それは突然やって来るT
あたしの会社は飲むのが大好きでしょっちゅう飲み会(つっても1ヶ月に1、2回程度)が開かれる。
今日も飲み会だった。で、ただいま午前1時すぎ。終わるのが遅すぎだっての。つーか明日も仕事なのに何やってるんだかあのバカ上司。
酔っ払った部下を家に送って帰路に着く。目的地は自分のマンション。
もう夜中。いくら護身術を身に付けてるとは言え不安だ。なるべく明るい道を通って家に急ぐ。それでも不安は消えないから、ある人物に電話を掛けた。
「もしもしデンジ?」
『おう、どうした酔っぱらい』
「酔ってない!」
携帯で大声で電話しながらだと防犯に効果ありって言うからね。
彼の部屋で同棲してるんだけど、今日は飲み会会場に近い自分の部屋に帰る。
『どうした?』
「ううん。夜道危ないから電話した」
『こっちに帰ってくればいいのによ』
「だってポケモン達寝ちゃってるし、こんな夜中に来られても迷惑でしょ?」
『別にいい。来い』
「だーめ。それにもう部屋に近いし」
『じゃあ明日は絶対来い。分かったな』
「うん。会社帰りに行くね」
誰かと話してると時間があっという間に過ぎる。それに伴って部屋までの距離も縮まる。もうマンションが目の前だ。
「あ、マンション着いた」
『そうか。明日も会社でデスクワークなんだろ?寝坊して遅刻すんなよ』
「大丈夫だよ。付き合ってくれてありがとね」
『また何らかの形でお礼してもらうからな』
「すーぐそういうこと言う」
デンジは何かにつけて「お礼」って言う。金銭的なものじゃなくて、体で奉仕的な…。
『あーっ風呂入って寝るかなーっ』
伸びをしながら言ったデンジ。今日もジムを改造して疲れたのかな?てか挑戦者は…?
「うん。じゃあおやすみ」
『あぁ、おやすみname』
電話を切って視線を上げるとマンションのエントランス。
セキュリティのロックを解除して自分の部屋のフロアまでエレベーターで上がる。
目的フロアのボタンを押してカバンの中の鍵を探す。手には財布、携帯、手帳、化粧ポーチの感触。あとは会社で貰ったガムやらなんやら。
あれ?鍵…。
もう1回よく探す。手帳財布ポーチガム財布携帯。
あれ?
そうこうしてる内にポーンと軽い音がしてフロアに到着した。歩きながらガサゴソと探す。携帯ガム財布手帳ポーチ。
…あれ?
カバンを揺らして鍵の音を確認する。部屋の鍵と会社のロッカーの鍵とデンジの家の鍵と固い素材のキーホルダーだからカチャカチャって音がするはず。なのに鳴らない。
……マジで?
部屋は目の前なのに鍵がない!入れない!ドサーッとカバンを逆さまにして全部出して確認する。
………ない!
ドアはこんな近くにあるのに鍵がないから入れない。信じらんない!
こうなったら針金でピッキング…いやそんな技術は持ってない。
ポケモンたちに鍵を壊してもらう?いやそんなことしたら莫大な修理代を請求される…。てかみんな寝てるし。
どうしよう。帰ったらアルコールが混じった汗を流して気持ちよく寝ようと思ったのに。
いや、それ以前にこの服を脱げないし靴も脱げない化粧落とせない。クーラーの風にも当たれない。
管理人に連絡しようにももう夜中。ってことは、朝になるまであたしはこのまま…?近くにホテルも銭湯もない、てかこの時間に開いてない。
どどどどどっどうしよう…。
ピカッと脳にプラズマが走る。
デンジだ!デンジに連絡してそっちに行っていいか聞いてそっちに行こう!そしたら温かいお風呂もふかふかの布団もある!
でもさっきは行かないって言っちゃった…けど今はそんなこと言ってる場合じゃないか。
携帯の電池はあと半分。
履歴からデンジに電話をかける。しばらく呼び出し音が鳴って、止まったと思ったら電子化された女の人の声。
『ただいま電話に出ることが出来ません。ピーッという発信音のあとに…』
そっか、「風呂入って寝る」って言ってたからお風呂入ってんだ。なら出てくるまで2、30分かかるな。
夜明けまで待つよりか遥かにマシだから出てくるのを待とう。出てきたら電話を掛け返してくれるよね。
それからエアームドには悪いけど、起こしてナギサシティまで飛んでもらおう。
ってことでエントランスのベンチに座って時間を潰す。
しかしどこに鍵を忘れたのだろうか。道に落とした?それとも店に忘れた?そうだったら結構厄介なんだけど、道でも店でもカバンを探ってないし開けてない。
だとしたら会社か…。着替える時にロッカーの鍵を開ける時に鍵を使ったからもしかしたら刺しっぱなし?
いやいやそんなわけ………そんな気がしてきた。
絶対そうだロッカーに刺しっぱなしだ!なんとなくそんな記憶がある!
なんで鍵を刺したら取るっていう基本的なことが出来なかったんだろう。
てか、そんなバカなミスのせいでこんなことになったってデンジに言ったら絶対バカにされる、目に見えてる。デンジはそういう奴だからな!