唯一無二の王子様と天衣無縫なお姫様

私の心を照らしてくれる人

「えっ、クリスマスパーティー?」

 せやで! と私の目の前にいる弾ける笑顔のアカネちゃんは、いつもの服装とは違う真っ赤なサンタさんの衣装を着ている。綺麗なラインの二の腕が強調される真っ赤なワンピースの下には、アカネちゃんの元気さを象徴する白いホットパンツ。袖やネクタイのもふもふとヘアピンは新しいバディの冬のメブキジカとお揃い。女性のサンタさんがいたらそれはアカネちゃんのことだってパシオのみんながそう思うんじゃないかな。そんなアカネちゃんは私がパシオに来て初めての……ううん、国の外でできた初めての友だち。

「ミカンちゃんのデンリュウの元気がなくてな、パーッと盛り上げて元気づけようって作戦なんや!」
「元気がないってどうして?」
「体は元気なんやけど精神的な問題ってクルティさんが言ってたんや。めっちゃ人が集まってワイワイ盛り上がったら気分も自然と上がる思うてな! なっ? ナトリー頼む!」

 パンッ!と両手を合わせて、まるで「懇願する」という言葉がピッタリなくらいにアカネちゃんは目をギュッと閉じて頭を下げている。大切な友だちの頼みを聞かない理由はない。そう私の隣にいるエネコロロとアイコンタクトを取った。

「もちろんよアカネちゃん! 私で良ければ参加させてほしいな」
「おおきにナトリー! さすが一国のお姫様は器がちゃうねんな!」
「いや国とか姫は関係ないよ……」

 表情も声色もテンションも何もかもがクルクルと変わっていくアカネちゃんとは一緒にいて本当に楽しい。何事も一生懸命で、そこにいるだけでみんなが元気になれる。今はミカンさんとそのデンリュウのために全力を出すアカネちゃんは、とっても眩しく輝いて見える。アカネちゃんががんばってたり楽しんでたりするところを見ると、なんだか元気をおすそ分けしてもらってるみたいに思えるんだ。

「ほんなら約束の時間にあのでっかいツリーの下で待っとるで!」
「あっアカネちゃん待って!」
「んん?」

 走って急いでるアカネちゃんを呼び止めてしまった。どうしても聞きたいことがある。「パシオの」イベントには欠かせないあの人のことだ。

「あのその、ら、ライヤーさま……たちって、もももももしかして声かけたりり」
「あぁ、ライヤーたちなぁ。あの人らにも声はかけてみるけど忙しー人たちやからどうなるかわからんわ」
「そ、そう……それならよかっ」
「なんやナトリー? もしかしていよいよ今日ライヤーにコクるんかぁ?」
「コクっ!? こくこくこくこくるなんてそんなちが」
「はっはっはっ! 照れんでえぇんやで!」

 「約束ポカしたら許さへんよー!」と言ってアカネちゃんは行ってしまった。あっという間に小さくなっていくアカネちゃんの背中。腰のベルトを誂えた赤いカバンが揺れている。

 どうしよう。クリスマスパーティーなら何かプレゼントを持っていった方がいいのかな? パーティーの目的は「ミカンさんのデンリュウを元気づける」ためだから、デンリュウに何か元気が出るようなプレゼントを持っていった方がいいのかな? そうするならミカンさんにもプレゼントを贈りたいし、それならパーティーに参加してるみんなにも……ううん、どれだけの人がいるかわからないし……。あぁもうどうしよう! でも、アカネちゃんにだけは絶対にプレゼントを渡したい。パシオに来てからずっと私と仲良くしてくれて心配してくれて、時には泣いてくれて……。

「エネコロロ、どうしよう……」
「ネーッネーッ」
「……そうよね。的外れなものを贈って場の空気を白けさせたくないし、パーティーが終わってからこっそりアカネちゃんに渡そっか」
「ネッ!」

 となれば早速プレゼントを買いに行かなきゃ。エネコロロに行こうと言って私たちはセントラルシティで1番大きな雑貨屋さんに急いだ。アカネちゃんはどんなプレゼントを贈ったら喜んでくれるだろう、どんな顔をして、どんな言葉で喜んでくれるだろうってずっと考えながら。



「まだパーティーやってるかな……!?」

 すっかり遅くなっちゃった。クリスマスシーズンで雑貨屋は人でごった返しているのをうっかり失念していたし、どんなプレゼントがいいか悩んでたらこんなに暗くなってしまった……。ということで、今私はエネコロロをボールに戻して全速力でパーティー会場まで走っていっている。せっかくアカネちゃんが誘ってくれた約束のパーティー。きっとアカネちゃんは私とエネコロロが来るのを待ってくれている。もうずいぶん長く走って体が疲れたって言ってるけど、早く早くと急ぐ気持ちが足を前へ動かす。プレゼントを抱える右腕が不思議な力に守られているように感じる。

 すると、パーティー会場の目印である大きな大きなツリーが見えてきた。太陽はすっかり沈んで空は眠っているのに、ツリーの灯りでそこだけ眩しくて賑わっている。よかった間に合ったと胸を撫で下ろす気持ちになったとき、私の目にぐずぐずに泣いているアカネちゃんが写る。

「アカネちゃん……?」

 どんなに疲れても動き続けた足がぴたりと止まる。アカネちゃんとその周りをよく見ると、状況がなんとなくわかってきた。困ったように笑うミカンさんに抱きついてぐずぐずに泣いていて、クルティさんがミカンさんの側にいる。デンジさんやエリカさん、そこにいるみんなが安心したように笑ってるから、きっと……。

