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ダイヤモンドになって!

キリ番企画「背景にはシンデレラのお城」の続きです。

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『なぁ…ケーキまだ取りに行ってないって言ったらどうする?』
『え、まだ取りに行ってなかったの!?』
『実は…』

って会話があって、ちょっとだけ小言を食らって今、夜の散歩がてらケーキ屋に取りに行くことになった。雪が降ってて寒いから2人ともコートからマフラーやらで着込んで出発。

「うーやっぱ寒いね」
「あぁ…」

この時間はちょうどイルミネーションが1番キレイな時間だから、こうやって出掛けるのも悪くないよな。本当はケーキ食べたあとにイルミネーションを見に行こうとしてたんだが…すっかり忘れていた。というかnameが取りに行ってくれてるものだと思ってた。意思の疎通ができてなかったのは反省点だ。

「あ、このイルミネーション!」

nameが指差したのは、オレの部屋のベランダから望める城をモチーフにしたイルミネーション。

「へー、近くで見たらこうなってるんだ…」
「あぁそうか。nameの通勤ルートじゃあここは通らないのか」
「うん。あたし全部のイルミネーションの中でこれが1番好きだなぁ」
「そっか、サンキュ」
「え、サンキュって…。もしかしてこれデンジが作ったの?」
「あぁ、一応…な」
「へー、そうだったんだ…」

これはオレが一から考えたモノだ。オレの部屋のベランダから、どうやったらキレイに見えか考えに考え抜いたんだ自信作。こうやって近くで見てもキレイだな。何より、nameに言ってもらえてかなり嬉しい。

立ち止まってイルミネーションを堪能してたが、気づいたら人がかなり集まっていた。家族あり友達あり、それから…カップル。ほとんど全てのカップルは手を繋いでいる。それも普通に繋ぐんじゃなくて、指を絡めて握る恋人つなぎ。
クリスマス効果だからだろうか、それともそのラブラブなカップルに触発されたからか、無性にnameと手を繋ぎたくなった。

「name」
「ん、なに?」
「ん」

オレもnameも寒いから手袋をしているけど関係ない。とにかく繋がっていたいから手を差し出した。

「じゃあ、手袋取ってよ?」
「え?」
「だって…デンジの手、好きだから…」

ちょっとだけビックリした。nameからそんなこと言われるなんてな…。そう言ったnameは右の手袋を外して手をオレに出している。オレは急いで左の手袋を外して、手袋でほんのり温まっていたnameの手を握った。指を、指と指の間に絡めて。
寒いから頬と鼻が赤くなってる。けど、赤くなってるのは寒いからだけじゃないような…。

「name…」
「デンジ…」
「よー!デンジにnameー!」

あーもうなんでこの男は空気をブチ壊すのが得意なんだよ…。趣味か?趣味なのかこの野郎。

「やっぱりな、ここにいると思ったぜ!」
「オーバ…とバク?」

今日もアフロは赤い。さらに赤く見えるのはクリスマス効果か?ヤツの隣にちょこんと弟のバクが立っている。弟のためにここに来るってのはいい兄貴だなって思えるけど、今オレにとってはな。

「今日は一層とアツいねぇお2人さん?」
「うるせぇよ」
「なぁなぁ、あのツリーの噂知ってるか?」
「はぁ…知ってるっちゃ知ってるけど」
「聞いて驚け、オレは遂に見つけたんだぜこれを!」

あのツリー…ナギサのメインイルミネーション。今オレたちのいる城のイルミネーションの向こう側に鎮座して、クリスマスの夜を彩っている。
んで、オーバの手にあるのは短い金のモール…。チマリが言ってた『金のモールを好きな人の左手の薬指に着けると結ばれる』って噂の金のモール…。なんでコイツが見つけてるんだよ!オレも欲しくてジムの帰りにチラチラと探したけどなかなか見つからなかったのによ!

