はきだめとか | ナノ



山坂(ywpd)

2015/11/15(Sun) 16:36






その手の温もりを離せないのはどっち?









「だって、坂道くんが言ったんじゃないか」











手のひらを差し出す。少し震えてる。小さくてかわいい。大丈夫だよって笑ってみせた。

「ああごめんね、手が汚れてた」

ポケットからハンカチを出して汚れを拭う。ハンカチはもう使えないだろうけど、これで俺の手は綺麗になった。

引き寄せた体はあったかくて、ぎゅうっと手を握るだけで途方もなく幸せだ。
それでもまだ少し震えていたけれど、もうなんにも言いたそうにはしてないから、これでいいんだと勝手に納得して路地裏を抜ける。手を繋いだままで家まで帰る。




坂道くんと俺は幼馴染みだった。
家が隣で、親同士も仲が良くて、一緒に遊ぶようになるのは自然だった。坂道くんは大人しくて可愛くて、小さい頃から天使みたいだった。昔は凄く人見知りで、学校に行くだけで泣きそうになってたっけ。けれどとても芯が強い子で、好きなものは好き、嫌なものは嫌と言えて、多少コミュ障だけど凄くいい子だった。当然今もだけど。けれど、集団の子供というのは少しでも自分達と違うとそれをはみだしものとして扱って、つまり、坂道くんは学校でそれはそれは典型的ないじめの対象になった。笑えるくらいテンプレートな、つまらないものを、坂道くんはただ何も言わずに黙って見てた。
坂道くんが大丈夫だよって笑うから、俺もなんにも言わずに汚れた体操着を一緒に洗ったり、上履きを探したりしてた。
学年がひとつ違うから、俺は坂道くんを教室で守ってあげられない。それがすごく悔しかったのを覚えている。




しまったと思ったときには坂道くんは僕の後ろで目を輝かせて僕を見ていて、それで、かっこいいねって言ったんだ。あの綺麗な宝石みたいな目で。すごいね真波君、かっこいい。強いんだねって。おうじさまみたい。ありがとうって、言ってくれたんだ、俺に。その瞬間なんか頭にぴーんときて、ああきっと俺は坂道くんのために生きていこうって思った。とりあえず理由はよくわからないけれど、なんだか坂道くんのために俺が出来ることなら、それで喜んでくれるならなんでもしよう、と。

それからはもうボディーガードの心情で坂道くんにべったりになった。やましい気持ちが全くなかったわけではないけど、だって坂道くんが悲しそうな顔でなく、本当に笑ってくれるなら。
喧嘩の度にかっこいいとかすごいとか言ってくれるのが嬉しくて、調子に乗って、気づいたら、後戻りできない所まで来てしまったらしい。と、気づいても、引き返すには余りに敵を作りすぎてしまったし、それで坂道くんがまた昔みたいに苛められたら嫌だから、俺はとにかく殴り続けることしかできない。
周りには俺の腰巾着とか言われてるみたいだけど、実際は俺が坂道くんの金魚のフンだ。休み時間も下校時間も会いに行って、たまにサボリに引っ張り出す。真面目な坂道くんはちょっと困り顔をするけど、でも何にも言わずについてきてくれるんだ。そうやって甘やかすから、ほら、俺は今日も懲りずにまた舞い上がる。






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