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そのまま墓に埋めて

賀髪はその日休日だった。陶器のような細い指から出される優雅な所作で紅茶を飲み、本のページをめくる。一旦読書を止め食堂へ向かえば、佐疫と谷裂の会話が耳に入った。

「何かやらかしてないといいがな」

「斬島もお腹減ってるだろうし、急ごう」

任務に向かうのだろうかと横目に見ただけでやめる。休日は休日、任務は任務。そうして分けるべきだ。それに夜も遅くなり始めた。明日は仕事の賀髪にとって、そこまで義理をやる必要もない。木舌の任務を請け負った斬島と田噛、平腹が廃校に行ったと聞いた。佐疫や谷裂もいるとなれば過剰すぎる。

食堂に着くとキリカがまだ帰らずにいた。夕方には帰るはずの彼女がいることは珍しい。

「あら、賀髪ちゃん。どうしたの?」

「紅茶が切れたので、お湯をいただこうかと」

「あらそう。あんまり飲みすぎちゃダメよ」

「ええ。ありがとうございます。……何か作っていたんですか?」

キリカの手元はスポンジとまな板がある。もうとっくに夕食の時間は過ぎていため、先ほどまで何か作っていたことになる。

「斬島ちゃん、お夕飯食べずに仕事に行っちゃったのよ。それで佐疫ちゃんがお弁当作ってくれって」

「なるほど」

男性である彼らには夕食抜きなど耐えられないだろう。優しい人だ。賀髪は冷めた表情のまま思う。

「あんまり遅くならないといいわねえ」

「明日にも支障が出ますからね」

「賀髪ちゃんったら。もう少し優しくしてあげて」

キリカが苦笑する。賀髪はそれには何も答えずやかんにお湯を入れてコンロのスイッチを入れた。

そもそも、油断して亡者に捕らえられた木舌がいけないのだ。そうでなければ斬島たちが行くこともなく、人員と時間の無駄にならなかった。木舌を助けるためとはいえ、肋角さんもあんな人数で行かせることはなかろうに。性格はともかく彼らの腕は信用している。だからこそである。
そんなことを考えていると、湯が沸いた。そのまま持ってきたポットに移し替える。

「またね、賀髪ちゃん」

「はい。キリカさん、また明日」

キリカに背を向けて自室に戻る。朝食の時間になれば帰ってくるだろうか。紅茶を飲む。入れたばかりのはずなのに冷えている気がした。



身支度を整え、朝食へ向かうことにする。瞳に男の姿が映った。

「おや。生きていたんですか」

「ふん。あれくらいで消えるか、馬鹿め」

谷裂が普段通りに紫の目に鋭い視線を携えて立っていた。賀髪は露骨に眉間に眉を寄せる。そしてそのまま嘲笑う。

「まああんな人数で消えた方が馬鹿らしいですからね。その方が笑えてよかったのに」

「何だと?」

谷裂の厳しい目線を物ともせずに受け止めて流す。また喧嘩していると肋角や災藤、もしくはキリカに怒られてしまう。朝食前から無駄な力を使っている暇はない。谷裂も同じことを考えたのか、睨みつけるだけで終わった。そのまま去る賀髪の後を追う。

「後ろを歩くのをやめてください」

「どうせ貴様は前でも隣でもやめろと言うのだろうが。俺もそろそろ朝食を採らねばならん」

賀髪は無言で谷裂の足を蹴った。谷裂の顔が苦痛に歪むが、すぐさま容赦なく賀髪の細い脚に蹴りを入れる。行動を予測していたため避けられる。蹴り返す、避ける、蹴り返す、避けるを繰り返して遅々としながらも食堂へと進む。

それを見つけた瞬間、二人の動きが止まる。キリカに埃が立つと怒られてしまうのだ。気配を感じたのか、キリカがおたまを持ったまま現れる。

「あら、谷裂ちゃんと賀髪ちゃん。今日は一緒なのね。仲良しね」

「「違います」」

「はいはい」

キリカはドスの効いた声音も気にせず受け流す。皿に盛るためまたキッチンへ戻っていく。
キリカが離れた瞬間、お互い視線に殺意を込めて睨み合う。先に賀髪がそっぽを向いてキリカの手伝いへ向かった。谷裂も鼻を鳴らして席に着く。

キリカの隣に立つと、心のどこかで安堵している自分に気が付く。なんだか気持ち悪く感じて、賀髪はキリカに聞こえぬよう舌打ちした。




少し前ですが漫画版が一旦(だといいのですが)完結したので。すごく良いコミカライズでしたね。もう少し鏡のところがボリュームあったら良かったのにと思わなくもないですが。ほぼ全員の「?」があって楽しかったです。
タイトルはそのまま谷裂も安堵した気持ちも墓に埋めて、ということです。