「ホンマに心配したんやからなー! デンリュウが元気になってもミカンちゃんが倒れたらアカンでぇぇ!」

 そう精一杯叫んだアカネちゃんはついにえんえんと声を出して泣き始めた。そっか、デンリュウのためにパーティーの準備をがんばったミカンさんが倒れちゃったんだ。それでアカネちゃんは体が裂けるような気持ちになって、あんなに泣いて。

 アカネちゃんは凄い。他の人のためにあんなに泣けるのだから。持ちうる感情を他の人のために一生懸命動かして、感情だけじゃなくて体も一生懸命に動かせる。何がアカネちゃんをそうさせるのだろう。他の人を思いやる気持ち? 他の人が大好きという気持ち? それとも持ち前の底抜けの明るさ? ……きっと、全部。他の人が大好きだから、喜んでもらいたくて元気になってもらいたくて、その明るさでみんなの心を照らしてるんだ。

 私は……アカネちゃんみたいにみんなを元気づけることができるのかな……? そんな後ろ向きな私と比べて、今のアカネちゃんは目がくらむほど眩しい。あの輪の中に入ってしまうとみんなを穢してしまいそうで、私の足は雪が積もった地面に貼り付けられたように動かせなかった。アカネちゃんへのプレゼントはぎゅっと抱きしめて。

「おっ、こんなところにいたのか」
「ひゃっ!?」

 意識がふわふわと遠くに旅立とうとしているところに、突然男の人に声をかけられて体がビックゥッ!と跳びはねてしまった。その方はデンジさん。シンオウのナギサシティジムリーダーだ。

「おーいアカネー! ここにいるぞー!」
「ナトリー! そこおるん!?」

 ドドドドドという効果音が聞こえてきそうな勢いでアカネちゃんがやってきた。デンジさんが押し除けかれたと思った次の瞬間、アカネちゃんが私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「なんでパーティー来てくれんかったん!? ずっと待っとったんやで!」
「……ごめん。プレゼント選ぶのに時間かかっちゃって……」
「プレゼント?」

 すると、私の体を締め付けていたアカネちゃんの腕の力が緩む。押し潰されることになっていたプレゼントが開放される。アカネちゃんのメブキジカと同じ白い袋、アカネちゃんの服と同じ赤色のリボン、緑色の柊木でクリスマス感を演出しているラッピングだ。

「これ。受け取ってほしいの」
「うちに……!? ぐずっ、嬉しいわぁナトリー! ありがとな! 開けてえぇ?」
「うん」

 スルッとリボンがほどけて開いた袋から、ふわふわのマフラーが取り出された。それは優しい色合いの七色で、元気いっぱいなアカネちゃんにぴったりだなぁと思って選んだもの。アカネちゃんはびっくりした顔のまま目に涙が溜めていたけど、ダムが崩壊したように一気にぶわぁっと溢れ出した。

「ナトリー……うぅっ、うぅっ……うわあぁぁぁぁん!」
「あっ、アカネちゃん泣かないで!」
「うぅっ、ぐずっ、ひっく、だって、こんなん泣くな言う方が無理やぁん!」

 と、また私はアカネちゃんにぎゅっと抱かれた。マフラーを持ったままおいおい泣いて、今までの経験上これは止まりそうにない。そんなに喜んでくれたんだって凄く嬉しくなっちゃった。私にはアカネちゃんのような明るさはないけど、こうして泣くほど感動してもらうことができるんだ。

 アカネちゃん、いつもいつも仲良くしてくれてありがとう。今日もパーティーのためにくるくると走り回って心も体も疲れてるはず。誰かのためにがんばったら、次は誰かに甘えてもいいんだよ。そんな気持ちでアカネちゃんをぎゅっと抱きしめ返した。

「ぐずずっ。おおきになナトリー! めっちゃ元気出たわー! 明日もがんばれそうや!」
「うん!」

 『大泣きするアカネちゃんもアカネちゃんらしいけど、寒い冬にみんなを温かくしてくれる太陽のように弾ける笑顔がもっとアカネちゃんらしくて好き。これからもずっと仲良くしてね。』と書いた手紙はプレゼントの下に眠っている。きっと、アカネちゃんが部屋に帰ったときに読んでくれるだろう。きっと読んだときにまたびえんびえん泣くんだろうなぁ。そう思うとアカネちゃんのことがもっともっと愛おしくなった。

 デンジさんをはじめとするクリスマスパーティーに参加していた人たちと大きなクリスマスツリーが微笑ましく見守ってくれてる中、アカネちゃんと私は手を取り合って友情を確かめ合った。

「若! ここがパーティー会場のようですが……」
「なんだ、もうパーティーは終わってしまったのか?」
「ひぇあぇっ!?」

 アカネちゃんと2人きりの世界にいても、どうしても心も体も反応してしまうこの声は……ライヤーさまだ。アカネちゃんは「おっ、始まったでぇ!」と言うような悪い顔で私を見ている、気がする。さっきまで大泣きしてたのに、このスピード感ある変幻自在さは妙に感心してしまう。

「あー、ビミョーに遅かったかんじー?」
「まぁ仕方ない。新年のイベントの準備で忙しかったからな」
「ライヤー! ここにライヤーと話したいって子がおるでー!」
「しぃぃっ! アカネちゃん声大きい!」


 アカネちゃんへ。大泣きするアカネちゃんも、にっこりと笑うアカネちゃんも、いたずらっぽく笑うアカネちゃんも、みんなみんなアカネちゃんらしくて大好きだよ。またアカネちゃんに伝えたい気持ち……私の宝物が増えたみたいで凄く幸せだよ。

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