな。若干nameは不快そうだったけど、胸を触らなかっただけまだいいだろ。本当は今すぐにでもベッドに連れてってHしたいんだよ。でもこのDVD気になるし、明日は土曜だからな。いつまで起きてようが寝てようが関係ない。

「name…」

太ももをなでまわす手を止めて、もう1回ぎゅっと抱き着く。再び鼻をくすぐるシャンプーのにおい、nameの体温、静かに鼓動する体。

「映画、始まってるよ?」
「name」
「ん?なに?」
「好きだぜ」
「!」
「……?」
「…あ、あたし…」
「言わなくても分かってる、オレにぞっこんなんだろ?」
「ぞっこんて古っ!……間違ってない…、けど…」
「だろ?」

オレ今すげー幸せ。
あ、美味くないビールここにあった。ぬるくなって不味くなってる。でも、そんなことどうでもいい。



シャンプーの香り、それから抱擁

(うわああああああなにこれモザイクかかってないじゃん!)
(オーバの野郎…ちょっとどころのスプラッタ系じゃねぇぞこれ…)
(無理!これ無理!デンジー!)
(…まぁ、結果オーライか)
PREVTOPNEXT
- ナノ -