※もしヒロインがE組に落ちていなかったら、という話です。ネタブログでも見たら分かりやすいかも分かりません。
春の陽気は終わりを告げようとしている。そんな時期、椚ヶ丘中は中間テストが迫っていた。湊も空き教室でノートと問題集を広げていた。ただし、一人ではない。湊の目の前には生徒会長の浅野学秀がいる。
「うん、成長してきたじゃないか」
「そりゃこれだけ問題こなして、学秀君が教えてくれるからね……」
乾いた笑いを口から漏らし、湊は遠い目をした。浅野は当然だというように微笑んでいる。
湊は平凡なC組。浅野は特進クラスのA組。接点は一年の頃同じクラスであったといことくらい。しかも席が一度隣同士になった、そんな程度だ。何故そんな二人が共に勉強しているかというと、恋人同士だったからだ。もっとも、湊は甘い言葉なはずのそれに疑問しか感じていない。
選択肢がはいかYESしかない告白をされ、いつの間にかキスをされ、無理矢理デートの約束を取り付けられる。湊の描いていたリア充像と全く違う。周りの生徒には陰口や痛い視線を浴びせられ、友達ですら不思議がられる。何故なんて湊が教えてほしいくらいだ。
「僕の彼女なんだから、湊には成績良くなってもらわないとね」
「……まあ、理数最近分かってきたし、恥かかせないようにするよ」
「頑張ったらご褒美でもあげよう」
「え?」
ご褒美。その言葉につい反応してしまう。単純な湊に笑いながら、浅野は湊の唇に人差し指を押し付けて言う。
「頑張ったら、ね」
とても十五には見えない、色気たっぷりの笑み。未だに浅野を本当に好きになれないとはいえ、湊には耐性がない。頬を朱に染めて固まった。そんな湊を見て浅野はくつくつと喉を鳴らす。
「今の君、とってもいい顔してるよ」
誰のせいだと思ってるんだよ、この腹黒イケメン野郎。湊は心の中で悪態をついた。
中間テストが終わり、結果が返された。浅野は学年一位。湊は、
「やった……十五位!十五位だよ学秀君!」
理数が足を引っ張って中の中か中の下だった湊が大躍進していた。返却された日の放課後、浅野と二人きりになった湊は彼へ満面の笑みを向けていた。浅野は一瞬呆けた顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。
「……当然と言えば当然だけど。頑張ったね、湊。約束通りご褒美をあげるよ」
そういえばそんな約束をしていた、と湊は我に返る。何をくれるのだろう。期待せずにはいられない。
「今度の日曜日、君の行きたい場所に行こう」
「へ」
「この間、美術館に行ったら興味なさそうだったじゃないか」
いや、それは興味ない画家だったからというか、ある意味楽しかったけど、私の知ってるデートじゃないっていうか。などと言えるわけもない。
物だと完全に思っていた湊は拍子ぬけしてしまう。ただでさえ息が詰まるのに、またデートなんて湊のライフが削られる。だが以前より浅野に慣れた湊は、彼なりの譲歩なのだろうと思い答えた。
「うーん、じゃあ、海に行きたいな」
「……海?この季節に?」
「いや、泳ぐんじゃなくてさ。見に行って散歩するだけ」
「そんなところでいいのかい?お金がかかるところでもいいんだよ」
「私が行きたいところだからいいよ。ダメ?」
浅野は不思議そうにしていたが、分かったと頷いた。そして嬉しそうな湊を見つめ、言った。
「湊はやっぱり変だ」
「は?何で?」
いきなり変だと言われて戸惑う。何故そんな風に言われなければならないのだ。
「他の女子ならきっとショッピングだの何だの言うのに」
「別に興味ないし。学秀君だって付き合いたくないでしょ。それに、私海好きだし。それくらいで変だなんて言われたくないんだけど」
「…………いや、やっぱり変だ」
「はあ?」
湊に睨まれるが、浅野は気にしていない。
――――だってこんなにも僕の心を締め付けて、僕の頭を君でいっぱいにさせてしまう。やっぱり君は、おかしい。僕は君を支配するべきなのに。
黙ったままの自分を放り、テスト結果に微笑む湊を見て、浅野はそんなことを考えていた。
恋とはどんなものかしら
調子乗ってネタの続きみたいな精神IF書きました。カルマ君も出ているとは思いますが、おそらく学秀君優勢でしょうね。ヒロインはいろんな意味で勝てないので別れられません。けど、あまり嫌いではないかと。
本編でもそろそろ彼のいいところ見せたいところです。どうでもいいですけど本編より病んでない感じがしますね。
タイトルはモーツァルトより。学秀君ですね。本編と同じく恋とまだ認めてません。