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・君を名前で呼んだ日


「そういえば、湊は渚のこと苗字で呼ぶね」

梅雨明けのある日のことだった。ほぼ冷凍食品の弁当を食す湊へ、カエデが言った。

確かに湊は渚を『潮田君』と呼んでいた。湊としてはカルマでさえ『赤羽』と呼んでいたのだから、渚でも名前でないのはおかしくないことだと思っていた。

「なんで?別にいいじゃん。ねえ、潮田君」

「うん、構わないと言えば構わないんだけど…他の皆が渚だから、変な気分になっちゃうな」

近くでカルマや杉野と食べていた渚が苦笑する。湊はむしろ名前で呼ぶ皆の方が変だと思うのだが。

「なんで皆は苗字じゃないの?」

「潮田より渚のが言いやすいに決まってるじゃん」

突然会話に加わる中村。そういうものなのだろうか。例えクラスメートであろうと、異性に気安く名前を呼ばれるのは違和感がある。湊は氷を入れまくったおかげで冷えた麦茶を飲みながら首を傾げた。

「カルマ君だって前は赤羽だったしねー」

「そうそう」

「あ、でもカルマ君は湊に他の男子の名前言われるの嫌だったりする?」

当人の知らぬところで勝手に話が進んでいる。そしてカルマに話を振ると面倒なことになるので、湊はやめてほしかった。カエデはそんな湊の思いを無視してカルマへ尋ねた。

「うーん、嫌だけど…渚君なら安心だからいいかな」

「僕に限らず、誰もカルマ君から黒瀬さんを奪おうなんて命知らずな奴はいないと思うよ…」

どういう基準なのか。友達への優しさなのか。湊は最後のゼリーをかきこみながら、眉をひそめた。ゼリーを空にして、湊は渚へ言った。

「じゃあ、これから渚君って呼ぶね」

「うん。ありがとう、黒瀬さん」

……渚は女子に間違えられやすいらしい。湊は骨格や声、格好ですぐ分かる気がするのだが。しかし、今にこりと笑った彼は、確かに少し女子に思えた。




・その好奇心はいらなかった



「黒瀬さん、黒瀬さん」

休み時間。湊のお気に入りの作家が新刊を出したので読みふけっていると、律が突然話しかけてきた。仕方ないのでしおりを小説に挟んで閉じる。

「何、律?」

「先日、ツンデレの意味を理解したのですが…××デレというのにも、様々な種類があるのですね!」

「君はなんつー知識を吸収した!?」

きらり輝く笑顔で言う律。しかしその言葉は色々とすごい。まさに二次元を体現した少女がそんな単語を吐く日が来ようとは。湊はすでに頭が痛くなってきた。

「ツンデレクーデレヤンデレボコデレetc.…ツンデレの資料を探したところ、このようなものが出てきました」

「探さんでいいんなもん!」

「ですが、私は人工知能ですので…あらゆる分野の知識を吸収し、暗殺に役立てたいのです」

「明らかにそんな知識暗殺に役立たなくね!?」

律の言動に逐一突っ込む。談笑していたり予習したりと各々の時間を楽しんでいたE組が、なんだなんだと次第に二人へ注目し始めてきた。

「黒瀬さんの普段の様子を観察していますと、いわゆるツンデレ行為はカルマさんのみなので、正確なツンデレではないと判断しますが、いかがでしょう?」

「そういう冷静な観察結果いらんから、マジで!」

ここにカルマがいなくてよかったと、湊は心底思う。ちなみに彼は飲み物を買いに自販機へ向かってしまった。次の授業はサボるつもりなのだろうか。

「そういえば、黒瀬さんに聞きたいことがあったのですが、『俺の嫁』とは何ですか?調べようとしたのですが、殺せんせーからの注文があったため中断してしまったので…」

そんな変な言葉疑問に思わなくてもいいだろう。しかし彼女は先ほど言ったように人工知能、自分の知らないことをなくしたいだけなのだ。湊はため息をつき、頭をかいて、律の質問に答えた。

「んー、理想的な架空キャラクターとかに使う愛情表現、かな。異性がメインだけど、同性どころか人間じゃなかったりすることが多いよ」

「なるほど。では、黒瀬さんの『俺の嫁』もいるのですね?」

「いるっちゃいるけど」

そう言ったときだった。背後に、何か恐ろしい気配を感じた。

「へー、いるんだあ」

おそるおそる振り向くと、そこには背景にゴゴゴとでもつきそうなくらいの威圧感を放つカルマがいた。買ってきたばかりであろう紙パックは握り潰れている。

「か、カルマサン…」

「ちょっとお話しようか、湊」

「えっいや、人間じゃないし!ポケモンだし!!」

「何だっていいよ、そんなの」

「よくねーよ!皆見てねーで助けろください!!」

湊が叫んでみるが、E組の皆は無残にも親指を立て「頑張れ」という視線を送るのみだった。この野郎、てめーら覚えテロ!湊は薄情なクラスメートへ罵った。しかし、一分後、殺せんせーによってすぐに解放されるのだった。




・「大人は汚いのですよ」



「黒瀬さん、すごーい」

「今日のスイーツは作ったの?」

教室でケーキを食べている湊へ、矢田や倉橋が言った。こくりと頷くと、次々に賛美し始めた。

「これレアチーズケーキ?美味しそー」

「黒瀬さんってお菓子得意だよねー、今度私にも作って!」

「うん、それはいいんだけど…」

ちらり。先ほどから強く送られてくる視線を辿る。視線の主は、グラビア誌を片手にこちらを凝視する殺せんせーだった。湊の呆れた目に気づかないほどケーキに夢中になっている。

「あー、殺せんせー甘いもの好きだもんね」

乾いた笑いを漏らす矢田。しかし、この熱視線では食べられない。湊は殺せんせーへ呼びかけた。

「殺せんせー」

「にゅやっ!?し、失礼しました…黒瀬さんのレアチーズケーキが美味しそうで、つい」

殺せんせーは顔を赤く染めて、照れくさそうにしながらも湊の席へ近づいてきた。

「しかし、本当に上手ですね〜。自分で練習しているんですか?」

「レストラン営んでる女の人に教わってるんですよ」

湊は脳裏に黒髪美人を思い浮かべる。巨乳だと付け加えると、紹介しろまたは写真を見せろと言われかねないので、心の中に留めておく。

「なるほど。家庭科の黒瀬さんが組む班はほとんど貴女の独壇場ですものねえ」

「ははは…」

そこで殺せんせーが触手でを差した。

「そこで、黒瀬さん!数学の評価を少し差し上げるので、先生にケーキ作ってください」

『汚いな殺せんせー!!』

「よろこんで」

両隣にいる矢田倉橋を含めたクラスメートに突っ込まれながら、湊は真面目な顔で答えた。


翌日、湊が作ってきたにもかかわらず、殺せんせーに知らん顔をされたのはまた別の話である。







最初は渚君だけのはずだったんですが、短すぎると思ったので一気にネタを詰め込んでしまいました。殺せんせーも、前原君の予定でしたが原作ではメインのくせに全然出てこないので…というか、むしろカルマ君オンリーレベル。すいません。
ちなみに覚えテロは誤字ではありません。ついでにヒロインの嫁はポケモンのクルミルです。俺の嫁です。アニメの可愛さ。何故進化させたし。