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今、ハートをオンにした

「あー…確かこっからメンドーなんだよな…」
「へ?」

押入れを片づけてると懐かしいゲームが出てきたから、name片手に久しぶりにプレイしている。
勇者が仲間と一緒に世界の平和を乱す魔王を倒すベタベタなゲームだが、それが燃えるんだ。電源を入れたら結構終盤でセーブしていたことが発覚した。いや、ここから面倒になるから止めたんだろうけど、昔のオレの面倒臭がり様には笑えるぜ全く。つーかこのゲームのシナリオはそんなに長くないんだけどな。

今日はジムも休みでnameも休み。どこにも出かける予定がなかったから完全にオフモード。nameはすっぴん、オレはメガネをかけている。普段はコンタクトなんだけどな。ガキの頃から改造とゲームしかやってないから目は悪いんだぜ。

「なんとなくは思ってたけどデンジってゲームも好きなんだね」
「あぁ、有名なハードとソフトはほとんど持ってるぜ」
「そんなドヤ顔されても」

どやっ。そんな擬音語が似合う顔だったんだろうな。
nameはゲームの知識は皆無だが、オレがプレイしてるゲーム画面にくぎ付けだ。42インチの大画面でやるロールプレイングゲームは結構迫力あるぜ。ちなみにnameはオレの左腕でホールドしてる。

「えーと確かこっちに行ったら落ちちまうからこっちに行くんだよな…あ゙」

ヒューという電子音と共に主人公一行は下のフロアに落とされた。

「くっそー…違ったかー…!」

いやもう1回。あっちに行けないならあっちに行けばいいんだ。慎重に、ドットずれにも警戒しながら恐る恐る十字キーを押す。おっし予想通りだこのまま進めっ…あぁ…。

「さすがシリーズ最凶のダンジョンって言われてるだけあるな…」
「ふーんそーなんだー」

棒読み+早く進めてよーみたいな目でオレを見てくるname。そんな目で見ないでくれ。恥ずかしいじゃねーか。

よっし、あそことあそことあそこで落ちたんだからあそこら辺を避けて行けばいいんだよな。ドキドキしながら十字キーを恐る恐る押して勇者たちを進める。…よしよし、次のフロアに行けたぞ。あとは正規ルートを記憶を頼りに進んで行くだけだ。それでこの最凶ダンジョンとはおさらばだぜ!…ラスボスが待ち構えてるけどな。

着々と正規ルートをたどっていく。途中でエンカウントするザコ敵がウザいが逃げるに徹する。この後登場するラスボスとその他魑魅魍魎を倒すのに無駄はHPとMPは使えねぇ。

「あ゙」

ウソだろ…正規ルートをたどっていくだけでも大変なのにここまで来て落とし穴もあるのかよ…。さっきの落とし穴地獄の再来だぜ…製作者の笑い声が聞こえる…いや、左隣からも聞こえる。

「……っ!」

手を口に押し当てて笑いを堪えているのはname。この野郎自分がやってないからって笑いやがって…。

「痛い痛い鼻摘まむな!」

オレの 鼻を摘まむ こうげき!
nameに 30のダメージ!

…なんてな。

「いいから黙って見てろよ」
「もう!」

鼻を擦りながら再び画面に目を向ける。
主人公たちは足踏みをしてオレのコマンド入力を待っている。ザコ敵を無視しながら出口まで進める。周りこんできた敵には勇者の剣攻撃と魔法使いの爆発魔法をお見舞いしてやる。あーあ、もう落とし穴には引っ掛かりたくねぇな。

よし、正規ルートをたどっていってついに出口だ!これで残りのギミックを解いて、ラスボスの手下をぶっ飛ばしてラスボスを倒してエンディング!…だったんだが、

つうこんの いちげき!
勇者は 150ポイントのダメージを 受けた!
勇者たちは ぜんめつした!

「………」

力が抜けて、コントローラーはガコンと床に力なく落ちた。痛恨の一撃とかオレのやる気に痛恨の一撃だぜこの野郎!あとちょっとでラスボス倒せたのによー!

はぁと溜め息をつく。ふと、左側から穏やかな寝息が聞こえてきた。

「……」

自分がやらないものだから飽きたのだろうか。口がちょっとだけ開いた間抜けな寝顔だ。ぽてっとした唇が妙にエロく見える。指で唇をいじってみる、柔らけぇ…。そんで視線を落としたら…うむ。コイツ無駄にやらしい体つきなんだよな。そそられるぜ。

教会で指示を待つ勇者たちを無視してハードの電源をオフ。オレのスイッチはオン。唇を指でいじられたnameの目もスイッチオン。平和になった世界で結ばれる勇者と姫のように愛し合いますか。


今、ハートオンにした

(こんな明るいうちからするって何考えてんだこのけだもの!)
(いいじゃねーか、ぱふぱふしてくれよ)
(誰がするか!バカデンジ!この変態!)

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