嘘のような本当の話
4月1日はエイプリールフール。ここパシオでは、昨年はブレイク団にポケモンセンターを乗っ取られた記憶がある。エイプリールフールが終わるといつの間にか撤退していたみたいだけど、なんの予告もなしにブレイク団に占拠されるなんて心臓に悪すぎる……まぁ予告があって占拠する悪党なんてこの世にほとんどいないけどね。
さて、今年のポケモンセンターはどうなってるのかなと、私は期待半分不安半分のドキドキで開いた自動ドアをくぐった。すると、去年の驚きとは違うベクトルの光景が広がっていた。なんと、そこにいるバディーズたちがみんな2人ずつになっていたの!
「……へ!?」
同じノーマルタイプのバディーズのアカネちゃんが2人、リビングレジェンドのレッドさんが2人、はんなり美人のマーシュさんが2人、熱血炎使いのオーバさんが2人……ゲーチスとフラダリが2人になっているのを見たときはこの世の地獄かと思っちゃった。あと、サクサさんのコーヒーショップの前で2人になったヒロコさんに両腕をサンドイッチされて満更でもなく笑ってるダイゴさんも見た。
「ナトリー見てやー! うちが2人になってしもうたんよー!」
「あっ、アカネさんとマーシュさん!」
アカネちゃんは私がパシオに来たときからずっと仲良くしてくれているバディーズ。私のバディであるエネコロロと同じノーマルタイプ使いのバディーズで、何かと話が合うの。マーシュさんもずっと仲良くしてくれているバディーズで、お洋服のアドバイスをたくさんしてくれるの。そのアカネちゃんとマーシュさんがそれぞれ2人で、楽しそうに私のところに歩いてきた。
「すごいやろ!? 実はメタモンが犯人やねん! どこからともなくやってきてなぁ、たまたまポケセンにおったバディーズに変身してもうたんよ!」
「自分がもう1人……映し鏡みたいで楽しいんよ」
「へぇ……メタモンの仕業だったのね……」
その犯人のメタモンの1匹が、ポケモンセンターの中央で顔を変えず佇んでいる。なるほど、だから2人の内の1人は何も喋らないのね。悪さをしようとする気配はないし、ゲーチスもフラダリもなんだかんだで楽しんでるだけに見えるし。これなら去年よりかは平和なエイプリールフールで終わりそう……。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
この耳に入った瞬間ときめいてしまう声は……ラ、ライヤーさま!? 私が想いを寄せるライヤーさま……と、動揺していたら、向こうからライヤーさまの側近のドリバルさんとチェッタちゃんがそれぞれ1人ずつでやってきた。ドリバルさんとチェッタちゃんはメタモンに変身されてないみたい。
「若! どうされましたか!?」
「ライヤー様ーどったのー?」
「あぁドリバルにチェッタ、ちょうどいいところに来てくれたな。見ての通りバディーズどもがメタモンのせいで皆2人になってしまったのだが……」
「あぁなるほど。やはりメタモンの仕業だったか……」
「でもなーんか楽しそー!」
「害を与える気配はなさそうなので様子見をしているが……困ったことにオレさまもメタモンに変身されてしまったのだ」
「なんと!?」
「ライヤー様がふたり〜!? チョー楽しそ〜!」
「呑気なことを言っている場合ではないぞチェッタ! 大変なのはオレさまが目を離している隙にそいつがどこかに行ってしまったのだ!」
「それは大変だ! 急いで見つけなければ!」
「ゲロ〜めんどーなことになってんなー」
ライヤーさまに夢中になりつつ、3人の会話を盗み聞きしていた私。はぁ、今日もライヤーさまは強くてカッコいい……なんてうっとりしていたら、突然誰かに肩をぽんっと叩かれた。
「えっ? なに?」
次の瞬間、私は言葉を失った。一瞬息ができなかった。だって、肩を叩いてきたのがアカネちゃんやマーシュさんでなく──不敵に笑うライヤーさま、だったから。
声にならない声で悲鳴を上げて、私は倒れてしまった。大好きなライヤーさまのお顔があんな至近距離にあるだなんて、私にとっては一撃必殺だもの……。
「ちょお! ナトリー大丈夫ぅ!?」
「あらあらナトリーはん、なんや楽しそうやなぁ」
アカネちゃんとマーシュさんが心配(?)してくれたけど、全く大丈夫じゃない。息が当たる距離で微笑んでくれたなんて、もう、幸せすぎて……。メタモンが変身したライヤーさまでもこうなるのだから、あそこにいる本物のライヤーさまだったら……私は一体どうなっていたのだろう……。