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孵化する小宇宙

谷裂が、重傷を負ったらしい。


「……そうなんですか」

「あれ、賀髪冷たいね。もうちょっとびっくりしてあげてもいいんじゃない?」

伝えた木舌は苦笑している。
獄卒である以上怪我を負うことは避けられない。谷裂であれそれは例外ではない。だからそうなんですか、と返す以外なかった。

「罪人が強かったか、あの人が油断したか。そういうことでしょう」

「うーん、まあ、そうなんだけどさ」

他にも何か言いたそうな顔をしている。だがそれから何も言わず、事務作業に戻った。賀髪もそのまま続けた。


書類を二人で肋角に提出し終えたところで木舌が言った。

「谷裂、部屋にいるよ。再生に時間かかってるみたいだし、行ってみれば?」

「は?」

「見舞いに行ったら谷裂も喜ぶんじゃない?」

「そんなわけないでしょう」

「言葉ではそうだけど、内心きっとね」

木舌は言うだけ言って去ってしまった。後を追う気はなかった。#name1#はただ顔をしかめるしかない。

見舞いに行って谷裂が喜ぶ。そんなわけがない。賀髪と谷裂は普段口論し戦闘にまで発展するほどの仲の悪さだ。むしろ見舞いに行ったところで彼のプライドに傷をつけることになるだろう。


だから、きっと寝ているであろう時間帯にやってきた。

ノックしても返ってこないことを知っているのでしない。鍵は何故かかかっていなかった。賀髪は不用心だと思いつつ、ろくに物がない部屋へ踏み入れた。
谷裂は予想通り寝ている。木舌が言うには、右腕と左足はないらしい。他にも刺し傷がいくつかあると言っていた。

「……勝手にですけれど。貴方は、そんな重傷にならないと思っていました」

彼は強い。肋角には劣るが、かなり強い部類に入るはずだ。鍛錬は欠かさず、かといってやりすぎることもなく、怠けることはない。だから何故かそんな風に思いこんでいた。布団で隠れて分からないが、その下はかなり痛々しいのだろう。彼の負傷自体は見たことがあるものの、ここまでは初めてだった。

賀髪は谷裂にそっと近寄った。少し苦しそうな寝顔だ。

「早く、治してくださいね。張り合いありませんから」

あまり長居しても意味がない。自分の部屋に戻ることにした。

「……おい」

だが、それは谷裂の声で止まった。

「……起きてたんですか」

「勝手に入ってきて話していたら嫌でも起きる」

「鍵がかかってなかったんですよ」

「そんなはずは……」

それ以上谷裂は続けなかった。寝ながらではあるが、左腕で頭を押さえている。まだ痛むのだろうか。賀髪も今最悪の気分だった。気づかれないようにしたかったというのに。

「まあ、話せるなら元気そうですね。観に来ない方がよかったです」

賀髪の言葉にふん、と谷裂は鼻を鳴らした。そのまま視線をそらして言った。

「賀髪」

「なんですか」

「……礼を言う」

谷裂が、賀髪へ礼を言った。感謝を全く述べないほど彼は賀髪が嫌いなわけではない。仁義は通す男である。かと言って、やはり言われたことは少ない。賀髪は一瞬目を丸くした。

それもすぐに戻して何てことないように返す。

「……ただ、気になっただけです。早く治してください。おやすみなさい」

おやすみ。閉まったドアの向こうで、そう聞こえた気がした。



数日後、完全に治った谷裂を見た。

「治ったんですね」

「まあな」

「やっぱり、弱った貴方より口うるさい貴方のがいいです」

「おい賀髪」

「やりますか?」

「上等だ」

やはり、この方がいいと思った。




木舌が鍵開けましたって話です。ちょっとずつ近づく二人。
タイトル配布元:リラン様