「だーれに渡そっかなー」
「オマエには無理だって。つーか渡す相手いるのかよ」
「なんだと!?」
「はいはいケンカはやめる!」

いつもの口ゲンカが始まる前に、呆れたnameが仲介してくれた。

「クリスマスにまでケンカするって、兄貴もデンジも子どもだな」
「ホント、バクの言う通りね」

バク、それはオレの名前が余計なんじゃないか?つーか子どものオマエに言われたくねーよって言いたいけど、そしたら『同レベルってことでしょ』ってnameから言われるのが目に見える。

「兄貴行こうぜ。あんまり2人の邪魔しちゃいけないし」
「おっと!そうだったなー。じゃあなーデンジ!name!いい夜をなっ」

コイツ、バクっていう純粋な子どもの前でそんなことをいけしゃあしゃあと…。あーあのニヤニヤした顔がムカつくぜ。

「ったく、バクがいる前であんなこと言ってんじゃないわよ」

遠ざかって行く赤いアフロ。中が暖かそうだからアイツのアフロっていいよな。いや、それよりもモールだよモール!なんでアイツは見つけられてオレは見つけられないんだ?つーか、そんな頻繁に落ちてくるんなら飾り付けが甘いってことになるよな。でもそれはそれでオレの設計ミスってことになるし…。

「ねぇ、何探してんの…?」
「えっ」

あまりにも地面をキョロキョロしてたからnameに怪しまれたみたいだ。

別に、オレたちはもう付き合ってるんだし、そんな噂なんてオレたちには意味がないって分かってるけど、オレは今、無性にnameにモールの指輪をはめてやりたい。なんでだろうな。ただイルミネーション見てケーキを食べてプレゼントを交換して…って、在り来たりなクリスマスにしたくないんだろう。何か思い出に残るようなことをnameにしてやりたいんだ。キザだけどさ。

「は、早くケーキ取りに行くか!寒いし!」
「デンジが探してるのって…これ?」
「え」

nameの右手には、さっきあのアフロが持っていた金のモールが…。

「なんでnameがそれを!?」
「え、そこにあったけど…」

それじゃあオレの探し方が下手だったのか。あーあ、今ここでオレが見つけてれば、nameの指にはめてやれたのに。

「デンジ。手、出して」
「え、あ、あ?」

されるがままに左手を掴まれ、何をされたかと思うと…。

「さっきオーバと話してたのってこういう噂でしょ?」

オレの左手の薬指には、金のモールをあしらった指輪が。

「チマリから聞いたよ。好きな人の左手の薬指に金のモールで作った指輪をあげたら両思いになれるって。あたし達はもう付き合ってるからそんなの必要ないと思ってたけど、もしかしたら今以上に好きになれるんじゃないかなって…」

まさか。こういう展開になるなんて思ってなかった。というか、nameも同じこと考えてたなんてな…。
モールの指輪はちょっとチクチクするけど、どんな高価な指輪よりも輝いている。

「なんて、ちょっとくさかったかなー?」
「name…」

人前なのにぎゅうっと強く抱き締めた。そんなこと言われたらマジで今以上に好きになるだろ。周りの目とかもうどうでもよくなるくらい、nameのことが愛おしい。

「デンジ…」
「ありがとな、name。愛してる」

と、冷えきった唇にキスをした。ちょっと人が見てる…ってnameが小さくつぶやいたけどいいだろう?それだけnameのことをもっと大切にしたいと思ったのだから。誰にも盗られたくないと思ったのだから。オレだけのnameでいて欲しいのだから。

「メリークリスマス、name」
「うん、メリークリスマス」

いつかこの指輪が、本物の指輪になったらいいな。この降り続く雪の輝きみたいに。


ダイヤモンドになって!

(つーか誰だよ、この噂流したの)
(さぁ…チマリはオーバから聞いたって言ってるけど)
(流したのがオーバだったら、モールを見つけてあんなに喜ばないだろう)
(でも、他に流しそうな人いる…?あ)
(マスター)(マスター)

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